河原
みんなの個性溢れる、自己紹介カードが完成した。今日はそのために、河原に行くのはお昼ごはんのあとになっていた。お昼ごはんの準備は愛翔がたくさんお手伝いをしていた。他のみんなは、待っている間自由に遊んで、お姉ちゃんは隆太郎と遊ぼうとしたが逃げられて、追いかけっこになった。お姉ちゃんを含めみんなは、隆太郎が走っているのを初めて見た。でも、そんなことは誰も言わない。それが、緘黙の人に対する基本の接し方だと分かっているから。本当に信頼されていないと、言ってはいけないこともある。
お昼はみんな、いつもより元気に食べた。次は河原で30分ぐらい、遊んでからお昼寝してもいいよ、とお兄さんに言われたからだ。今日は太陽が出ている。風に吹かれて、日光を浴びて寝られるなんて、どう考えても幸せだ。
「さあ行くよ!準備して!」
とお兄さんは言ったが、もう全員が準備万端だった。
また3列になって歩いた。着くまでの間、お姉ちゃんはみんなに苦笑いで見守られながら、「私も一緒に寝たい」とお兄さんを説得しようとしていた。でもそれは、河原が見えてくるとみんなが走り出したので曖昧に終わった。靴を脱いで、川に直行する。愛翔は、友達と手を繋いでいたので一緒に走った。お兄さんが言う。
「りゅうくんも、行くよ!」
その言葉で、隆太郎も走って付いて行けた。
「やるじゃん、りゅうくん。」お姉ちゃんが言った。隆太郎も、嬉しそうに笑っている。お姉ちゃんは初めて、隆太郎の高さに目を合わせてみた。お姉ちゃんも少し緊張したが、隆太郎は、恥ずかしそうに、どこにも焦点を合わせなかった。まだ、だいたいの子は目を合わせることができない。不意に目が合うと、びっくりして、そらしてしまう。お姉ちゃんが話しかける。
「目が合ったら、気持ちが吸い取られていくみたいに思うよね。ゆっくりでいいよ。」
するといきなり、
「ばあ!お姉ちゃん、あーそーぼ!」
と、小晴がお姉ちゃんの後ろから出てきた。お姉ちゃんは、こんなことは日常茶飯事なので平気だったが、隆太郎は急な展開に驚いている。
「いいよ〜こはるちゃん。りゅうくんも一緒でいい?」
小晴はうなずいた。
「何して遊びたい?」
「なんでもいいよ。」
お姉ちゃんに抱っこしてもらいながら、小晴は言った。お姉ちゃんは、そんな小晴の気持ちなんてお見通しだ。
「分かってるよ。くすぐりっこでしょ。」
「ふふー。」
お姉ちゃんは小晴を降ろして、隆太郎に聞いた。
「いいかな?こはるちゃんは初めてだっけ。こはるちゃん、名前言える?言えない?じゃあ代わりに言うよ。藤田こはるちゃんです。一番小さいから、りゅうくんなんて、こはるちゃんのお兄ちゃんより大きいね。よろしくね。」
隆太郎はこくんとうなずいて、次はどうやって遊ぼうか考えを巡らせていた。小晴ですら緊張していたが、今日は昨日より、緊張は少ない。2人の顔を見て、お姉ちゃんが言う。
「遊べるかな〜?よーいどん!で逃げる?そうしようか。りゅうくんも、いい?あら。大丈夫だったら、1回遊んでみない?どきどき?そうかー。じゃあ見てる?それも寂しいでしょ?」
こくり。
「靴のところに、かばん置いてきた?ノートあるよね?取ってきて、何か書いてよ。」
小走りで緩やかな坂を下りて、かばんを持って隆太郎が戻ってきた。
『遊びたい けど、』
鉛筆が止まったので、お姉ちゃんが声をかける。
「"怖い"?"僕がこはるちゃんに迷惑かけないか心配"?」
図星だった。下を向きながらうなずく。お姉ちゃんがノートに新しく書いた。
『遊びたい・こわい ←どっちの方が強い?丸つけて!』
じっくり考えて、隆太郎は「遊びたい」方に丸をつけた。
「本当に?」とお姉ちゃんに聞かれて、さっきまでの気持ちがしぼんでしまったが、さっきまでは、ちゃんと、そう思っていたはずだ。隆太郎はどきどきしながらうなずく。
「よし!ノートしまって。よーいどんで始めるからね。」
時間稼ぎのためと緊張で、隆太郎がゆっくり動いていたら、お姉ちゃんが手伝ってきた。「そこまで思えたことが成長だよ!頑張ったじゃん。手加減はしないからね!」と、頭を撫でて、小さく言いながら。
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