第2話 王様や貴族の金事情

 俺の名前は奥洲天成。

 (今回も)トラックに撥ねられて、女神の前にやってきた。


『それでは、天成さんをフランス・ブルゴーニュ地方の貴族として転生させましょう』

「ま、マジか!?」


 転生ガチャの当たりが来た!

 これで好き勝手……ゴホン、幅広く色々なことができる。

 楽しい経営ライフの始まりだ!


 パァァァ(光が広がる効果音)


 来たぜ!

 おフランス! ブルゴーニュ!

 立派なお城! 美しい庭園! 大勢いる使用人!

 俺は貴族になったのだ!


 っと、何やら物々しいな。

「あれ、ご存じないのですか? 間もなくイングランドとの間で戦争が行われるのですよ」


 いきなり戦争か。

 チートがないのは残念だが、俺には現代から持ってきた知識がある。これを活かせば英国兵などへっちゃらさ。


 とはいえ、来て早々だから、領内の実情を知らない。

 ここは執事に聞いてみることにしよう。

「我が領土からはどのくらいの兵士を集められるのだ?」

「……そうですね。三十人でしょうか」

「三十人!?」

 いやいや、それはちょっと少なすぎないか?

 日本の町内会レベルじゃないか。

「我が領土には人口はどのくらいいるのだ?」

「そうしたものは教会に行かないと分かりませんね」

 ああ、そうか。

 領民とか国民なるものについて行政が管理しているのは、日本とか中国とか戸籍制度のあるところで、ヨーロッパは教会が管理していたのだった。俺って詳しいだろ。

「それでも大体は分かるだろう?」

「三万人くらいでしょうか」

「領内に三万人いるなら、五百とか千人は出せるだろう? 金を出して」

「金?」

 執事の目が怪しく光った。

「そんなもの、ウチにはないよ」

 えっ、金、ないの?

「じゃあ、仕方ないな。借りてくるしか……」


 ということで、金貸しを呼んできた。『ヴェニスの商人』のシャイロックを思わせる、いかにもな感じの悪賢そうな感じの男だ。

「……ということで、せめて二百人くらいは兵士を揃えたいので、金を貸してくれ」

「よろしいですとも。利率はいつも通り25パーセントでよろしいでしょうか?」

「25パーセントぉぉ!?」

 何だその利率は!?

 サラ金より酷いぞ! ソフト闇金じゃねえか!

 金利が20パーセントを超えると、刑事罰が科せられるんだぞ!

「……何のことでしょう? 国王陛下は30パーセントですから、これでもまだまけているつもりなのですけれどねぇ」

「そんな馬鹿な!」



"女神の一言"

 中世から近世にかけて、国家財政というものはイコール国王やら領主のポケットマネーであり、存在しないに等しいものでした。当然、税金やら収益の管理もグチャグチャで、必要に応じて借りることも当たり前なら、返せなくて踏み倒すことも当たり前でした。

 有名な話ですと、スペインのフェリペ2世が三度破産したことなどが有名ですね。ドイツのフッガー家は一時期世界最大の富豪でしたが、借金を踏み倒されて衰退してしまっています。

 ということで、商人も「国王や貴族は踏み倒しが当たり前」と思っていますから、利率はすさまじく高かったのですね。


 国家の放漫財政がマシになってきたのは、議会が国王に優先するようになった英国においてで、それでもやらかすことはありましたが大分マシになったそうです。

 大英帝国として強くなれたのは、財政がきちんと管理され、利率を低く抑えられたのも一つの要因だと言われています。現代日本でも財政民主主義として国会が予算の承認をするのは、こうした経験に基づくものですね。


 中世ヨーロッパ系の領地経営の話において、資金の問題はどうしても避けられないところですが、実際には国王なり領主が「こうする」と言ったくらいではどうにもなりません。

 多分、最初の一年くらいは領内の簿記の勉強で潰れ、そこから領地財政の知識の勉強で更に一年。具体的な財産目録の作成で一年、スタートするのに三年くらいかかるのではないでしょうか。

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