您とハンバーグ
@uz610muto
您とハンバーグ
大学一年の春、僕は您と会った。英語の時間、僕が生徒で、您がテーチングアシスタントだった。您と初めて会った時のことは忘れない。まるで、初恋のような衝撃だった。しかし、その後、您が留学生だと聞いた。您とは以前、図書館で一度だけ挨拶をした。
クリスマス前。耳に暖房の空調の音。僕は一心にドストエフスキーの「罪と罰」を読んでいた。
「淋しくないの?」
優しいが、皮肉がかっている声が聞こえた。您が隣に立っていた。
「ちょっといい」
ついてきてというような身振りをして、您は、背を向けて歩き出した。ついていくと、図書館の横の広場のベンチに行き、僕を座らせようとした。
「ここ。何かあるよ。座って」
「いいですよ」
您はそのまま去っていった。
待っている間に、外国人と思しき一人の男がやってきた。
「もしもし、私は李というものですが」
「何ですか?」
「あなたはこの学校の生徒さんですか?」
「そうです」
「いく研究室は決まっていますか?」
「ナノテクノロジーなどを面白いと考えています」
「〇〇先生ですか?」
「そうです」
「では、あなたは、先生の下について、一生その研究を続けていくつもりですか?」
僕は少しだけカチンとした。
「面白いとは思いますが、そこまでピンとくるものではなかったです」
「では、あなたはもっと素晴らしい研究をできるとお考えですね」
「はい」
「なるほど、名前を覚えておきましょう。あなたのお名前は、何と言いますか?」
「〇〇〇〇と言います」
語調は柔らかいが、まるで喧嘩をしているみたいに殺気だって会話が進んだ。
しばらくして、人がハンバーガの袋を持ってきた。
「どう?」
「ちょっとそんな気分では」
「そう。お腹が空いたから食べるヨ」
「どうしたノ?さっきまで淋しいって感じだったのに、今は怒っているみたい」
「淋しいっていうわけじゃなかった。でも、変な人にさっき話しかけられて」
「私?」
您が目を丸くした。
「いや男の人」
さっきの話をした。
「そう、それで?」
「ちょっと研究室と教授のことを悪く言ってしまったようで」
「どうしてそんなことを言ったノ?」
「売り言葉に買い言葉というか」
「どういうコト?」
「話しかけられた男に、お前は教授よりずっと下の身分だ、というようなことを言われて、つい偉そうなことを言ってしまって」
您は爆笑した。
「それで、あなたは、教授様よりも偉くなってしましいたのネ」
您は、外国人がよく浮かべるニコッとした笑顔を作って、
「食べた、食べた」
と言った。
冷めたハンバーガーは、僕の胃の腑に落ち着いた
人のハンバーガーはこなれた味がして、教授への罪の意識が流れ落ちた。
您とはクリスマスは会わなかったが、久しぶりに新年を楽しみにできるゆっくりとした年末が迎えられた。
(終わり)
您とハンバーグ @uz610muto
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