第118話

 ある日のこと。

 ウサギがウトウト小屋でお昼寝中。ドンドン、とどこからか太鼓たいこの音が聞こえてきた。ウサギがムクリと体を起こす。

 力強い太鼓の音がリズムが大地をふるわせ大気を震わせ、足の裏から耳から伝わり全身をめぐる。毛先までビリビリする。心さぶる。心き立つ。体が揺れて足でタカタン、リズムをきざむ。

 アズキははじけるように飛びね駆けた。ホップ、ステップ、ジャンプ、ジャンプ、ジャーンプ! ドン、ドン、と太鼓が心を打ち鳴らす。たましいを震わせる。アズキは心ウキウキ飛び跳ねながら、音に向かって駆けていった。

 そしてアズキは目をパチクリ。目の前の光景こうけいに、己の目を疑った。……マジかよ。そこには、ビーと並んで太鼓を叩く由香里の姿があった。あの由香里が、この音を……すげえ。

 ダン! 太鼓がんだ。大地を揺さぶり大気を震わせ余韻よいんを残して消えてゆく。

 ビーがふえを手に取り口にあてた。心浮き立つメロディーが、笛から飛び出し音踊おとおどる。由香里が笛に合わせて太鼓を叩く。笛を吹くビーの体が軽やかにリズムカルに踊りだす。由香里も加わり踊りだし、ポップコーンのように踊り弾ける。

 踊りは次第しだいに熱をび、大地をみしめ力強く踏み鳴らし、手を叩いて打ち鳴らす。草木が枝葉えだはを打ち鳴らし、大地が揺れて共鳴きょうめいする。熱く激しく熱狂ねっきょうし、ゆるやかにとけてほどけて踊りが終わりりが静まる。

 ピアノとギターのき語り。ビーと由香里、ふたりのかなでる音色ねいろが歌が、じゃれてたわむれみ合って、流れ渦巻うずまき重なりけ合う。

 ふたりの舞いが音をまとい、やわらかなあわい光となって天にのぼる。見る者すべてを魅了みりょうし、聞く者すべての心を連れ去り、魂が体を離れて天を舞う。舞いが終わり音が消え魂が戻ってくる。

 ビーがふわりとほほ笑んだ。由香里に向けられたそれは、ビーの心からの笑みだった。


  

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