第三話 バンクエットオブレジェンズ②

『ようこそッ! バンクエットオブレジェンズの世界へ!!』


「うおッ」


 扉を開けゲームの世界へと足を踏み入れたジークを、いきなり声が出迎える。

 その余りに唐突な他人の声に彼が驚きのを口から漏らすと、恐らくその声の主であろう扉の先で待っていた可愛らしいキャラクターがニコリと笑ってこう言った。


『ビックリさせちゃってごめんね。僕は君専用のナビゲートAI、モッチーナだよッ。初めて此処へ来た君の為にこの世界を案内しに来たんだ!』


 体が名を現している。恐らく餅に羽を生やそうというコンセプトの元生み出されたおぼしき、モチモチとした姿のモッチーナがそう言った。

 そしてその自らの声で向こうが反応を示したという事実に、ジークは更なる衝撃を受ける。


「会話が、出来るのか?」


『うんッ! だから疑問に思った事は何でも聞いてね。そうしたら君との会話が僕のメモリーに保存され、どんどん君のサポートに特化した存在へと進化していくから。これから沢山お話してくれると嬉しいな〜!』


「あ、あぁ……宜しく」


『ところで早速聞きたい事が有るんだけど、僕は君の事を何て呼べば良いかなッ? コード・ジーク君? コード君? それともジーク君かな??」


「ジークの方で、頼む」


『了解ッ!! それじゃあこれから宜しくね、ジーク君ッ』


 そう言ってモッチーナは白く柔らかそうな身体をぷっくりと膨らませ、頬を赤らめながら笑った。


 しかしまさかプレイヤー一人一人へ向けて専用のナビゲートAIが用意されているとは驚きである。しかも会話を記録して専用に最適化とは。

 こんな物を当然の如く付けられたのでは、ナビゲートAIどころか流暢に会話出来るNPCさえ居なかったヘルズクライシスがサービス終了するのも自明の理だったかもしれない。


 だがしかしそれでも、肝心のゲーム面ではヘルクラの方が優れている筈。そう老害的な考えに固執するジークはそのナビゲートAIとやらに話し掛ける。


「じゃあモッチーナ、そんなサブコンテンツの話じゃなく肝心なゲームの方の話をしてくれよ。今全世界で大人気なeスポーツって奴のさッ』


『うんッ!! それなら早速アリーナの方へ行っちゃおうか。ルール説明も実際に実物を見ながらやった方が覚えやすいと思うしッ』


 疾風のまるで挑発でもするかの様な発言に対し、モッチーナはAIなのだから当然かも知れないが曇り一つ無い笑顔で応じる。

 そしてワールド内を瞬間移動、一気にこのゲームのメインコンテンツであるアリーナへと場を移した。


 瞼を開けた先で立っていたのは、何やら厳かな雰囲気とBGMが流れる神殿の様な場所。目の前には金・緑・白の三色に塗り分けられた、10体の彫刻が横一列に並んでいる。


 そしてそれらを前に、モッチーナの解説が始まる。


『このゲーム、バンクエットオブレジェンズは各プレイヤーが10個存在するジョブのいずれかを選択し、4人1組で構成されたチーム同士が戦うストラテジーアクションだよ。目の前の彫刻はそのジョブを表しているんだ』


 モッチーナの説明曰わく、どうやらこのゲームでは全てのプレイヤーが事前にジョブというステータスや特殊能力を決める要素の選択を迫られるらしい。

 そして4対4のチーム戦で勝敗を争うと。


『此処までで何か分からない事ある?』


「いや、オレは多少ゲーム慣れしてるから大丈夫」


『そっかッ。じゃあ次はそれぞれのジョブの説明に移っていくね! この10個あるジョブは更に三つのクラスっていう括りで分けられていて、ウォーリアークラスに4個、ギルドクラスに4個、マジッククラスに2個それぞれ属しているんだ。丁度彫刻はそのクラス毎に塗り分けられているよッ』


 そう言ってモッチーナは金色で塗られた4個の彫刻へと近付いていく。


『この金色で塗られている彫刻はウォーリアクラス。たった1人でも試合を決められるくらい強力な力を持ったクラスで、1チームに1人までしかこのクラスを選択する事は出来ないんだ』


 ウォーリアクラスのざっくりとした説明がモッチーナより行われた。1チーム1人という制限が掛けられているという事は、恐らくその制限が無ければチーム全員がこれで埋まってしまう程桁違いな力を持っているのだろう。

 そしてその前置きを経て、そんなウォーリアクラスに属する4つのジョブの説明が始まる。



『このクラスに属するジョブは「ナイト」・「アサシン」・「パラディン」・「モノノフ」の4つ。ナイトは総合的に全てのステータスが高く設定された、全ジョブの中で最も人気が高いジョブだよ。アサシンは攻撃力とスピードが全ジョブ中でトップだけど、体力が低くて他のウォーリアクラスから攻撃を食らえば一撃でキルされちゃうから注意が必要。パラディンは体力値が最高で、更にスキルもダメージ軽減系が多いからかなり倒すのが難しいジョブだね。モノノフは総合ステータスがこのウォーリアクラスの中では一番低いけど、特殊なアクションを行なう事で様々なバフが付くから、瞬間的に全てのジョブを上回るステータスに成れるんだッ』



 モッチーナの説明によると、1チームに一人しか入れられないという縛りに見合ったトップやNo.1という言葉が幾度も登場する程強力なジョブ達がこのウォーリアクラスに名を連ねていていた。

 ウォーリアクラスのプレイヤーをどう活かすのか、将又相手のウォーリアクラスを如何に墜とすのかが勝負の鍵を握りそうである。


 そんな事を考える疾風の前で、今度は緑色の四つの彫刻に近付いたモッチーナが次のクラスの説明を始めた。


『今度はこの緑色に塗られたギルドクラス。このクラスは1チームで何人でも選択できて、戦闘向きだけじゃないサポート特化のジョブも多数属しているんだ。他のクラスより役割が明確化されている訳じゃないから、使い手の力量が露骨に出るクラスでもあるね』


 ギルドクラスの特徴、それは分かり易い戦闘力以外の能力にあるらしい。



『属してるのは「ハンター」、「マーチャント」「ドクター」、「バンディット」の四つ。ハンターは弓を使うジョブで、後から説明するけどゲームスタート時点では最高のステータスを持ってて序盤戦にとっても強いんだッ。マーチャントは所有出来るアイテム数が全ジョブ中最多で、多種多様なアイテムを駆使し戦場を掻き回すよ。ドクターはサポートや回復を得意としていてステータスは全ジョブ中最低、でも生き残れば残る程アドバンテージが生まれるから厄介なジョブでは有るね。四つ目のバンディットは攻撃力とスピードがウォーリアクラスには及ばない程度に高くて中途半端ちゅうとはんぱと言えばそうなステータスになってる、でもプレイヤーを倒すとボーナスが発生して際限なく成長するから侮れないよ!』



 そうモッチーナは一気にギルドクラスの説明を行なってみせた。


 どうやらこのクラスに属しているジョブはギルドクラスとして一纏めにされてはいるものの、一つ一つが全く異なる特性を持っているらしい。

 序盤戦最強の弓使いアーチャー、所有アイテム数最多のマーチャント、サポートのプロドクター、一攫千金のバンディット。どれも聞いただけで一癖も二癖もあるジョブだと分かる程ユニークだ。



 今説明を受けたこれらのジョブだけで一つのゲームとしては十二分にコンテンツとして充実していると言えるだろう。

 しかし未だもう一つクラスが残されており、その白色に塗られた二つ彫刻へとモッチーナは近付いていった。


『最後はこの白色に塗られたマジッククラス。マジッククラスは他クラスと全く別物のプレイングを求められ、魔法陣を練りステージ全体へと影響を及ぼせる大魔法を放って試合を自由自在にコントロール出来るんだ。このクラスは殆ど前線に出る事は無いから、最後尾でマップを睨みながら魔法を打っていくボードゲームの様なプレイが求められるねッ』


 後にジークが受けた説明によると、マジッククラスは錬成時間の掛かる火・氷・風・土等々の魔法陣を組み合わせ百以上の魔法を臨機応変に放って戦うクラスらしい。

 試合展開を予想しながら序盤より魔法陣を錬成し続けなくてはならない為、優れた先読みの頭脳が求められる。



『属しているジョブは「ウィザード」、「ネクロマンサー」の二つ。ウィザードはサポートや広範囲攻撃などステージ全体に影響を及ぼせる大魔法を多数扱う事が出来て、魔法一発で戦況が引っくり返る事もあるとっても強力なジョブだよ。ネクロマンサージョブは即死魔法やデバフを与える魔法に特化したジョブで、運要素が絡むアクションを多数起こせるからラック次第では格上相手でもチャンスを掴めるのが強みだね』



 マジッククラスに属する最後のジョブ、ウィザードとネクロマンサーの解説をモッチーナが行なってくれた。

 ステージ全体に影響を及ばせる魔法の力、確実にウォーリアクラスと並ぶレベルでこのマジッククラスも実戦では重要になってくるのだろう。


 そして恐らく途轍も無く頭を使うだろうから自分には向かないな、そうジークは思ったのであった。


『これで大まかだけど、各ジョブに関する説明は終了だよ。必要があればもっと詳しいクラスやジョブ特有なスキルの説明、全ジョブで共通して使えるアイテムの説明もするけど如何する?』


 ざっくりとではあるがジョブの説明を行なってくれたモッチーナがそう尋ねてくる。

 しかしこれ以上ズラズラと言葉を並べ立てられても皺が少ない自分の脳味噌では覚えきれる気がしない疾風は首を横に振った。


「細かい事はやりながら何となく身体で覚えていくよ。そういう訳でモッチーナ、早速そのジョブを選択して実戦に行かせてくれッ』


『了解ッ!! まあ百聞は一見にしかずって昔から言うしね、じゃあ早速ジーク君の祈念すべき最初の試合へ行ってみよう!!』


 モッチーナから受けた説明を何となく頭の片隅へ留め、早く実際に戦ってみたいと要求。

 そしてその求めに従い、直ぐにジークのバンクエットオブレジェンスでの初戦が始まったのであった。

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