不安

 「じゃあ!よーいどん!で、始めるよ。かなこちゃんまだだよー。5秒数えるから、その間に逃げてね。5、4、3、2、1、よーいどん!」

 愛翔が微笑しながら、その場で気をつけの姿勢で直立不動だったので、お姉ちゃんはまず愛翔を狙った。近づいても動かないので、一応小声で確認する。

「してもいい?」

いいよ!と聞こえそうなくらい元気に愛翔がうなずいたので、お姉ちゃんは安心して、構えの姿勢を取る。それだけで愛翔はびくっとしてしまう。お姉ちゃんが愛翔にタッチする。

「あいとくん捕まえたー。10、9、8…」

今にも笑い声を出しそうに、愛翔が縮こまって逃げようとあがいている。その隙に、お兄さんが隆太郎に声をかけた。

「緊張して、動けないんじゃない?分かるよ。でもさ、ここは逃げてお姉ちゃんをびっくりさせない?僕が手を引っ張るよ。立てる?行こう!」

「次はりゅうくんだな〜。ここにいたよね。…あれ?いない。」

お兄さんがささやく。

「お姉ちゃんに、こっちだよーって言ってもいい?」

どうしよう。言わないと楽しくないし、でも…

迷っているうちに、隆太郎とお兄さんはお姉ちゃんに見つかった。

「りゅうくん、お兄さんと一緒に逃げてたのか。いなくてびっくりしたよ。」

と言いながら、お姉ちゃんは隆太郎に近づいてくる。隆太郎も、家ではくすぐりっこは大好きだ。でも、家から一歩外に出ると、声が出なくなるし、動きも鈍くなるので、声が出てしまったらどうしようとか、うまく笑えなかったらどうしようとか、考えることの方が多くて、緊張してしまうのだ。体がこわばる。しかし、今それは隆太郎だけが感じていることではない。愛翔だって、緊張して動けなかったが、楽しみが勝って、最後には動くことができた。それに、お兄さんもお姉ちゃんも、他のみんなだって、過去にそんな気持ちを感じてきている。お兄さんが隆太郎をフォローする。

「僕にも、お姉ちゃんにも、みんなにも、昔同じことがあったから、今りゅうくんが思ってることはみーんな分かってる。どうするか、何をするにしても、みんなは受け入れてくれるよ。嫌だったら嫌で全然いいし、またできるようになるし、遊びたいんだったら遊びたいでいいんだよ。やろうと思って、できなくてもいい。失敗してもいい。はい。りゅうくんノート。今の気持ち、書いてくれる?おっと。その前に。」

お兄さんは隆太郎の胸に手を当てる。

「鼓動が速いよ。深呼吸。できる?一緒にしようか。吸って…吐いて…よし。できないか。ならぎゅーってするしかないな。おいで。」

お兄さんが腕を広げる。吸い込まれるように、隆太郎が動いた。そして背中をとんとんされると、お兄さんの腕の中で泣いてしまった。

「うんうん。よしよし。気持ちが出てくるようになったじゃないか。いいねいいね。みんな、ここに来て何日かは毎日泣いてたから。5年生だからって関係ない。一緒だよ。ね。かなこちゃん、あいとくん。」

2人はうなずく。お姉ちゃんも、感慨深そうに何度もうなずいている。隆太郎は激しく泣き出した。

「大丈夫大丈夫。もう1回深呼吸しよう。よしよし。できてるよ。落ち着いてきたかな?書けるなら書いてくれる?ゆっくりでいいよ。やりたいこととか、まあなんでもいいから。」

隆太郎は、お兄さんの言った通りゆっくりと、涙を拭きながら鉛筆を動かした。

『やさしいみんなと、いっしょに遊ぶ』

「分かった。でももう、寝てるみんなを起こす時間で、大人数になるけどそれでも大丈夫?」

迷う隆太郎を見て、お姉ちゃんがアドバイスを出す。

「くすぐりっこは緊張するだろうから、他の遊びにしたらいいんじゃない?例えばかくれんぼとかさ。あ。私のカードにかくれんぼのカードなかったな。あとで作っておこう。」

お兄さんが反応する。

「いいねいいね。かくれんぼ。みんなでできるし。どう?りゅうくん。」

『いいよ』

「じゃあお姉ちゃん、お昼寝組を起こしてきて。」

「はーい。かくれんぼするよーって言ったらすぐ起きてくると思います。」

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