死神ちゃんと天使くん

君影 ルナ

プロローグ(※)

 如月 瞳は今外にいる。ヒュオゥ、と吹き荒ぶ風を受けてよろけそうになっていた。それをなんとか足を踏ん張って耐える。


 フッと目線を下に向けると、小さな道路があった。そしてそこを通る小さな車、小さな自転車、小さな人々……


 全てが小さく見えた。当たり前だ。だってここはマンションの屋上なのだから。


「っ……、」


 ああ、まただ。また私の悪い癖、泣き虫が顔を出す。これからのことを考えてじわりと滲んだ目は道路をぐにゃりぐにゃりと歪ませた。


「も、戻っても……解決しないから……だ、だから……ここで……終わらせなきゃ……」


 ポタ、ポタ、と目から溢れた涙は風に乗って飛んでいく。そう、この涙のように、私も、と、飛ばなきゃ……


 カタカタと震える体。恐怖に押し潰されそうになっていた。


 しかしそんな中で、『でも……』とこれからの行動を躊躇する自分も確かに存在していた。


 本当に死んで解決するのか、と。こんな状況でさえ、そんな冷静な自分がいることにイライラする。泣きたいんだか、怒りたいんだか、自分でもよく分からないでいた。感情という感情が全てぐちゃぐちゃになってしまったかのようだった。


 今まで解決しようとしてもどうにもならなかっただろう? 私の声を聞いてくれる人はいなかったろう? 死んでも悲しむ人なんていやしないだろう?


 そう自問しては自分で自分の心を抉る。しかしこれが真実なのだから……


「それなら、私の人生は……なんだったの?」


 そう問いかけても、誰かが返事をしてくれるはずもない。ここには私一人なのだから。


「苦しい、苦しい……」


 この世の中はなんて生き苦しいんだ。そしてそれを終わらせるために……やっぱり死ななければ……


 覚悟を決めろ、如月 瞳。ここで行動しなければ、また地獄が待っているんだから。だから……


「さようなら、自分……」


 覚悟を決めてフッと体の力を抜き、その身を風に任せる。


 重力に従って自分の体が落ちていく──






 ──side


「私の人生は……なんだったの?」

『……今終わりにしなければ、人生の意味もいつか見つかるんじゃない? だからさ、ここで終わりにしようだなんて思わないで。ね? ね? ね? 考え直してよ。』


 僕の説得は瞳ちゃんに全く響かない。と言うよりも聞こえていない、の方が適当か。もちろん姿も見えない。僕は幽体だからね。


 そんな僕が何を言っても未来が変わらないのかもしれないが、それでも声を掛けたかった。死ぬ以外の方法をこの子には見つけて欲しかった。


 僕だって『死ななきゃ良かった』って今になって思ったんだ。同じ思いをこの子にはさせたくない。僕のエゴでも良い。だから……!


「さようなら、自分……」


 フッと瞳ちゃんは落ちていく。



『死なないで! お願い!』



 やっぱりどんなに願っても僕の声は届かない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る