第9話〜超常と王女

私は今、侍女の装いに身を包んで、1人の女の子の前に立っていた。


「まぁ!貴女が」


「はい。ご存知のことと存じますが改めまして。マグダイア伯爵家が長女、ニーナ=マグダイアです。以後お見知りおき下さいませ」


「あら、まだ幼いのにしっかりとした子ね。よろしくね」


そう言って微笑んでいるのは何を隠そうこの国にいる王女の一人。


ハーレス王国の第2王女、サーラ=ヴァン=ハーレス。


確か先月8歳になったと聞いた。


金糸のように美しく輝くサラサラの金髪に、宝石のように輝くエメラルドグリーンの瞳。


王族だけあって発育がよく、私とは頭一つ分以上の差がある。


御目通りが叶い、今日から正式に王女付きの侍女となった。


貴族令嬢としての教育は一応受けたし、侍女としての作法は必要だったから身につけてはいる。


もちろん潜入調査のためもあるけど、ある程度の身分の令嬢は王宮に一定期間侍女として務める必要があるから。


ま、花嫁修行とか、お婿探しとか色んな理由もあるみたいだけどね。


何はともあれ、私はしばらくの間この王女付きの護衛という任務をこなさなければいけない。


正確には、侍女として側にいながら、この王女様の護衛もしなくちゃいけないのだ。


他国の刺客から命を狙われるこの第2王女を守り、そして可能ならば刺客を捕らえるのだ。


…………。


と、意気込んだはいいものの、私は早速サーラ王女の玩具にされていた。


1時間ほど前から、ずっと着せ替え人形にされている。


ちなみに当然ながら二人きりではない。


私以外にも何人もの侍女がいる。


しかしその誰もがむしろ活き活きと着替えを持ってくるので、着せ替えが終わらない。


いや、貴女方、お仕事は?


王女さまだって習い事や勉強があるでしょうに。


本来王宮に勤める、それも王族に仕える侍女なんかは貴族の子女が素養を身につけるために就くことが多いから、私なんか御目通りが叶わないほどの身分だったりする。


一応私も伯爵令嬢だけど、普通に公爵家の何女が〜なんてざらだから全然気が抜けない。


というか成人しないと、その家の身分は正式には認められないので、実のところ私の王宮での身分はそこまで高くなかったりするのだ。


女性の嫉妬が恐ろしいのは知識として知ってはいる。


そのため、部屋の隅でおとなしくしていようと思ったのだけど…。


「う〜ん、ニーナはやっぱり何を着ても似合うわね!本当に可愛いわ」


「は、はい。ありがとうございます、殿下」


そう返したところ、サーラ王女はやや不機嫌そうに、


「サーラって名前で呼んでって言ったでしょう?」


そう言った。


いやいや、そんなことできるわけがないでしょうに。


ここで下手にお局様たちに目を付けられたら本来の仕事ができなくなる。


「しかし、そんな恐れ多い…。ここでの私の身分では…」


「あら、大丈夫よ。表向き貴女は私付きの侍女ということになってるけど、実際は同年代のお友達のいない私にお父様がご配慮下さったのだもの」


なるほど、国王陛下は無駄な軋轢を生まないために、そういう名目を王女様と周囲に伝えたのか。


通りで周りが年上ばかりだと思った。


「だからね、ニーナ?」


「はい、なんでしょうか」


「私とお友達になりましょう!」


私にとっても初めての同年代の友達ができました。

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