バンクエットオブレジェンズ~極めていた鬼畜ゲーがサービス終了し生きがいを失ったオレはフルダイブ型Eスポーツチームに拉致ッ……スカウトされ国内最大リーグの頂点を目指すことに!!~
@NEOki
第一話 ゲームの終わり
ドッパァァァン…………ドッパァァァン………ドッパァァァン………ドッパァァン………
現実では有り得ない複雑で巨大な花火が幾つも打ち上げられ、夜闇に沈んだ街をその極彩色ごくさいしきが一瞬真昼の様に照らし再び闇へ沈めてゆく。
放たれる閃光、網膜もうまくへ染み込んだ残像、火に先立たれ灰煙、それらが渾沌と重なりまるで夜空に一枚の絵画が描かれていくかの如くであった。
しかしその頭上で繰り広げられる華胥かしょの絶景にも関わらず、それを小高い丘の上より眺める影2つを包む空気は、この世の終わりが如く重かった。
「ずっと前から言われてた事だけど………本当に終っちゃうんだなこのゲーム」
「そうですね。覚悟はとっくに出来ているつもりでしたが、いざ本当に終りとなるとやはり心に来る物がありますね………」
そう、この世界はゲーム。
『ヘルズクライシス』という一部マニアの間で絶大な人気を誇り、今日遂にサービス終了を迎えるフルダイブ型VRゲームの世界である。
ヘルズクライシスは古き良きクエストを受注しモンスターを仲間と協力して倒すジャンルの高難易度ゲーム。
開発段階から掲げていた最強の鬼畜ゲーを作るというコンセプトを愚直に守り、アイテム所有量の制限・残機無しの1デス即クエスト失敗のシステム・一瞬の回避ミスが命取りとなるモンスターの攻撃力と速度・其れに対して余りに貧弱なプレイヤー側の攻撃力と体力、という近年のやたら難易度を落としライト層を取り込もうとする流れと逆行するタイトルであった。
その初心を徹頭徹尾てっとうてつび貫く運営の方針は一部の鬼畜ゲー界隈で徐々に広まっていき、一時期は同時接続数一万人超えの決して大ヒットとは呼べぬもののオンラインゲームらしい賑わいがあった時期も存在していた。
しかし………
「………クソォォッ!! 何でこんなに面白いゲームがサービス終了しなくちゃ成らないんだよ!! ヘルクラ程やり甲斐があって飽きの来ないゲーム他に無いのにッ」
「仕方ありませんよ。此処の運営は真摯でしたが、お金稼ぎが下手でしたから」
ヘルズクライシスが現在この様にサービス終了の憂き目に遭っている理由、それは余りにストイック過ぎる運営側に問題があった。
札束での殴り合いはこのゲームの理念に反するとして課金要素を極力排除する選択をした運営は、収入をステータスに還元されないスキンやゲーム内音楽の販売に絞っていた。
しかしその選択により当然収支は赤字続き。しかもどんどんと新たな攻略法を開発してくる上位プレイヤー達と競うように難易度調整のアップデートを繰り返した結果人件費も嵩んでいく。
更にそのアップデートによる難易度上昇の弊害へいがいで正攻法では満足にプレイする事さえ出来なく成り、新規プレイヤーの参入が激減。
それが本日サービス終了するに当たり、ヘルズクライシスの歩んできた大まかだがそれが全てのストーリーであった。
「ぐうぅ〜毎月25万のオレのお布施だけじゃ支えきれなかったのかッ。そもそももっとプレイヤーが多ければスキン販売だけでも何とかなったのに、何で人口が増えないんだ!!」
「この難易度だとやっぱり一般受けはしませんよ。普通の人間じゃ一番最初のモンスターすら倒せないって言いますし」
「……そんなに難しいかな、このゲーム?」
「ジーク君はゲームが上手いからそう思うだけです。だってほら、実際この場所へ辿り着いたプレイヤーは、私達二人しか居ないでしょ?」
片方の影。黒と紫の鎧に全身を覆われ下から禍々しいオーラが溢れ出ているジークと呼ばれたプレイヤーが、まるで駄々を捏ねる様に身体を地面へ投げ出した。
そしてそんな姿をもう片方、七色の糸で織られた白を基調とする着物を纏い足下からは花々が湧き萌ゆるエフェクトが出ているプレイヤーが、寂の感情籠もった瞳で見る。
そんな二人の現在立っている場所、其処は『覇者の岳陵』というこのゲーム内でも特別な意味を持つ空間。
全クエストを最高評価でクリアすると出現する裏ボスに挑み勝利した者だけが足を踏み入れる事を許される、まるでこの世界を我が物としたかの様なヘルズクライシスのステージを一望に収める絶景であった。
しかしそんな正しく全プレイヤーの目標と呼べる場所にも関わらず、今日に限らずこれまで一度たりとも互い以外の人間を見ることは無かった。
その事実こそ、このゲームの異常性を示す何よりの証拠である。
「………確かに、オレと白夜ちゃん以外誰もクリア出来てないんだからこのゲームが普通じゃないって事は分かってる。でも、それでも、オレの居場所はこのゲームの中にしか無いんだよ」
今更手遅れである事など分かっている。分かっているのだが、其れでもジークは請願する様な声を溢さずにはいられなかった。
「今日や昨日みたいに一日中君とクエストへ潜ってさ、勝ち目の見当たらないモンスターの突破口を探して終わりの見えないトライアンドエラーを繰り返しているその時間だけは……外の世界を忘れられた。クリア何て興味ない。唯永遠に終らない遊び場を提供してくれるこのゲームが好きだったんだ。でもッ、その永遠がもうすぐ終っちまうッ」
視線を未来へ向けることを辞め、目も耳も全て塞いで過去に塞ぎ込もうとする彼の言葉は、何時の間にか涙声と成っていた。
そして嗚咽が漏れてしまう前にジークが口を噤んだ為、たった二人しか居ない英雄の岳陵に再び花火の音だけが垂れ流されたのである。
しかしそんな重い無言の帳とばりを、白夜と呼ばれた女性プレイヤーが意を決した様に破ったのだった。
「終ってしまうのは勿論嫌ですけど、このまま暗い顔で最後を迎える何てそれこそ悲し過ぎますよ。だから残った少ない時間位楽しい事を考えませんか? 今までの思い出とか、この先の未来で忘れてしまわない様に」
「………そうだな。思い返せば色んな事があったよなッ、白夜ちゃんはどのモンスターが記憶に残ってる?」
白夜の言葉にジークは一瞬の沈黙を挟み、それからスイッチを入れた様に明るい声へ切り替え言った。
「私はそうですね~、ギガントローダ皇帝種かな。序盤に登場した地味モンスターが突然魔改造されて登場したあの時の衝撃が今でも鮮烈です」
「おッ、懐かしいね。ギガントローダか。めちゃくち逃げ回らされた記憶があるなぁ」
「はい!! 攻撃モーションが終わり隙が生まれるまで、一撃必殺の転がり攻撃から二時間只管避け続けるのを計4セット行ったのは良い思い出です」
「合計で8時間以上逃げ回ったんだよな。クリアした後マジで死んだ様に眠ったのを覚えてるわ、思い出しただけで頭痛くなってくるッ」
「……確かあの時、3セット目で私が乙った後ジーク君が一人で4セット目を逃げ切ってトドメを刺してくれたんですよね」
「ん? そんな事も、あったっけ?? 意識朦朧としてて記憶があんまり…」
「私は鮮明に覚えてますよ。瞼を閉じたら今でもその場に戻れるくらい」
「ハハッ、何か照れるな〜。でも意外だ、もっと白夜ちゃんが活躍したモンスターは他にも一杯いただろ? ヨコズナワタリとか、ミナゾコワダツミとか」
「ええ。でもこのモンスターはやっぱり特別なんです。自分が活躍して倒したモンスターなんて有り触れてますから。私にとって初めての経験だったんですよ、自分のミスを殿方にフォローして貰うのはッ」
そうまるでたった今命を救われたばかりかの様に白夜は横で寝そべっている彼へと笑い掛けた。
しかし一方でそれを受けたジークの方はというと、その笑顔の意味をよく理解出来ず兜かぶとの下にクエスチョンマークを浮かべる。
そうして今度は彼が自分の記憶に残ったモンスターを話す番。だが、白夜にはもうジークが何の名前を上げるのか見当が付いていた。
「オレはやっぱり〜龍皇帝ミラグランドロードかな」
「言うと思ってましたッ。私達しか倒していないこのゲームのラスボス、一番苦戦した敵モンスターですもんね」
「ああ。間違いなくこれまでのゲームで、いやこの先何年経とうとアレを上回る敵キャラクターは現れない最強のラスボス。まあ考えてみたら、三時間近くステージ全域が攻撃範囲の即死攻撃を連射し続けるモンスターがラスボスとかそりゃあサービス終了するわな」
「殆ど避けゲーみたいに成ってましたからね。0.1秒しかないタイミングに回避を合わせ続けなければ即全体力を持っていかれるのは流石ラスボスって感じ」
「そうそう! しかもその第1ウェーブだけで終了だと思ったらお決まりの如く更に凶悪な第2,第3ウェーブを放ってくるヘルズクライシスクオリティー」
「あの時も、結局最後の一撃はジーク君が入れたんですよね。緊急回避の無敵を0.01秒のチャンスに合わせ続けながら前に進んでいく後ろ姿がカッコよかったですッ!!」
「そう言えばさ、あの時絶対白夜ちゃんオレにラストアタック譲ってたよね」
「……えッ?」
「だって最後の即死ラッシュも平気で生き延びてたし、後でもう一度クエスト受けた時は普通にラストアタック入れてたし」
「いえいえそんな事は有りませんよ。か弱い白夜はあの時手も足も出なかったんです、ジーク君に私は救われたんです!!」
「いやでもッ…………」
ッドオ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″ン!!!!
こうやって話せるのも今日が最後となり、今まで何となく気になっていた事を口にしたジークの声を特大の轟音が遮る。
そしてその超大玉花火によって夜空に描かれた『プレイヤーの皆様、今日までヘルズクライシスを愛して頂きありがとうございました!!』という文字。
遂に、サービス終了の時が訪れてたのであった。
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