第4話『私のステータス……』


 さて、ステータス調査六人目ともなれば皆さん慣れたもので眩い光を放ち私のステータスがバババン!と映し出されました。

 

 【三ツ塚由紀(みつづかゆき)】 


 16歳 (♀) 状態異常ナシ

 ジョブ(職業) 『肝っ玉母ちゃん……』

 体力   328

 魔力   364

 かしこさ 200

 魔法適正  生活魔法

 スキル(特殊技能)

 料理(Level 3) 掃除(Level 2) 洗濯(Level 3) 解体(Level 2)  異世界言語(Level 2) 

生活魔法(Max)

  

 なんだろう、もはやどこから突っ込んでいいのかわからないステータスに困惑する。


 名前と年齢、性別と只今の状態はまぁ……わかる。

 

 良く言えば中肉中背……わりと低身長なせいでぽっちゃり、陸斗に言わせると性格も加味すると逞しく見えるらしいので、体重や身長なんかが載っていないステータスはありがたい。


 しかし、しかしだよ!? ジョブ(職業) 『肝っ玉母ちゃん……』ってなんやねん!


 大阪人じゃないけれどついツッコミだけ大阪弁になるじゃーないですか!?


 しかも『肝っ玉母ちゃん……』の後ろに付いている……はなんなんだ?


 せめて断言して? そしたら諦めもつくわ!


 確かにお母さんが行方不明になってからお母さんの代わりに家事に育児に勉強にと日夜駆けずり回っていた。


「由紀ちゃんってさ、彼女とか女の子っ手言うよりお母さんみたいだよね〜?」


 と同じ年の女子高生に言われることも多々ありましたよ。


 女だからか、もしくは戦闘に向いていないからなのか、体力、魔力、賢さは弟達と比べると断然少ない。


 入試試験や定期テストでも平均80点以上の点数を取れていたから少しは頭がいいはずだと思っていたから精神的なダメージが半端ない。


 そして私はオカンなのだと言わんばかりのスキルの数々……

  

 まぁこのステータスに困惑しているのは私だけでないようで、静寂に包まれていた室内が蜂の巣を突いたようなざわめきに包まれ始める。


「肝っ玉母ちゃんとはどんな職業だ?」 


「こんな職業初めて聞きましたわ、きっと珍しい職業なのですね」

 

 ここらへんは貴族の皆、んで視線横に流せば首を傾げてこちらを心配そうに見てくる奏音以外の弟たちは笑いを堪えて打ち震えている。

 

「はぁ……笑いたきゃ笑えば?」


「ブッひゃゃゃゃや!」


 ボソリと言ったら真っ先に陸斗が陥落した。


「ひ~、ねぇちゃんが肝っ、肝っ玉母ちゃんとか似合いすぎ! 痛ってぇ!」


バシバシとテーブルを叩きながら爆笑する陸斗に蒼汰のげんこつが頭へ直撃する。


「笑いすぎだ馬鹿! 姉ちゃんの顔をよく見ろ」


「げっ、鬼婆がいる!」


 この野郎……陸斗め好き放題言いやがってからに。


 そんな私達のようすと私達のステータスをこっそり書き写していた事実を知らなかった私達は、蒼汰と星夜、陸斗と遥斗、私と奏音の組み合わせでそれぞれ客室へと案内され、用意された食事をとり湯浴みと寝間着に着替えをして眠りについた。


 ********


 翌朝一緒に寝ていた私と奏音は侍女に起こされた。


 奏音にはゲームの勇者が着ていたような衣装が用意され、その背中にはマントが付いており、その姿を自慢するように私の周りをぐるぐるとなんども走り回る。


 なぜか私には昨日と同じこの城の侍女たちが着ているものを用意された。


 朝食は食堂で取るらしく、奏音と手を繋いで案内役の侍女の後ろについていく。

    

 食堂には寝起きのためか不機嫌なオーラを垂れ流す星夜が座っている。


 紺色のローブにたすき掛けの帯が、賢者っぽい服装を纏った星夜の隣には、昨日見かけたなんちゃら教団の人達が着ていた黒いカソックに白に金色の刺繍のストラを着ている。


「おはよう、ふたりとも見事にコスプレだねぇ」


「おはよう、リアルメイド服の姉ちゃんには言われたくないわ」


「奏音は……ちびっこ勇者様衣装だな、今すぐお遊戯会に出れそうだ」


「蒼にぃーも星にぃーもかっくいいよ〜!」


 私の手を離した奏音が二人のところへと走っていく。


「ちーす」


「おはよ……」


 私達に続いて入室してきた陸斗と遥斗はいかにも魔術師ですと言わんばかりの服装をしている。


 白いのズボンとブーツ、ロング丈のワンピースの上に昨日会った魔導師たちの着ていたような紺色のフード付きのローブを着用している。


 ローブの袖口とフードの縁、裾等に陸斗は属性を示す五色、遥斗は黒と銀色で刺繍が施されていた。


「わ~! 陸にぃーと遥にぃーが魔法使いだぁ!」


 二人の姿を見て奏音が駆け寄る。


「かっこいいだろぅ! 奏音はちびっこ勇者だな! スライム倒しに行くか!」


「すらいむぅー」


「陸斗、この世界にはスライムいるの?」


 遥斗のツッコミに陸斗が首を傾げると奏音が真似る。


「わかんねぇ!」


「わかんなーい!」


 陸斗が答えると、奏音が真似る。


「さぁ皆さんお座りください、今日からの予定をお話させていただきますので」


 一人の年配の女性が声を掛けてきたのでそれに従って椅子へと腰を掛ける。


「まずは食事にいたしましょう」


 そう告げると侍女たちが、次々と料理をテーブルの上に並べていく。


 焼きたてなのか湯気が上がる柔らかそうなパンとサラダ、みじん切りの野菜のスープには小さな肉片が浮いている。


 角切りされたベーコンが入ったほうれん草の炒めものが一人前ずつ並ぶ。


 野菜が多いな……


 心配になり野菜嫌いの陸斗と遥斗を見れば、案の定並んだ朝食に不満げに唇を尖らせ、野菜をフォークで突付いている。            

 

 とりあえずまんべんなく料理を食べてみたが、ものの見事に塩味だ。


 星夜なんかろくに食べずに残してしまっている。


「本日からの皆様の予定ですが、先日確認させていただきましたステータスを伸ばしていただくために、それぞれに合った教師をこちらでご用意させていただきましたので個別指導となります」


 星夜や蒼汰はしっかりしているので個別指導でも問題ない、小学校で授業を受けている陸斗と遥斗もなんとかなるだろう。


 しかし五歳の奏音に個別指導とか不安しかないのだが……


「ぼく、おねぇちゃんといっしょがいい!」


 もともと人見知りが激しく、幼稚園の先生になれるまで一週間以上掛かった奏音が案の定私と一緒でなければ嫌だ病を発症してしまった。


「勇者カナト様、姉上様は戦闘の素質がございませんので、上手にお力を制御できないカナト様の近くにいてはお怪我をされかねません」


 そんなカナトを宥めるように告げているが、まだ小さい奏音にその言いぐさはないのではなかろうか。


「姉ちゃんが危ないなら俺達と一緒に勉強すれば大丈夫だよ」


「そうだね、賢者の力がどれほど使える力なのかわからないけど、もし姉ちゃんが怪我をしても必死に勉強して蒼汰兄が治してくれるから奏音は心配しなくていいよ」  


「そうだぜ、オレと遥斗も居るんだ、大船に乗った気で任せとけ!」


「かなちゃんはボクが守るからね!」


 それぞれが奏音の補佐を名乗り出ている。


「承知いたしました。 それでは皆様の教師並びに補佐役の者を紹介させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


 弟たちを見れば皆が頷いたので、私が口を開く。

 

「よろしくお願いいたします」 


 そう告げるとすぐに侍女たちが私達が入ってきた扉とは違う両開きの扉を引き開ける。


 続々と食堂に入ってきた人物たちは弟たちと似たような衣装を身に纏っているため、誰が誰の教師で補佐役なのかわかりやすい。


「それでは紹介させていただきます」


 名前を呼び誰の教師なのかなど次々と紹介されていく。


「カナト様の教師を務めますディートヘルム・グランヴァル騎士団長です」


 騎士の軍服の上からでもわかる筋骨隆々の身体にツルリとしたスキンヘッドの巨人がゆっくりと頭を下げる。


「お初にお目にかかります、ディートヘルムです」


 低いバリトンボイスが部屋に響いた。 

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