Dive into NARAKU
――Lila――
「クソッ! クソッ!」
「よしたまえリィラ君!」
制御盤に拳を叩き付けるリィラを、ニコが
なんなんだよアイツ。倒したじゃん。死んだじゃん。生き返るなんて聞いてない。こんなん絶対勝てないじゃんか。ふざけんな。
「おいヘンタイ博士! なんで生き返るって言わないんだよ。トドメを刺せたのに!」
「わたしだって予想外だったのだ! あんなレベルの再生能力とは思っていなかった! えぇいカイ君の援護に集中したまえっ!」
「ぁあもうっ!」
UAVを素早く小刻みに動かし続ける。ショットガンの有効距離は、グレートライフルではたき落とせる距離だ。反撃を貰わない距離感を保たねばならない。
ファイマンはカイを見下ろしたまま動ない。グレートライフルを固定するためのボディベルトの肩周りが撃たれて千切れ、風ではためいていた。
逆転して嬉しいか。負けることはないと思っているんだろ。
――その油断が、命取りだ。
リィラはファイマンの背後に位置取り、照準を合わせて徹甲弾を放つ。疑似物質の杭を打ち出す凄まじい反動で、ボディが一気に後退した。
杭はファイマンの肩の下に刺さった。すかさず距離を詰め、ショットガンを浴びせる。背中に、腰に。分散させた。その傷は撃つ側から治っていく。
「リィラ君っ」
「うっさい! いいんだよ。これで――」
ファイマンが自力で杭を引き抜いた。それと同時にボディベルトが穴だらけになって引き千切れた。
「――これでもうまともに撃てねえだろ!」
「なるほどよくやった!」
っていっても、全く撃てない訳じゃない。そもそもアイツは……格闘が滅茶苦茶に強い。
リィラには正直、どっちがマシなのかは分からなかった。
「カイは……」
また攻撃範囲外に出て、列車の周囲をぐるりと回る。いまリィラが撃っていた隙に車内に潜り込んで、背後から不意打ちする気らしかった。
「……よっし、任せろ!」
その反対側を飛び回り、ギリギリの距離からショットガンを撃ちまくる。当たったり当たらなかったりしているが、注意を逸らすには十分だ。
「オークラー! 援護準備どうなっている!」
隣でニコが呼び掛ける。応えたのはオークラーだった。
[じき並走ポイントだ。反撃を許容できる地点を教えてくれ!]
「並走なら弾道は法線方向として、そこから最短は――」
つまり、ホバーで並走できて、かつ撃ち返されても大丈夫な地点で狙撃しようということだろう。こんなときに巻き添え被害を気にすんのかよ。リィラにはもどかしかった。
話を聞く一方で、カイはまだ顔を出さない。ファイマンはこちらが痺れを切らせるのを待っている。
根気勝負なら負けねえからな。
「――E288から300! 次はカーブ先に!」
[了解!]
そこが、倒しきる火力を出せる地点ということか。
カイが顔を覗かせた。
「リィラ君、合図したら」
「分かってる、ぶっ放すんだろ!」
「よし!」
一気にファイマンへ詰め寄る。グレートライフルの銃口が持ち上がった瞬間に向きを変えて徹甲弾の反動で回避した。
カイは忍び寄って、アンカーブレードを起動しながら切りつけ――られなかった。
ファイマンがグレートライフルを落としながら信じられない速度で振り返り、刃を掴んだ。
「はぁっ!?」
思わず声が出た。
見えてなかっただろ。そんなんズルじゃん。まさか狙っていたのがバレてたの?
――ヤバい。
一気に接近して徹甲弾を放とうとする。確実に当たる位置。だが、嫌な予感がして撃てなかった。
その予感に応えるように、ファイマンがカイの振った刃を掴み、引き寄せてカイの姿勢を崩させた。いま撃っていたら、カイに当たっていた。
やっぱりだ。
アイツがヤバいのは、反応速度だけじゃない。反応した上で次の一手をしっかり考えてる。さっきの集中砲火を浴びたのも、回転してUAVを落とすためにわざと待ったんだ。
リィラの中を、冷たい絶望が支配していく。格闘で押されていくカイを見ていることしかできない。
最初っから、勝てる相手じゃなかったじゃん。
[狙撃準備よしッ]
「リィラ君、もうすぐだぞ」
「……やってやるよ、バカ!」
それでも。どんな絶望の中でも。
カイを見捨てる選択肢などない。
ファイマンの真上近くに位置取る。格闘中、もっとも死角になる場所だ。だが撃たない。いつ撃つかを感付かれてはならない。
ファイマンはアタシの狙いが分かったみたいに、カイと頻繁に位置を変えるように戦い始めた。
よく、考えろ。アタシにできることはそれだけだ。ごく当たり前のことでいいんだ。法則ってのはそういうもんだろ。
格闘は――。
「――てェッ!」
――手の届く位置でする。
カイが飛び退いた瞬間、カイのいた位置に徹甲弾を放った。
追ったファイマンの脚に刺さり、貫いて列車の天井へ
右腕が千切れかけ、ぶらりとする。その揺れが収まらない内から怪我が治癒していく。
徹甲弾二発目。ぶっ放すと左肩に刺さり、二発目のライフル弾が脇腹を貫く。
行ける。行けるぞこれなら。
三発目の徹甲弾が胸を、防御しようとした左手ごとぶち抜く。
――違う。
「え?」
よく見たら刺さってない。あいつ、肩にダメージを負った上で杭をキャッチしやがった。ファイマンはそのまま杭を振り、飛んできた三発目のライフル弾を弾き飛ばす。
無表情と、目があった。
「――っ!」
考える暇もなく急旋回して離脱する。目の前を投げ返された杭が通りすぎた。
「……支援区画から離脱したぞ、リィラ君!」
「……嘘だろ……」
「まだ次がある!」
いいや。ない。アンタだって分かってるんだろ。
ファイマンはアタシたちの手口を学習している。こっちは半分近く弾を使ったのに勝算の見込みすらない。もうこれ以上は……。
「……もうすぐカーブだぞ、減速する気配が全くない」
「そんなこと言ってる場合?」
「場合だ。脱線するだけならまだしも、この先には
山を地下道の深さまで掘って、螺旋状に家を配置した立体居住区だ。吹き抜けはこの列車が通れる程度には広く、脱線して突っ込めば山の高さを落ちることになる。
「もーっ!」
クソ。こんなときに運転手を脅しに行かないといけないのか。
UAVをきびきびと動かし、列車の先頭へ。
「ひっ……うぇえ……」
思わず呻き声が出た。
居るのはぐったりと運転席に突っ伏している男。顔に風穴が開いたテロリストが一匹だった。どこかで巻き込まれたか、さっき弾き飛ばされたライフル弾が当たったのか。
カーブは目前に迫っている……ってことは。
「ヤバいヤバいヤバいっ!」
「カイ君に知らせろ今すぐ!」
「分かってる!」
カイの居る車両まで飛ばす。どうにか格闘で持ちこたえていた。
「……あれ、この機体ってさ」
「あ、ない! スピーカーない!」
「はぁ!? バカこの――」
文句を言うより早く、列車がガクンと跳ねた。
脱線しても列車は止まる気配もなく、車両が穴へ飲み込まれていく。
「うぉおおおっ!? カァァァイッ!」
届かない叫びは、ただむなしく響くだけだった。
――Kai――
殺される。
カイが格闘の中で感じたことだった。
おれが死ねばリィラが悲しむ。そうはさせるか。そう誓った。
ぜってえにこの戦いを終わらせて、ファイマン、お前を解放してやる。そう誓ったのに。
それでも、勝てないものは勝てない。撃つほど、斬るほど、むしろ圧倒されていく。
カイの目の前にあるのは『現実』であり、意思や勢いではどうにもならない『実力差』だった。
……おれは悔しいよ。リィラを置いて死ぬことも。お前を救えないことも。それ以外のことも。
ドローンがすぐ側までやってきて、カイへ向いた。まるで諦めるなと言っているようだった。
……リィラか。ああ、そうだな。諦めてたま――。
グォンッと、下から突き上げられた。
見ればファイマンの向こうの車両が浮いていた。
あれ脱線してね? やっべぇ脱出しないと。
そう思い、だが留まった。
相手は自分ほど、空中を自由に動ける訳じゃない。グレートライフルの反動を使おうにも、ベルトの無い今はまともに撃てないはず。ファイマンも驚いて振り返っている。この脱線はあいつにとって予想外だったということだ。
これはピンチだが――勝機でもある。
脱出しようとしたファイマンへブレードを撃ち込んだ。刃はキャッチされたがそのまま攻め入る。一つ向こうの車両が跳ねた。
ブレードを刺し返される瞬間にガジェットを切り、手の届かないギリギリでスタンバーストを放った。
両足で反動を受け止めて列車天井のPp薄膜へ二本の線を刻み、ファイマンは足で器用に勢いを殺して膝をついた。
それと同時に、カイたちのいる車両が大きく跳ねた。
自分も、ファイマンも、グレートライフルも、宙に舞った。
っしゃあ――やってやるぜ。
ブレードを列車天井へ撃ち込んだ。すぐロープで着地して駆け出す。走る先はグレートライフル。その目前、ファイマンの下へ潜り込み、浮いて無防備になった身体へスタンバーストを放った。
避けようのない一発で、彼は更に、高く高く浮き上がる。
進行方角に対する右、遠くの風景を向くグレートライフルが天井に落ちて高く一跳ねした。カイはグリップ側に回り、銃口をファイマン方角へ向かせる。
……む……かせ……。
重すぎてさっぱり動かず身体の芯が冷たくなってきた。
浮いてるのに全然回らねえ。どうなってんだ。
巨大な銃は落ちて鎮座し、ガタガタと揺れる列車の動きに合わせて揺れている。空中ですら動かなかったのに――。
いいや、ここでこそ応用だ。どうにかやってやる。
カイはアンカーブレードを起動し、返しをライフルの銃口へ引っ掻け、ロープを伸ばしてストック側に回り込み、底を足で踏んづけた。
全身でぐっと力んで構え、右手をグーに。
ガジェットがロープを巻く張力と、マッスルで強化された全身の力で、巨大な岩のようなライフルを回転させていく。
相手をもう一度浮かせに行くのは間に合わない。でも着地に間に合えばいい。もう少し。いや間に合うのか。ファイマンの指先はもう天井に接触している。
――間に合わせろ。
「くぉおおおおおッ!」
グレートライフルの銃口がグンッと回り、ファイマンを捉え、引き金のレバーに手を伸ばし、カイの身体が浮いた。
「はぇ?」
グレートライフルも浮いている。なんだ。どうしたんだ。
カイは背後を見て絶句した。
丸い丸い穴が、底の無い闇が列車を飲み込んでいる。
「ぉわぁああああああっ!?」
姿勢を立て直すこともできずに穴へ放り出された。
グレートライフルを踏み台にして、円筒状の内側にある螺旋の坂へと飛び込み、身体中を打ち付けながら着地した。同時に、蹴った巨大な銃がガンガンと色々な場所に衝突しながら下へ落ちていった。
ど、どうにか助かった。ここ落ちてったら、さすがにヤバいだろ。
この場所は、どうやらこれで住宅地のようで、螺旋坂の途中途中に一定感覚で玄関扉がある。
目の前で、ファイマンが落下していく。
あいつは……落ちちゃったんだな……。
少し虚しくなる――間もなく、相手の意図に気付いた。
……グレートライフルを拾いにいってんのか!
カイも慌てて飛び込む。先に拾われたら一巻の終わりだ。
列車と共に、どこまでも深い
加速する景色の中で、坂が催眠術みたいにグルグルと渦を巻いた。その先に落ちる背が見えた。そこへブレードを撃つと背中に刺さった。と思えば背中がぐるりと振り返りロープを掴んで引く。グッと引き寄せられてまた更に加速した。
マシンガンを撃ちながら急接近し、ファイマンへ到達する直前にブレードを再起動して振りかざす。だが刃が届く前に脇腹に蹴りを入れられた。
壁への方へ弾き飛ばされた。落下の速度で石の手すりの角が迫るのを腕で受け流し、空中制御を失った。身体が勝手に回る。と思えば脇腹にもう一撃蹴りを入れられ、ふわりと浮いた。
感じるはずの痛みや苦しみがほとんど無い。バッファガジェットの副作用だろう。だがおかげで冷静にものを考えられた。ブレードをすぐ隣の列車の壁に刺し、無理やり止まる。ファイマンは今のでカイを踏み台にし、下へと飛んでいた。
そして――グレートライフルに追い付いた。素早く引き金側に回って銃口を直上に合わせる。
カイは螺旋の壁を蹴って、別の壁に飛び付いてまた蹴り、三角飛びのように飛び回った。だが銃口はカイの行く先を狙っている。
列車に飛び込んだ瞬間に中のポールを蹴って跳ね返った。同時に、轟音が響く。巨大な弾丸が列車を侵食して通り抜け、その衝撃波がフレームを歪ませていった。
グルグルと宙を駆け回りながら下を見る。ファイマンは今の反動で廊下へと突っ込んだ。グレートライフルが固定砲台のように壁から生えている。あの位置で狙ってくるはず。
勢いでもう一度列車の窓に飛び込み、途中の手すりや座席を蹴って列車内を直下に駆け降りた。窓の外、破壊された螺旋の途中の坂で待機しているファイマンと目が合った。
真横から飛んできた弾が当たる前に駆け抜ける。凄まじい轟音と共に列車のフレームが飛び散り、衝撃に耐えきれず車両が真っ二つに壊れた。
カイは列車の床にブレードを撃ち込んでロープを伸ばしながら少し落下し、巻いた。速度が反転し、グンッと上昇する勢いでまた上へブレードを刺しては巻き、座先やポールを蹴って駆け上がる。
大破した部分を潜り抜け、さらに上へ。そして、カイを追い掛けようと飛び込んだファイマンとすれ違った。やはり真下を狙っている。
ただでさえ広くない奈落への穴に列車も落ちている。この狭さのせいでファイマンは巨大なグレートライフルを真下から別の方角へ向けられない。
カイは車内から飛び出し、ファイマンの上へ位置取ってぶっ放す。壁を蹴り、螺旋に回り、あらゆる角度から弾丸の雨を降らせた。
防御すらできない男を一方的に蜂の巣にしていく。ファイマンは真下へグレートライフルをぶっ放した。急激に上昇したその背を避けられず、衝突する。
彼はライフルを捨てて振り返り、マシンガンを鷲掴みにしてきたと思えば、弾が止まった。
「え」
安全装置を入れられた。そうと理解するまでの一瞬の隙に、マシンガンがバラバラに解体された。同時に穴の底から轟音が響く。列車の先頭が底に着いた音だ。
嘘だろ。ヤバい。マシンガンが無くなった。地面に着くまでの時間も無い。
飛んできた拳を防ぐ。防戦一方ならどうにか持ちこたえられる。でも持ちこたえてどうする。このままじゃ一緒に落下死だ。どうにかして距離を取って脱出しねえと。
ファイマンへ足を叩き付ける。彼は防御した。それを踏みつけて上に飛ぶ。
よっしゃ。やったぜ。あいつはこのまま落ちることしかできない。落ちて叩きつけられて……。
……叩きつけられて死ぬ…………。
……。
どんどん落ちていくファイマンが、カイへと手を伸ばした。
あいつは罪を犯した。人を殺した。だがそれは、そうするように支配されて育ってきたからだった。
支配したヤツの罪の重さが分っても、カイにはファイマン自身の罪が見いだせない。
あの手にどんな意味であったとしても。
カイに、その手を取らない選択肢はなかった。
――ちくしょうちくしょうちくしょう! 絶対ろくなことにならねえのに! 分かってんのによ!
ファイマンへアンカーブレードを放った。キャッチされた瞬間に引き寄せ一気に近寄る。
――殺しあってたのがなんだ。殺されかけたのがなんだ。
ファイマンの攻撃を一発避け、慣性のままに身体を衝突させた。
――それでもおれは、お前を見捨てねえ!
そして、抱き締めた。
「――っ!?」
驚くファイマンなど無視し、カイは底へ向かってスタンバーストを構えた。
一発ぶっぱなす。二人の速度がぐんっと落ちる。
高さはあと三階分しかない。
もう一発。もう一発。最速でとにかくぶっぱなす。
間に合え。間に合え間に合え間に合いやがれッ!
衝突の瞬間、もう一発。
僅かに上へと浮き上がり――とすん、と着地した。
た……。
……助かった……。
助かったけど……。
…………やっちまった。
大佐の「兵器になりきれんお前は、これ以上にない重大な欠陥だ」という言葉が頭をよぎる。ああ、その通りだよ。でも最後によぎるのがあの爺さんの言葉とか嫌すぎるんだが。
そんなことを思っていたら――。
――ファイマンにぎゅっと抱き返された。
「え……」
どうしたのだと思うまもなく、地面を転がされる。二人で転がって壁にぶつかった。
凄まじい轟音。飛び散る破片が周囲へ激突した。さっきまでカイたちがいた場所に、真っ二つに割れた車両が突き刺さるように立っていた。
カイは唖然と突き立った列車を見て、今度はファイマンを見た。彼は、カイと同じ表情をしていた。
……あれ。おれいま、助けられた……?
ファイマンはカイをそっと退かし、立ち上がる。カイも慌てて立ち上がってバッファを切る。
「…………ファイマン?」
声をかけてから、全身に激痛が走った。バッファで忘れていた痛みを思い出したのだ。だがカイは、顔をゆがめるだけで耐え、ただ目の前の男を見ていた。
穴だらけになった服の背は、列車の近くに落ちているグレートライフルを真っ直ぐに向かっていく。
「ま、待って。今さ……」
グレートライフルを拾い、ゆっくりと振り返った。銃口は、真っ直ぐにカイへ向いている。
「……た、助けてくれたよな? な?」
真上から差す太陽光は、この長い穴の底にまで到達してファイマンを照らしている。陰影のコントラストが、まるで一枚の絵のようだった。
いつまでたっても引き金は引かれず、彼はただカイをじっと見つめている。その表情はいつも通りなのに――。
――あの冷たい殺意を感じない。
「…………見捨てられたはずだ」
低く、声帯も震えるか否かのごく小さな呟き声だった。聞き取れたのは、さっきまでの戦いが嘘のように静かなこの場所だったからだ。
「見捨てられねえよ」
「なぜだ」
「分かんねえ。助けなきゃって思ったからだぜ」
「…………」
「で、でも、お前も助けてくれたじゃん。ありがとな!」
カイがニカっと笑う。するとグレートライフルの銃口が下がっていった。
嘘だろ。まさかここで和解ルートか。カイは嬉しさに目を見開き、輝かせまでした。
一方でファイマンは、悲しげに目を伏せていた。
「殺すかどうか……迷ったら、どうする」
迷ったら。その言葉に、ピンときた。ファイマンは、兵器としての自分に迷っているんじゃないかと。
「ひょっとしておれたちさ、おんなじ気持ちだったのかもな。バチバチにさ、殺しあったけど、死んだらどうしようって、ちょっと思ってた。でもさ、ほら、ちゃんと選べたぜ」
両手を開いて、自分の身体と相手の身体を見比べてみせた。そうして、いたずらっぽく笑った。
「ファイマンも、選んでくれただろ? へへっ」
「…………死んでも、また、会えるのか」
「……! おれがさっき言ったこと、聞いててくれたのか?」
返事はない。カイは少し、苦い顔をした。
「……その、ぶっちゃけ、絶対に会えるかは分かんない……。でも、おれたちはこうして生きてる。だから絶対に一緒になれるよ。友だちになれるぜ。ってかなろうぜ。どう? あ、あちょっと……」
彼は背を向け、どこかへ歩いていく。
「ちょ……ちょっと待って。ファイマン! 殺し合わないでいいなら、もうそれでいいじゃん! おれ……」
ファイマンは罪人だ。またそのことが頭をよぎる。何人も殺した人間へ、許してもらえるからと言える訳がなかった。
それでも。
「……おれも、一緒に罰を受ける! おんなじ罪で、一緒に裁かれるから。お前だけに苦しい思いなんかさせないから。もう……止めにしようぜ」
歩みが止まった。
後ろ髪引かれるのを振り払うように、また歩き始める。
「待っ――」
グレートライフルの銃口が、カイへ向いた。
真っ直ぐにカイを捉える目から、涙が伝って落ちていった。
「…………っ!」
カイはそれ以上、何もできなかった。何かを言うことも、動くことも。
どこかへ消えていくファイマンを、追うことも。
静かになった地下で、あの涙の意味を考え続けた。
ファイマン、お前――。
「――――何を背負ってんだよ」
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