第7話『頭の痛い妹』クレマンティーヌ視点

 

「おとうさまぁぁん!」


 甘えるような猫なで声で部屋の主へ入室の許可を得ることなく走り込んできたキャスティの不作法に頭痛がする。


「おぉキャスティよ、どうかしたのか? ん?」


 そんな不作法を諫めるでもなく自分に縋るように駆け寄るキャスティを愛しそうに抱きとめる。


「キャスティはセイヤ様が気に入りましたぁ! キャスティの側仕えに召し上げたいのですぅダメですかぁ?」


 語尾を伸ばしながら話すキャスティに視線を送る。    


「キャスティ勇者一行の身柄について陛下よりたった今私へ一任する許可を頂きました、彼らは勇者、側仕えには出来ません」


 私の言葉が気に入らなかったのだろう、こちらを睨みながら口先をとがらせるキャスティの素直すぎる反応は、本音を微笑みに隠す社交界において王女どころか貴族の令嬢としてすら失格だ。

 

 キャスティは直ぐにポロポロと涙を流して床に座り込み、執務机野椅子に座る王の足に縋り付いた。

 

「そんなぁ、おとうさまぁぁん!おねぇさまがキャスティに意地悪をするのですぅ!」


 キャスティの反応に苛立ちが募る、今回の勇者一行についてだけではない、キャスティはことあるごとにこうして男性に自分の涙を見せて同情を誘うような真似をするのだ。


「すまんが勇者一行は神魔国侵攻の戦力だからなキャスティにはやれんのよ、侵攻が終わり神魔国を和が国へと取り込んだ後ならば下げ渡そう」


 王がキャスティの我が儘を断ったことに安堵する。


「それでは陛下、私は下がらせて頂きたいとおもいます」


 執務室から廊下へと出て自分の背後で扉が閉まるの音を確認し、勇者一行の教師陣を手配するべく私はあるき出した。


 なるべく早く勇者一行の教師陣を手配しなければならない。


 適任者は誰だろうかと思案しながら護衛騎士と共に進んでいると前方から我が国の騎士団ディートヘルムがこちらへと歩いてくる。


 筋肉隆々の鍛え抜かれた巖のような身体と綺麗に剃り上げたスキンヘッド、顔に頬から顎に掛けて三本の傷跡が残ってしまっているためその見た目から子供や可愛いものが好きにも関わらず、泣かれると言っていた。


「ディートヘルム騎士団長」


「クレマンティーヌ殿下、いつ本国へお戻りになられたのですか?」 


 声を掛けるとその場で礼をするディートヘルムの声色は本当に私の帰還を知らされていなかったようで驚いている。


「昨夜遅くに帰還したのです、陛下が異世界から勇者召喚を行おうとしていると魔導師団長のグスタリスから速達魔術便が届きましたから」 


 馬を乗り換えながら強行軍で戻ってきたのだが、残念ながら勇者召喚を未然に防ぐことは失敗に終わってしまった。

 

「そうだったのですか、あまりご無理をなさいませんように……ご無事で何よりです」


 今回勇者召喚の情報を知らせてくれたグスタリスとディートヘルムは元々平民出身で冒険者として名を上げて実力でこの国の魔導師団長斗騎士団長までのし上がった男だ。


 そしてこの王城で疎まれる私を守り育ててくれた師匠たちでもある。


 私を導いてくれた彼らならば、勇者一行を正しく導いてくれるのではないだろうか……


「心配をかけましたね、ディートヘルム、異世界から来た勇者様の教師役を打診したいと思っていたのですがいかがかしら?」


「わっ、私がでございますか?」


「えぇ、勇者様方はこちらの都合で拒否権すら与えられず右も左もわからないこの世界へ強制的に連れてこられました……」


 本来ならば成人すら迎えていない子供ばかりだとも聞いている。


「私は、そんな彼らに少しでも信頼できる教師役とこの世界で生きていくための支援をしていかねばなりません」


 私達に勇者様方を元の世界へとお戻しするすべがない以上、衣食住の保証とこの世界で生活していくのに必要な知識や力を提供するのは召喚した我々の義務でもある。


「お願いしますディートヘルム」


 この腐り切ったローランド王国で私が信頼できる人物はとても少ない……


 勇者様方のステータスが書き写された書類を確認した結果、勇者様方全てに信頼に足る人物がつけられない以上、純粋な戦力隣る方から優先に人材を手配しなければならない。

   

「わかりました、至らぬ我が身ですが可能な限り勇者様方を支える一柱となりましょう」


 そう言って引き受けてくれたディートヘルムに自分の心を押し隠して今日も王女にふさわしく優雅に微笑む。


 眩しいほどに凛々しく決して私が結ばれる事が叶わない愛しき人へ……

     


 


        

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