誕生日
家に着くと、お兄さんはすぐにお昼ごはんの支度を始めた。いつもなら何をして遊ぶかを決めて遊ぶ時間なのに、子供たちはぼーっとしている。お姉ちゃんが声をかける。
「私が作ったカードで決める?持って来ようか?」
これにも反応なし。もう、仕方がない。
「お姉ちゃんが決めるよ!もうたくさん笑ったから、くすぐりっこはいいよね。りゅうくん、バースデーチェーンゲームって知ってる?」
隆太郎が首を振る。お姉ちゃんが説明する。
「じゃあ、これからみんなの誕生日で輪っかを作るよ。私が2月13日生まれだから、そこから時計回りに3月、4月って並んでいってね。ただし!ルールは1つだけ。声は出さないこと。それはみんな得意だよね。ヒントは手で数字を表現したり、自分から話しかけることかな。みんな分かった?」
一番小さい小晴が、小さい声で「分からない」と言う。
「よし分かった。こはるちゃんの誕生日はいつ?」
小晴は答えられなくなった。
「カレンダー見てみよっか。こはるちゃんこはるちゃん…あった。4月23日。合ってる?」
振り返って見ると、小晴は泣いていた。
「あっ。しんどかったね。ごめんね。でもこはるちゃん、みんなの基準になるのはできるでしょ。」
小晴が不安そうな顔をしている。
「基準。ここから丸くなってねって、立ってるだけ。今の場所でいいから。やってみる?」
「うん。」やっと小晴にいつもの表情が戻った。
お姉ちゃんは安心して、みんなに言った。
「私が立ってるつもりだったけど、こはるちゃんがスタートね。4月23日。そこから、こう、誕生日の順でぐるっと1周してね。よーい、どんって言ったら喋らないこと。それじゃあ、よーい、どん!」
お姉ちゃんが隣にいた碧の肩をたたいて、自分を指差して「2」という数字を作ったところで、みんなも要領が分かったらしく、動き出した。
どんどん輪っかが作られていく。この辺りかな、と思ったところで止まって、近くにいる子に自分の誕生日を知らせる。その繰り返しだ。
「もう大丈夫?いいね?」
お姉ちゃんは言ったが、元気にうなずいた子もいれば不安そうな子もいる。人それぞれだ。
「ふふ。じゃあ確認。まずこはるちゃんが4月23日で、次があおいちゃんか。あおいちゃん、自分の誕生日言える?」
「5月15日。」
「おっ。いいね。次はりゅうくんが並んでる。りゅうくん、誕生日は言える?ちょっと待とうか?」
隆太郎は、心臓が落ちる感覚を味わった。何か言うって決めてきた。でも力がコントロールできなくて、首すら動かない。毛細血管までどきどきしている。うまく息が吸えない。怖い。
お姉ちゃんがそれを察して、声をかけた。
「うん。怖いね。あとで話聞かせて。挑戦したいのも分かるし、しようって決めてきたんだなあっていうのも分かるし、今すごーく緊張してるのも分かる。指でだったら言えそう?」
お姉ちゃんに認めてもらえたというのと、できなかったというので隆太郎は涙が出そうだったが、我慢して、指を6本出した。
「おっけー。6月の何日?」
指を3本。
「3日ね。成功!やったねりゅうくん。そしてかなこちゃんだね。いつ?」
「9月30日。」
「おお。飛んだね。次は、ゆうきくん。言えるかな〜?」
少し待ってから、お姉ちゃんは優希に近づいて、
「誕生日教えて。」
とささやいた。すると優希は、同じくささやいて、
「12月8日。」
と答えた。こういうのは、自分が相手のすることを先にしておくことがコツなんだよ、と自分で自分を褒めながら、お姉ちゃんは次の風菜に移る。
「ふうちゃん、教えて。」
風菜はなぜか恥ずかしがっている。1本指を立てた。
「1月の?何日かな?」
「13日。」
「うん!ここまで順調だよ。そして私は2月13日。最後あいとくん。カードで教えて。」
3、20。3月20日。全員順番になっている。成功だ。
「やったー!拍手!」
考えていることがあまり顔に出ないみんなが、満面の笑みだったのでお姉ちゃんは嬉しくなった。
「さすがだね。ルールも守れたし。自分で誕生日伝えられたし。こはるちゃんも基準ありがとう。」
「どういたしまして。」
「さて。私はりゅうくんのお話を聞くって言ったから、ちょっと"ひみつのへや"に行くね。仲良く遊んでて。りゅうくん、おいで。」
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