大文字伝子の休日16

クライングフリーマン

大文字伝子の休日16

午後1時。大文字邸。ダイニングキッチン。物部、福本、依田が来ている。

「テレビ?」一同は高遠が話し出したことに驚いた。

「テレビに出るの?エマージェンシーガールズが?」と依田が言った。

「大丈夫なのか、高遠。いくら目撃情報が多くて有名だと言っても、危険じゃないのか?大文字は何を考えているんだ?」と物部は言った。

「伝子さんは関係無いんですよ、副部長。」と高遠は言った。

「じゃ、誰が?理事官が?」「発案者はみちるちゃん。それに、理事官が乗った。」

「大文字先輩は、そんなことさせないよな。今、誰が仕切ってんの?高遠。」と福本が言った。

「一佐。流石に一佐も警視も反対したらしい。でも、『死の商人』らしき事件の片鱗が2週間以上ないだろ?」と高遠が言うと、「ひょっとしたら、おびき出し作戦?」と物部がひらめきを口にした。

「流石、我らが副部長。」「おだてるなよ。大文字、知ってるのか?」

高遠は首を振ると、「猛反対するでしょ?」と物部に応えた。

「先輩、今どこ?」「アメリカ陸軍・空軍・海軍の研修の後、ジョーと一緒に京都見物。あ。南部夫妻が案内役ね。」福本の問いに、得意げに高遠は応えた。

「あ。どこのテレビ?」「テレビA。電波オークションの後、4つテレビが出来たけど、国民の関心が薄いのか、まだ仮名なんだよね。」今度は依田の問いに高遠は平然と応えた。

「最初はテレビAからEITOに取材申し込みがあったんだって。テレビAはEITOも出資しているしね。利根川さんからも宣伝しましょうよ、って言ってきたらしい。で、PR番組。みちるちゃん。テレビに出演出来るって喜んでたけど、実は、タレントさんの替え玉。エマージェンシーガールズは、『いざと言うとき』に登場。避難誘導は利根川さんも慣れているしね。」「え?MCは利根川さんなの?もう完全にこっちサイドだね。」

高遠と依田の会話に、「どっちみちDDは関係なしか。」と物部が言うと、「避難誘導だね、僕らはきっと。」と服部が入って来て言った。

「いつ放送ですか?高遠さん。」と、山城が入って来て言った。

「聞いてたの?」と福本が言うと、「聞こえますよ、響いているんだから。」と服部は言った。

高遠のスマホが鳴った。南原からだ。「ごめんなさい、行けなくて。文子が体調悪くて、教室を休めなくて。」「気にしないで。『まだ』事件は起こっていないから。」

皆は笑った。服部がLPを購入してきたので、皆でAVルームに移動して、唱和した。

午後1時。京都。四条河原町。総子と南部がジョーと伝子を案内している。

「新京極って、エリアの名前だったんだ。」と伝子が感心した。

「一番京都らしいし、一番京都らしくない土地やな。大阪人には『キタ』や『ミナミ』みたいな、はっきりした繁華街じゃないから、嫌う者もいてるンやけど、わしらは気にならんな。」と南部が言った。

「今日は、なぎさねえちゃん、ケエへんの?」と総子が言うと、「留守番、かな。私の補佐をしているからな、EITOでは。留守を任せてある。そう言えば、南部さん、なぎさがすっかり、女らしくなりました。やっぱり、女は恋すると変わるんですね。」と、伝子は話題を南部に振った。

「そら、よう言いますな。総子はエエ意味でも悪い意味でも変わりましたけどな。」

笑って言う南部に「悪妻やって言いたいんか?ウチを犯した癖に。」と総子が割り込んだ。

「人聞きの悪いこと言うな。勝手に布団に入って来たんやないか。」と南部は憮然として言った。

「まあまあ。『夫婦喧嘩は犬も食わない』って、諺通りですね。」とジョーは笑った。

「ジョーに一本取られたな。よくそんな諺知ってたな。」「池上先生に教えて貰ったんです。僕の日本語の先生は、日本の文化も教えてくれたんですよ。」

「さて。何を買おうかな?」

今日の伝子は、のんびりしていた。

午後7時。テレビAの公開番組『EITOに聞く』が始まった。テレビ局の屋外ステージだった。

MCの利根川が、張り切って、呼び出しをかけた。

「それでは、登場していただきましょう、エマージェンシーガールズ!!」

8人のエマージェンシーガールズが登場した。最後に、理事官が登場した。

彼女達は、黒ずくめのボディースーツを着て、顔は目鼻口しか出ていない。

腰の所にA,B,C,とアルファベットの札を着けている。

「まず、理事官。以前、記者会見の時に拝見しましたが、非常に珍しい組織ですね。」

「ええ。警察OBと自衛隊OBのクラウドファウンデーション、早い話が寄付で運営しております。金額は勘弁してください。」

「では、見たところ、きれいどころがお揃いですが、皆警察官や自衛官ですか?」

「元・・・ですね。」「あ。警察出身の方と自衛隊出身の方が参加しておられる・・・ということですね。」理事官は返事をせず、頷いた。

「Aの方。何故、参加を?」「日本には対テロ組織がありません。警察にも自衛隊にも、直接のテロ対抗組織がないので、参加しました。」

「具体的には何を?」「それは、私がお答えしましょう。現代は情報の時代。現実に起こった事件でテロとおぼしきものは、積極的に解決します。残念ながら、先日の自爆テロは防ぐことは出来ませんでしたが、いつも迅速に対処しております。また、テロを画策している情報があれば、未然に防ぎます。ただ、この場合の事件は明らかには出来ません。模倣犯を防ぐ為に。」

「つまり、EITOは我々の陰になりひなたになり活躍をしていると、いう訳ですね。」

「その通りです。」「では、ここで、一旦コマーシャルでーす。」

午後7時半。祇園の、ある料亭。

買い物を済ませた伝子一行は、東栄の社長のおごりで席を設けて貰い、舞妓さんや芸妓さんの踊りを堪能した。

伝子と総子はジュース。南部と中津健二と東栄社長の岡谷は酒やビールを飲んでいた。

「大文字さんが、飲めないとは意外でしたね。」と中津が言った。「私もです。」と岡谷が言った。

「白けさせて申し訳ない。」と、伝子が謝った。

南部は、とりなすように、「実はEITOの精鋭は皆、サケもタバコもやらんそうですな。理事官によると。特に選考基準にはないそうですが。」と岡谷や中津に言った。

「じゃあ、偶然なんですね。尤も、運転する際は自重が必要でしょうけど。まあ、警察官も自衛官もカタイ商売だし。」と中津は感心した。

「ええやん、別に。男の人は飲む飲まないに拘りすぎ。多様性の時代やで。」「多様性?お前、そんな言葉知ってたんか。」「中津さんに教えてもろたんや。」「そやろうと思うたわ。」

「まあまあ。漫才は、その辺にして貰って。理事官は本気ですか?前に一度断られたんだけど、EITOの映画作るとか言うのは。今日もテレビでPR番組をやっているとか。」

「本気みたいですね。南部さんを通じて何度か助けて頂いたこともあるし、実は、最近敵の様子が静かなので。」と伝子が言うと、「そうなんですよね。僕も色々反社や半グレの様子を調べているんですけどね、尻尾が掴めない。あ。罠張っているんでしょうか?テレビとか映画化とかは。」と中津が言い出した。

伝子は黙って頷いた。「ねえちゃん、今日ウチの家に泊まるんやろ?お父ちゃんに迎えに来てって頼んどいたで。」「ありがとう、総子。」「あっちは、大丈夫なん?もし敵が現れたら?」「なぎさに任せておけば大丈夫よ。」「まあ、なぎさねえちゃんやったら、何とかなるかな?」二人は笑った。

午後7時45分。舞台の照明が一時消えた。再び点いた時は、エマージェンシーガールズの背後にもうひと組のエマージェンシーガールズが現れ、それぞれ後ろから銃を突きつけていた。

舞台の上手と下手からブーメランやシューターが跳んできた。そして、エマージェンシーガールズを襲ったエマージェンシーガールズの拳銃は床に落ちた。シューターとは、うろこ形の手裏剣のようなものだ。

「利根川さん!」と理事官が叫び、利根川は「みんな逃げるんだ!!」と出入り口を指した。

観客も、最初のエマージェンシーガールズも出入り口から逃げた。出入り口では愛宕や警官隊、服部や物部のDDメンバーも必死で避難誘導をしていた。その後、利根川と理事官が逃げた。

その間、ワンダーウーマンが現れ、皆の盾になりながら、拳銃を落としたエマージェンシーガールズと対峙した。

数人のワンダーウーマンは、数秒でエマージェンシーガールズを倒し、その後を、どこからか現れた黒覆面の男達が十数名、雪崩れ込んで来た。ワンダーウーマン達は、男達が身構えるより早くペッパーガンやブーメランで拳銃を叩き落とした。

ペッパーガンとは、こしょうその他を原材料にした、弾を撃つガンで、通常の拳銃の弾は使っていない。

そして、ある者はトンファーで、ある者はヌンチャクで、ある者はシューターで闘い、勝利したのはワンダーウーマン軍団だった。わずか40分だった。

午後9時半。祇園。料亭。テレビでEITO出演番組を観ていた、伝子は言った。

「首領格は出てこなかったな。総子。叔父さんに迎えに来て貰ってくれ。」伝子の依頼に総子は嬉々として、電話をした。

午後10時。会場には誰もいなかった。ただ一人の男を除いては。

会場の照明が落ちた。

―完―




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