振り返り
お兄さんが晩ごはんを作っている間、子どもたちは自由時間に絵を描いた。初めてみんなは隆太郎の絵を見て、上手だったのでびっくりした。特にポケモンが上手かった。何も見ずに描いているところを見ると、相当描いていたのだろう。隆太郎は、みんなに注目されて描くのは緊張したが、褒められるのは嬉しかった。
「今日1日どうだった?」
そうやって、お姉ちゃんが隆太郎に聞いたのは、晩ごはんを食べたあと、お風呂に入る前のゆっくりする時間のことだった。でも、隆太郎はなかなか答えられなかった。「どうだった?」という質問は、答えが無限近くある。なので、どういう感じの答えを出していいか迷っていたのだ。お姉ちゃんも、そんなことは分かっている。
「うーん、じゃあ、今日は寝られそう?」
隆太郎はほっとして、軽くうなずいた。
「まあ、もし寝られなくても起きてきたらいいし。そのときはまた考えようね。もう眠そうだけど。私も、新しい子が来ていつも以上に気を使って、疲れて眠いんだよね。でも、りゅうくんとは年が近いから、分かることもたくさんあったよ。1日目お疲れ様。楽しかったよ。これからよろしく。」
お姉ちゃんは隆太郎に握手を要求した。隆太郎はゆっくり手を出して、それに応えた。
「私の大好きな先生から教えてもらったんだけどね、握手は自分が元気だよって示すために強く握るんだって。お。そうそう。いい感じ。」
隆太郎はそんなこと、全く知らなかったので聞いてみた。
『その先生って、どんな人?』
「どんな人かあー。一言で言うと、完璧、かな。なんでも分かってくれて、ずっと、私が頑張れるように助けてくれてたかな。」
隆太郎は察しがいい。
『もう会えないの?』
「あー。そんなこと聞かれたら、泣いちゃうじゃないか。そうだよ。もう私がその学校やめちゃったから、そんなに会えないよ。でも、この前会ったときも変わってなかった。優しいままだったよ。」
お姉ちゃんは、隆太郎が何を考えているのか分からなかったが、続けた。
「私が今の私になってるのは、その先生のおかげでもあるけど、他にもたくさん、関わってくれた先生がいてね。…いや、この話はいつでもしてあげられるから、またの機会にしようか。いつかの楽しみに取っておこう。今、何か心配なことはあるかい?」
隆太郎は少し考えて、鉛筆を動かした。
『みんなに、ぼくのこと、知ってもらいたい』
「おー。いいね。私はゆっくりでもいいとも思うけどね。でも、知ってもらいたいっていう気持ちも分かる。どうしよう?何かいいアイデアあるかな?まあ、りゅうくんもみんなのこと知りたいよね。自己紹介カードにしようかな。いい?うん。書きたいことを考えてからの方がいいなら、今考えてノートに書くか何かしておいて。私はみんなにも伝えていくから。やっぱり、お兄さんが最初かな。」
言い終わると、いきなりお兄さんがのそっと現れた。
「理解したよ。僕も伝えていくぜ!」
お兄さんはグーサインを出して、自分で「キラーン!」と効果音を付けた。それには隆太郎もお姉ちゃんも笑ってしまった。
2人が手分けして伝えていくと、子どもたちは驚くと同時にどこか分かっていたような顔をした。加えて幼稚園生は、「代わりに書いてね」とも言った。はじめは緊張していたみんなと隆太郎が、徐々に自分を出せるようになっていく。その両方の過程を作っていけるのがお兄さんやお姉ちゃんの楽しみだった。
9時になると、一斉に寝る支度をする。30分だけ、寝る前に話すこともできるが、今日はその必要もなさそうだ。1人ずつ、お兄さんと一緒にその日頑張ったことを確認するのが、毎日のこの時間のルーティーンだ。今日もみんな、うきうきして眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます