イベント当日、人に囲まれて
「ひっ、ひーくん? なんか、いつもより人多くない?」
「いつも参加してるイベントより規模が大きいからじゃない?」
「そっ、それもあるかもだけど……でも、ボク達コミケに参加した時だってこんなに囲まれなかったよ?」
「コミケは……規模が大きすぎて逆に? みたいな?」
「なっ、なるほど……?」
ボクもひーくんもSNSはやっているけれど、フォロワーは三桁もいない。
ひーくんはその気になればもっと増やせそうだけれど、今までにその気になったことはない。
ゆえに、今までのイベントでもボク達が目当てなんて人はいなかった。
写真を撮ってもらえることはあっても、それはあくまで偶然見つけたからだった。
それが今日はなぜか、どんどんと人が増えてきている。
みんな手にしたスマホを確認しながら、ボク達を探しているようにさえ見える。
「やっ、やっぱりなんか変だよ……ひーくん、SNSに何か変なこと書いてない?」
「いつも通りのことしかしてないから、特に心当たりはないけど……。ぬいくんは?」
「ぼ、ボクも……一応、チラ見せみたいな感じでコス写真は上げたけど、それはいつもそうだし……」
「じゃあ、ジャンルパワーってことじゃない? それくらい『むー×もん』が人気なんだよ」
「で、でも、『むー×もん』の合わせコスなんて他にもたくさん居るし」
「まあまあ、細かいことは気にしないで。それより、せっかくいろんな人にぬいくんのコスを見てもらえてるんだから、楽しまないと」
「ひーくんは余裕ありすぎだと思う……」
ひーくんとの長い付き合いの中でも、その顔が緊張や焦りに塗れたところは見たことが無い。
ひーくんはいつだって優しくて、ボクを気遣ってくれるくらいの余裕まで持ち合わせている。
いつかは、そんなひーくんの余裕をベッドの上で奪ってみたいものだけれども――
(――って、何考えてるんだボクは! 変なこと考えて、こんな状況で反応しちゃったら大事だよ!)
この衆人環視の緊張ではそんなところに血液を回す余裕なんてないけれど、状況にそぐわない思考は良くない。
今日は楽しいイベントの日だ。
辛く苦しい社会人生活を頑張ったご褒美の日だ。
ひーくんの言葉通り、今はできるだけコスプレを楽しめるように努めよう。
そして、ボクとひーくんはスマホを向けられ続けた。
ポーズの要求に応えたり、表情を求められれば頑張ってみたり。
時には話しかけられることもあって、その会話の中で『むー×もん』のもーもんショタ化二次創作がバズっていたことを知った。
もんちり界隈のことにはなるべくアンテナを張っていたつもりだったけれど、コス作りが忙しすぎて把握しきれていなかった。
どうやらコピー本を出しているサークルもあるらしいので、時間があれば買いに行きたいな――
「え?」
――そんなことを考えていたら、突然ひーくんに後ろから抱きしめられました。
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