第7話 黄昏少女、異界に逝く


「まあ、そうだよ。コナンも江戸川乱歩への壮大なオマージュ。腸詰殺人をやった少年Aも江戸川乱歩の怪奇短編が好きだったみたいだし」


 僕はサコッシュからとある日焼けた文庫本を取り出す。


「人間椅子っていう短編は本当に滑稽で不吉だ。孤島の鬼は少年耽美の総本山。僕は未読だけど、耽美派の少女の君には打ってつけ」


 黄昏少女の君は通りすがりを装って、腸詰殺人事件の話を引っ張った。


「あたし、腸詰殺人事件の話をするときだけが生きているって実感できるもん。あたしもあの子たちみたいに空蝉となって死にたかった。死ねるなら、彼岸へ逝きたい。誰かあたしを殺してくれないかな。どうせならば、美少年に殺されたいな」


 腸詰殺人事件の首謀者の少年Aはこの令和の時代のダークヒーローになったのだ。


 猟奇的な少年少女のお尻に火をつけたダークファンタジーの英雄でもなったつもりか、と失笑する。


 


 美醜とは関係せず、人の生死に他人のくせに制裁を下す少年Aの気持ちは僕には分からなかった。


 とは言っても、その少年Aも恐らくは死に焦がれ、死に誘導された、死にたがりの少年だったのだろう。


 それならば、こんな僕もあいつと紙一重だった。



「そんなに死にたいなら、僕は余生まで江戸川乱歩を読破してから死にたい。横溝正史もまだ読めぬ『ドグラマグラ』の作者、夢野久作も、小栗虫太郎を始めとする、三大奇書も、坂口安吾の怪奇小説、耽美派の三島由紀夫だって全部、読めちゃいない。活字に囲まれて、死にたいな。ああ、あれもあった。澁澤龍彦も忘れちゃいけない。漫画ならば、ガロ系の怪奇漫画も。どうせ、死ぬならば、老残の醜態を晒してもいい。耽美主義の活字に囲まれて死ぬ」


 僕もまた、一方的に文学談義を延長させた。


「君、お金を持っているかい? 何万円か」


 少女は不吉に頷く。


「ああ、やっぱり。お年玉をはたいて、死ぬ相手を探した君らしいね。じゃあ、異世界の旅へ出よう」


 東京のここからそこに行くためには、百鬼夜行が闊歩する古都へ行かねばならない。


「アスタルテ書房。耽美派の総本山。少年Aになり損ねた僕らが行く異界」

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