それはさながらゴールデンレトリーバー
「ただい――」
「ぬいく~~ん!!」
「うわぁっ!?」
帰宅の挨拶を最後まで言い終える間もなく、玄関で待ち伏せていた同居人からタックルをされた。
「あっ、危ないなぁ! 転んだらどうするの!?」
「? 僕が支えてるから大丈夫だよ?」
「それはそうだろうけど……」
突き飛ばさんばかりの体当たりと、しっかりと背中に回された腕。
これがどちらも同一人物によるものなのだから、素直に安心しろというのは無茶だろう。
「そんなことより、帰ってくるの遅いよ~。僕お腹減った~」
「メールで先に食べててって言ったじゃん」
「だって、ぬいくんが帰ってこないと食べるものないし……」
「あるじゃん、もやしが」
「生のもやしなんて食べられないよ~!」
調理すればいいでしょ、なんてこの人に言っても聞きやしない。
年上のくせに、ボクがいないと飢え死にしてしまうような人なのだ、ひーくんは。
「はぁ……。そうだろうと思って、ひーくんの分も買ってきて良かった」
「わーい、今日はコンビニ弁当だー!」
ボクの手からビニール袋を引ったくると、ひーくんは無邪気にステップを踏み始めた。
普段の質素な食事と比べればコンビニ弁当も十分高級ではある。
だからと言って、コンビニ弁当でここまで喜ぶ成人男性というのもどうかとは思うけれど。
「……ひーくんが働いてくれれば、こんなの毎日だって食べられるんだよ?」
「あっ、デカ盛りだ! 僕がハンバーグの方でいい?」
聞こえていないのか、聞こえないふりをしているのか。
ひーくんはビニール袋の中身を物色するのに夢中だ。
「……いいよ。ボクじゃそのサイズ食べきれないし、最初からそのつもりだったから」
「それじゃあさっそくレンジで温め……あれ?」
「……」
「あれー? ぬいくんこれって、あれー?」
ガサガサとビニールに手を突っ込んで、ひーくんはそれを取り出した。
「いいでしょ、たまには……」
「うん、僕はもちろんいいんだけど……珍しいね、ぬいくんがお酒買ってくるなんて。いつもは節約だって言って僕が頼んだって買ってくれないのに」
「っ、ボクはひーくんと違って働いてるんだから、お酒を飲みたい日だってあるんだよ。それに、元々ボクが稼いだお金なんだから、文句言われる筋合いもないよ」
「ぬいくんは未成年なのに?」
「もう社会人として立派に働いてるからいいの! 毎日頑張って働いてるのにお酒はだめなんて、あんまりでしょ!」
「ふーん……ま、それもそうだねー♪」
意味あり気な笑みを浮かべながら、ひーくんはレンジの中に弁当を突っ込んでいく。
「ちょっと、一つずつだよ、一つずつ」
「えー? いっぺんにやっちゃった方が早くなーい?」
「サイズが全然違うんだから、どっちかが美味しくなくなっちゃうよ」
「大丈夫、ちゃんと長めに設定しておくから♪」
「ボクのが熱々になっちゃうじゃん! もう、そこに置いといて! 手洗ったらボクがやるから、ひーくんは向こうで座って待ってて!」
「はーい」
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