第8話『我が家のある意味問題児』

 さて、異世界で生きていくために私達三ツ塚家六人兄弟はそれぞれのステータスジョブに合った教師を用意していただいた訳ですが、授業の初日……それも夜明け前から大問題が発生しました。


 ドッカーンとまるで爆発でも起きたのかと言う破壊音がして夜中に叩き起こされたのは私だけじゃないはず。


 衝撃が強くて私と奏音が寝ていた部屋の硝子がものの見事に大破しました。


 うーわー、異世界半端ない……治安悪すぎません?


 ……と他人事のように思っていたわけですが……


「一体どこから!?」

  

「セイヤ様のお部屋が爆発したぞー!」


 城に勤めている近衛騎士や侍女、侍従が口々に爆発現場がどこなのか叫びながら部屋の前をバタバタと混乱状態で走り逃げまどう。


「おねぇちゃん……せい兄ちゃんどうしたの?」


 眠い目を擦りながら奏音が抱っこをせがむように両手を伸ばしてきたので抱きしめる。


「うーん、もしかすると誰かが星夜を起こしちゃったのかな?」


 朝に起こされる分には問題ないのだけれど、夜中に起こすとあの子は魔王と化すんだよね、前に夜中に星夜へ悪戯しようと忍び込んだ陸斗が目の座った星夜に一晩お尻が病むくらいにしばかれて泣きじゃくっていたことがあった。


 星夜はその後何事もなかったように布団に戻り寝ていたけど……同室の遥斗は「だから言ったじゃん」と言いながら私が用意したアイスパックをお猿さんのお尻みたいに赤くなった陸斗のお尻に当てていた。


 あれ以来陸斗は絶対に夜に星夜の私室へとは近寄らないのよね。


 朝に星夜を起こしに行くのはもっぱら私かそうた蒼汰の役目だ。


 そして魔王と化した星夜を止められるのも私かアルトリード父さんだけだ。


 ちなみにアルトリード父さんが星夜を止めるときは物理的に止める、いつもの緩慢な動きが嘘のように素早く星夜の背後に回り込み手刀で意識を刈り取るのだが、どこで覚えてきたのそんな芸当!


「おねぇちゃん……星兄ちゃん止めに行かなくて大丈夫?」


「うーん……」


 腕の中にいる奏音が心配そうに私を見上げて目をうるうるさせている。


 こんな状態で奏音を一人だけ置いていくわけにも行かないし、かと言って未だに混乱が続いている城内を奏音を連れて星夜の部屋まで行ける自信もないんだよね……


 どうしようかと迷っていると廊下と繋がる木製の扉を外側からドンドンと二度叩く音が聞こえた。


「夜分遅くに失礼いたします! ディートヘルムです、ユキ殿ご在室でいらっしゃいますか!?」


 焦りを含んだ声が聞こえて私は奏音を抱いたまま立ち上がり扉へと向かう。


「ディートヘルムさん!」


 ガチャリと扉を開けると急いで着替えてきたのだろう、Tシャツに似た服にズボンという簡素な衣服を纏ったディートヘルムが立っていた。


「あぁユキ殿にカナト殿ご無事でしたか!」


 するりと扉の中に入ってきたディートヘルムは直ぐに私達二人に怪我がないかを確認していく。


「ディートヘルムさん、一体何が起きているのですか?」


「実は我々もまだ詳しい情報が掴めていないのです」


 ディートヘルムと話をしている間にまた爆発音とミシミシという地鳴りと振動が伝わってくる。


 パラパラと天井から細かな建材の破片がふってくる。

 

「きゃー!」   


「危ない!」


 自分の体を盾にして私と奏音を守るようにディートヘルムが覆いかぶさる。


「ディートヘルムせんせい!」


 奏音は私や自分を体を張って守り鋭い視線を室内に走らせ防御態勢を取るために動き出したディートヘルムにキラキラとした大好きな戦隊モノアニメのヒーローを見るような視線を向けている。


 あっ、これ完全に懐いたな。


「ここは危ない、早く脱出しましょう」


 そう言って安心させるようにぎこちない笑顔を浮かべて見せるディートヘルムになら奏音を一時的にお任せしても大丈夫かな?


「ディートヘルムさん、少しの間奏音をお願いしてもよろしいですか?」


 立ち上がったディートヘルムの逞しい腕の上に奏音を乗せる。


「それは構いませんが……」


 困惑しているディートヘルムには悪いけれど、今は星夜の暴走を止めるのが優先だからしかたない。


「奏音、おねぇちゃん今から星ちゃんを止めてくる。だからディートヘルム先生の言うことをよく聞いていい子にしていてね?」


「うん!」


 元気に返事をした奏音の頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めた。


「奏音をよろしくお願いします!」


 ベッドサイドのテーブルに用意されていた水差しは、爆発の衝撃で倒れてしまい銀色のお洒落な長方形のお盆と中身がなくなった銀の水差しだけが残っていたので、私はその銀盆と水差しを両手で掴んで部屋を飛び出した。

 

 

 

  


 

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