第24話 お腹が空いた。
ベッドに腰掛けて、差し出されるフォークに口を開ける。
皮のパリッとしたチキンの香草焼き
本当に料理の腕が上達した。
一方私は、もう一生誰かに料理を振る舞うことなんてないんじゃないかしら。いつかの為にと夢見たそんな練習はもう意味は無く、気の利いたお世辞を言える様になる方が必要だ。
でも今はそんなことに頭を使うこともなくただ感じるだけ。ああ、とっても美味しい――
「家では食事に手を使う必要もないのか?」
彼は半笑いで付き合ってくれている。
「そんな訳ないでしょ。今は疲れているの、貴方の
「前にも増して
「……」
途端に立場が逆転して、
「未だ足りないわ、霧崎君――」
「何か作ろうか?」
「そんなの待っていられないわ。いいからこっちに来て」
ぐい、と彼の腕を引っ張る。その肌の出た、手首の部分を齧った。
「もしかして
「だったら何?」
「
その指も食む。
甘くていい匂いがする。ような。形容し
なんでかしら。丁度いい温度。噛み心地。
もっと確かめたい。
袖を
「ちょっと、」彼は肘を引いた。「後が怖いから、そろそろ覚めようか」
「嫌」取り上げる彼が恨めしくて口を尖らせる。「貴方まで良い子にしろって言うのね」
「俺は悪くても全然良いんだけど。むしろ推奨派」
「じゃあいいでしょ?」
「いいのか」
納得する彼の今度は首に噛み付く。
邪魔なボタンを外してしまって
咬みづらいので舐めていく。指で触れた時より感じる肉の硬さ。
暗闇で感じる
ただ自分の思うままに
――こんなに食べているのに
全然お腹は満たされない。むしろどんどん空いていく
「霧崎君……もっと欲しいわ。意地悪しないで」
「……食べてもいいってこと?」
「違うわ。食べたいの」
「――お休み、葉那」
「お腹が空いて、眠れない」
離れようとする体にのし掛かって止める。
「俺もずっと空いている」
「食べれば良いじゃない」
「いいのか」彼は何か勝手に納得して。
「もう約束は、終わったんだもんな」
そして首筋を
「愛してる、葉那」
いただきますでしょ、きりさきくんって、ほんとうにへん――
「あっ……やだ、もうそこ、食べないで――」
彼は脚の間――その付け根に被さって、それまで甘噛みして丁寧に食んだ四肢と違って、切り口から直接果汁を啜り出そうとするかのように貪っている。
「やめ、て……」
これじゃ私は食べられないし
でもなんだか、足りない感覚は減っていて
代わりに何か溢れていく。
「あっ」
舌じゃなくてもっと硬い
指か何か差し込まれた様な感覚
股の――どこに?
くりくりと、何で、内側から?
「あ……」
これって――私、もしかして――
「ごめんなさい……」
馬鹿だ――
何をしているんだろう
何をしていたんだろう
これって、これが、
抱くって?
愛されるって?
違う、ただの行為。
「う……」
小さな呻きに合わせる様に、指の感触が引かれていった。
「やっぱり、俺じゃ駄目か」
暗闇から聞こえる彼の声。落胆していて
きっと離れていってしまう
「ちがう……」説明できない否定をした。
「だって……これって、結婚した後の……」
私は、なにも分かっていなかった。
抱かれたいとか抱くとか
愛して、見つめられることの最上表現
少女漫画のページの終わりの先を捲れていなくて
これは
別に愛し合ってなくてもできる
ただの行為。
結婚の先に待っているもの
しないと、いけないもの――
「こんなの……できない」
結婚の先に待っているのは、好きでもない人との、こんな――
「結婚、したくない……」
言葉になって出ていくのを止められなかった。
「何で愛人なんていうの」
「結婚しても、いいなんて」
「こんなこと、されてもいいんだ――」
「愛してるなんて、嘘吐き」
肩を抱いて掬い上げるように起こされた。
「ごめん」
「分かっていなかった。やっぱり無理だ」
「俺が葉那と、結婚する」
「駄目なら誰とも結婚させない」
抱き締められた。とても固く。
もう乱暴には感じなかった。
寄せた頬で涙が交じり合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます