ある未来人の話

胡真

人間1965759号

六月二十日

 

 

 頭を整理しようと思う。

 

 最近になってというか、昔からそうだったかも知れないが私には莫大な好奇心というものがある。

 人間なら誰しも持ち合わせているその欲だが、私はその中でも知識欲がどうにも強い傾向にあるらしい。

 

 別にこのことに関して苦しんでいるわけではないし、他人に迷惑をかけているわけでもないからそれ自体はさして悪いことではない。ただ悩みというか、どうしたらいいのか取扱いのわからないことがいくつかある。


  それは、気になることがありすぎて、この一生で全てを網羅することはかなり無理があるのではないかということだ。

 加えて私は生来熱しやすく冷めやすい。冷める前にとことんまで突き進めて行きたいのだが、環境やらなんやらが整わないと満足を得ない結果になるという点も、今の私を悩ませている。

 

 さて、どうするか。

 整理するためにここに解決法案を提示する。

 

 ①寝る時間を削る

 ②優先順位をつける

 ③諦める

 

 ・・・こんなところだろうか。

 

 ついでに何がしたいのか、今のしたいことを書き出すと以上の点になる。

 

 ①高次元幾何学を学びたい

 ②英語をそれなりのところまで持っていきたい(高三くらいまで)

 ③小説を書きたい(物語を作りたい)

 ④漫画を描きたい

 ⑤本を読みたい

 ⑥世界の仕組みを知りたい

 ⑦油絵をしたい

 ⑧囲碁・将棋・チェスをしたい

 

 ・・・こんなところである。

 

 私は今年20になる。日本人の平均寿命は女性で88歳。明日死ぬかも知れない不慮の事故や発病を除けば残り68年間は残っている。が、私は思う。

 

 人間何があるかわからないが、日常を描いた漫画やアニメのように何もないわけではない。学校の課題や仕事に大半の時間は取られているのが今の日常でも、ひょんな事で結婚するかもわからん。だから私はこの歳でもう焦っている。

 

 詰まるところ時間というものに価値を持ち始めたということであり、それは一種の成長なのかも知れない。

 

 それにしても最近もっぱら思うことといえば、今の記憶を持ったまま7歳児や8歳児に戻れたら、どんなにいいだろうというものだ。

 

 小学生の時代が最も時間的猶予を持ち合わせており、自由はないが時間があった。その頃の私は自由を求めたが、今の私は自由とともに時間も求めている。随分と強欲になった。

 

 どちらか一つでは物足りないと心が叫んでいるから、抑制はできても消えはしない。

 

 どこまでもどこまでもまとわりつく。

 

 ゆえに、大変なことになるのだ。

 

 たくさんのものを実現しようとしている。

 

 ここで色々と好き勝手に考えたけれど、ようやっと少し昂りが落ち着いてきたように感じる。

 

 思うのも考えるのもこの場で一旦区切りをつけよう。

 

 

 古代人間1965759号の日記より一部抜粋

 

 

 「…これは何ですか?」

 

 「これは最近になってようやく解読できた古代の書物の内容だ。まだ大部分が解明されていないため、一部解読となるが」

 

 老人は若い男からチップを受け取った。表示されていた文は姿を消し、代わりにクリアな現実世界が現れる。

 

 「意志声明文のように見えますね。どこぞの政治家のものでしょうか。それにしては希薄な内容ですが」

 

 「誰が書いたのかはわからん。だが古代人の生活状態を知る上では十分な情報源だ」

 

 「ですがただの一般人の日記かもしれない。そんなものを古代人代表にしていいのですか?」

 

 「…若いな。君は」

 老人はゆっくりと丸窓へ近付く。

 

 外には薄ピンクに広がる空に、青緑色の草原が広がっていた。ぽつらぽつらと半球型の建物が見える。

 二人の男がいるこの建物と同じ形だ。

 

 「人間は、人間だ。立場、権利、義務、財産全てを取り払ってみたまえ」

 老人は若い男に向き合って言った。

 


 「君は、人間か?」

 

 

 

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