今は昔。

風邪

今は昔。ー1ー



 今は昔、竹取の翁というものありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろずのことに使いけり。名をばさぬきの造となんいいける。




「歴史的仮名使いねぇ…」

 私は机に突っ伏した。何で今の時代に使わない歴史的仮名使いを中1になって勉強するの?

 ああ、かぐや姫のお話が無ければ…今私がこんな勉強をしなくて済むのに。

「竹取さん、ちゃんと教科書を開く!ページは確か…118!」

 歴史的仮名使い…だけでなく、国語が嫌いな私は教科書も開いていない。それを見ていたのか、国語の時間は隣の席の風間くんが国語を教えてくれる。いつも。休んでない日は、いつも。いや、風間くんは休むことがまずないからほぼ毎日だ。

「竹取さん?」

「ああ、118ページね。」

「うん。」

 風間くんはまんざらでもない顔をする。ほら、まただ。私の胸がドキドキと鳴る。





 勘のいい方はおきずきだろう。私は風間くんの事が好きだ。だから、国語が好きだ。





「竹取さん、どうしたの?」

「ううん。何でも。」

 私の顔が多分ニヤケている。だから、風間くんが心配するのだ。でも、また喋れたからもっとニヤケている。

「おい、そこ。何はなしてんだ!」

「「すみません!」」

 私と風間くん、2人合わせて背筋を伸ばして先生に謝る。そして先生が他の方を見た途端に背筋を丸め2人でこっそり笑う。こういう時間が楽しい。こういう時間がいつまでもどこまでも続けば良いのに。



 私の理性が夢をかき消す。そんなことは絶対に無いと。



 彼は国内でも有数の名家で、武道も勉学もたしなんでいる。だから、住む世界が違うのだ。いつか終わりがくるのだ。私の恋もきっと、どこかで終わる。

 かぐや姫には帰る所がある。月だ。月で罪を犯して地上に降ろされた。だが、話の最後には月に帰ってしまうのだ。ちなみに、かぐや姫が犯した罪とは地球に憧れた事という説がある。なんて残酷な話しなんだろう。願うことも許されないなんて。そして地上に降ろされたかぐや姫は5人の男に求婚されるも、遠回しに振ったのだ。

 私も告白した所でかぐや姫に求婚した5人と一緒。遠回しではなく、普通に振られる。

 だから、伝えない。






 私は絶対に無いと思うけど、告白されるのを待つことにした。

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