第22話

「ん……」

 由香里が目を覚ました。

「おはよう、アズキ」

 由香里は優しくほほんでアズキの頭をなでなでした。アズキはうっとり。あぁ幸せ。

 部屋のかりは昼下ひるさがり。ベッドに入ったのは昨日きのうの夕暮れだった。よく寝たな。

 アズキはベッドからピョンと飛び下りると、床に着地した時には人の姿になっていた。部屋のすみに箱がひとつ置いてある。箱を開けると、いい匂い。スープが入っていた。

「腹へっただろ、ほら」

 アズキはスープの入ったおわんを差し出した。けれど由香里は受け取ろうとしない。

美味うまいから飲んでみろよ。これを持って来たのはチャシュだよ。あいつは音も気配もないから気づかなかったんだ。ここには俺とチャシュとアイリスしか入れない」

 由香里はスープではなく、人のアズキを見ている。警戒心けいかいしんたっぷりに。

「あれ? もしかして俺を警戒してんのか? 何でだ?」

「……チャラ男、じゃなくてアズキは、ウサギのアズキはエロの権化ごんげだから」

「権化って……。悪の権化じゃあるまいし」

「アズキは何にでも見境みさかいなく下半身をこすりつけるでしょ」

 それじゃあまるで変態へんたいじゃねーか! あまりの言われようにおどろいて、アズキは持っていたお椀を落としそうになった。おっと、危ね。

「ウサギのアズキは発情はつじょうかたまりだから人の姿でも同じかなと……発情鬼はつじようきみたいな」

 ひとを殺人鬼みたいに言うなー! アズキはお椀を置いた。このまま持っていたら、こぼすか落とすか両方だ。

「ウサギの時はどうしようもなかったんだ。由香里はすっげーいい匂いするから、どうしても体が反応してしまう。特に風呂ふろあがりの足はたまんねー。あんなの、こすりつけずにはいられないだろ。でもウサギの体じゃできねーから仕方しかたなく、ぬいぐるみでしてたんだ」

 由香里はベッドの上に体を起こして今にも逃げ出しそうだ。て逃げるな。

「でもそれは、異世界での話だ。ここはモルモフ。俺は人に戻った。栄養えいようの全てをのうミソで使っている。ほら、ちゃんと服も着てるだろ」

 服の下では下半身が興奮中こうふんちゅうだが、さいわい服にかくれてわからない。

「今はとにかくスープを飲んで体力を戻さないと、だろ」

 今度は由香里もお椀を受け取り、スープを飲んだ。

「おいしい」

 熱いスープをふ~ふ〜しながら飲む由香里。かわいい。

 アズキは床に座り、ベッドによりかかってスープを飲んだ。由香里のとなりに座ったら、そのまま押したおしてしまいそうだったから。今はマズイ。しずまれ俺の下半身。



 

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