バイオレンスガールはスクリーンヒーローと出会う

ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン

そして現れたヒーロー


「——よっこいせ!っと」


ガーン!


掛け声と共に

気持ちの良い打撃音が響き

嘘みたいな角度と距離で

人間が吹っ飛んで行った


最初に金属音

手のひらに衝撃が伝わる


続いて鈍い落下音

ドサッという重たい音だ


「うわあああ!!?け、ケンジ!!!?

お、おい!しっかりしろ!ケンジ!!」


あと、この悲鳴


その音はこの

人通りの無いトンネルの中で

何度も、何度も反響を繰り返した


「おぉーっ!響いた響いたぁ〜アッハッハ!」


オレは


それがあまりにも心地良いので

つい、嬉しくなってしまう


鉄パイプを握りこんだ両手に再び力が籠る

もう一度あの音を聞きたい!という

強い欲求が、頭を支配していく。


頭から血を流し

床に倒れている男に縋り付き

泣き喚く、もう1人の男に近寄る


すると


「ッ!ひ、ひぃぃぃ!

も、もうやめてくれ!


け、ケンジが、早く病院に

連れてかねーと、し、死んじまう!」


男は涙を流しながら頭を下げ

けんじ、がどーのと懇願してきた


「あぁ?」


「あ、あんたに絡んだのは謝る!

本当に、マジで申し訳ない!!


だから、だからっ!

たの、頼む!救急車!


救急車を呼ばせてくれ……!」


男の話を聞きながら

今なら殴れるな、と思った


どこも守ってなければ

逃げる素振りも何も無い

警戒すら、していないだろう


それを見てオレは

片足を前に踏み出して

上半身をギリギリと捻り込む


男はそんなオレの様子を見て

一瞬、思考が停止した素振りを見せた


「……は?い、いや!ま、待っ——」


意識が覚醒し

慌て始めた時にはもう遅い


「——おいっち、にぃ、さぁん……しっ!」


全身のバネを使って

出来る限り遠心力を働かせた

正真正銘のフルスイングは


なんの躊躇いもなく

男の頭に吸い込まれていき


ゴッ!


という

先程鳴ったものとは

少々、質が違う音を生む


血が、辺りに飛び散った

頬っぺたに生暖かいモノが

付着したのが分かった


感触が気持ち悪かったので

服の袖で拭おうとして


伸びたら面倒だな、と思い直し

そのまま放っておく事にした。


「おぉーっ」


自分が今しがた振り抜いた

鉄パイプの先端付近を見てみると

物の見事に折れ曲がっていた。


ポタポタと

血が滴っている


真っ赤な水たまりが

既に、地面の上に出来上がっている


それを見て


「ハンバーグ定食……かなぁ……」


この後のランチタイムの

メニューが絞り込まれた。


「オムライスとかでも、良いなぁ」


数多の選択肢の中から

ふたつに絞り込めたんだ

彼らに少しは感謝しなくては


「そーだ、オレが奢ってやろうか?」


我ながらナイスな提案だ

喧嘩の後は仲直りって言うし


もし、彼らさえ良ければ

昼食を一緒に食ってやろう

と思い、笑顔で語り掛けるが


「……」

「……」


返事はかえってこない

いや、返ってくるはずがない


鼻先に香る微かな鉄の匂いが

その事を暗示している様だった。


「まあ、いいか」


どうやら問いかけても

無駄らしいという事が分かったので

それでオレは、こいつらに興味を無くした


というか

そんなことよりも

お腹が減ってきた


運動の後だからか

飯の味が口の中で止まらねぇ

ヨダレが垂れそうになるのを我慢して


オレはその場を去ろうとして


「あーでも、そっか」


ある事に思い至り、立ち止まった

そしてクルッと振り返って、こう言う


「警察とか、後で呼ばれると面倒だし

とりあえず指とか、全部折っておくかぁ」


倒れてる男の傍にしゃがみこみ

体の下敷きになっている腕を

よいしょ、どっこいしょと引っ張り出す


「えーっと……指が6本で

2つあるから12……かける2だから


えーと、小学校で習ったな

確か……そうだ!24だな!」


指の一本を乱暴に掴み

右手の凶器を振り上げる


と、そこで


「……あぁ?でも待てよ?それなら

足の指とかもやった方が良いのか?」


そんな疑問が湧いてきたが

流石にそこまでやるのは

可哀想かなと思い、止めた


「足の指も入れると48分の24か

なーんだ、たった半分じゃねぇか


ならいっか、よぉーし


せぇの——」


その後

折り損ねたか不安になり

叩き付け直した回数も入れると


大体、32回

そのトンネルには

聞くに耐えない音が鳴り響き


指を叩き潰しながらオレは

`まるでハンバーグ捏ねる時みてえだな`


と、この後食べるつもりの

ランチの事を考えるのだった。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


「うめぇーーーーー!!」


口いっぱいに広がる

デミグラスソースの香り

ジュージューと焼ける肉の音が

ただでさえ旺盛な食欲をそそっている


「やっぱ、ハンバーグで正解だぜ」


このレストランに来てから

かなり、2択で迷ったのだが


悩みに悩んで

お水のお代りを3回も挟み

ようやく決めたのが、これだ


待たせてしまった店員さんには

本当に申し訳ない事をしたので

しっかり頭を下げて謝っておいた


その甲斐あって

オレは自分の選択が

正しかったのだという事実に


とても満足していた


「んん〜〜〜っ!」


肉を頬張る度に

極上の味が脳を刺激する

これは無限に食べられそうだ


どうせ人の金だ

バンバン使っちまおう


テーブルの上に乗ってる財布は

3つ、1つはオレのだが残りは


さっきのアイツらの物だ

どうせもう必要ないだろうと思い

ついでに持ってきたのだった。


財布の中身を見て

最初に出た感想は

`シケてんなぁ`だった


所詮は自分と同じ高2だ

所持金はあんなものか


金が無いからこそ彼らも

ナンパ+カツアゲ+α胸モミ


なんてことを

やらかしたんだろうし


そう考えると同情の余地は

多少はあるような気がした


「3本くらいなら、オマケ

してやっても良かったか……?」


少しやり過ぎたかもしれない

もし学校とかでまた会ったら

詫びの一言でも入れておくか


なんて考えていると


耳障りなバイクの音が

遠くの方で鳴り響くのが聞こえた


昼間から元気だなーと

呑気に構えていると


その音はドンドン近付いてきて

ついには、バイクの集団が

店の前に大勢集まってきた


あれ全部売ったら幾らになるかな

と、店の外から、外に並んだ沢山の

ごつくて悪そうでイケてるバイクを見る。


すると


「……!」


彼らの仲間のうちの1人が

オレと目が合い、何かを言っていた


「……?」


よく分からないけど

とりあえず手を振っておいた

ハンバーグをもぐもぐしながら


手を振ってやった男は

仲間にその事を教えたのだろう

あれよあれよという間に、彼らは


オレの方に注目しだした


「おぉーすげぇー」


一躍人気者だ

これは気分がいい


なんて思っていると

彼らはレストランの中に

ゾロゾロと集団で入ってきて


「——お姉ちゃん、今1人?」


あっという間に

オレのところに集まってきた


「ランチタイムなんだ」


「そっかそっか、1人だと

寂しいよな?俺らが一緒に


食ってやる、どうだ?」


ゲラゲラと下卑た笑いが巻き起こる

不思議と嫌な気分はしないけれど

ランチとは1人で摂るものだ


「悪いけど、一人で食べたいんだ」

「おいおいおい……」


ドカッと

隣の席に勝手に

男が1人座ってきた


「まあ、良いじゃねえか、な?

ここ俺らの溜まり場だしよ、な?」


なにが、`な?`なのか

イマイチ理解に苦しむが


そんな態度を取られても

譲れないモノは譲れないのだ


「仲良くしようぜ、後で

バイクに乗せてやるから——


ってオイ、お前」


「あぁ?」


突然

彼らの空気が変わった

何事かと思い、様子を伺うと


彼らの目線が1点

机の上に置いてある

財布に集まっている事に気が付いた


「——てめぇ、その財布、どこで拾った」


ひとり


パッと見で分かる

風格の違いをしている

男が、そう言った。


オレは、頭が悪いけど

それでもこの後の展開が

何となく想像できた


奴らの人数は6人

1人はオレの隣……


冷静に

場の分析を始める

野生の勘がマズいと

警笛を鳴らしている


「……その……財布はよォ……

その、みっともねぇボロ財布はォ……」


「俺が……あいつの、6歳の誕生日に

買って……やった……ヤツだ、それをよォ


てめぇ……てめぇが

なんで持ってんだ……えぇ?」


「朝から連絡が付かなくてよ

俺ら、全員学校サボって、アイツを

探してたんだよなぁ……それが……


なんで、てめぇが!あいつの!

あいつの財布を持ってんだ!」


男は激情して

オレの隣に座っていた

仲間の男を押しのけて

掴みかかってきた


ヤバイ


そう感じた

命の危機を感じた

このままじゃ、マズいと


そう、思って

現状を認識して


気付いた時には


「……よっと」


オレは咄嗟に

テーブルの上のナイフを

男の首に突き立てていた


ヌッ……と

深く、深く肉を切り裂き

奥に入り込んでいく感覚


「……ア?」


何が起きたのか

分からないって顔で

オレのことを見つめて来る


既に、テーブルもオレも

床もアイツも手も首も


——全てが血まみれだった


「……う、


うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


仲間の、うちの1人が

さっき、オレに手を振った奴

アイツが、大声で、叫びだした


大混乱


昼間のファミレスで

流血沙汰、もう何が何だか

誰も、分からない、あるのはただ


自分もヤバいかもしれない!

という、原始的な恐怖の気持ちと

意味が分からない!というパニック


……今だ、と思った


首から血を吹き出す男を

彼らはみんな、案じている


自分の服を脱いで

首の傷に押し当てたり

怒鳴り散らしながら携帯を取り出し

焦りすぎて、地面に落としたりしている


今だ


「——リーダー?」


オレは


隣に座っている

呆然としている男の顔面を

イスに叩き付ける様にしてぶん殴る


「ぐわあああっ!!」


吹き出す血の

鼻を押さえながら

ソイツは体を折り曲げた


オレは椅子の上に立ち

人が居なくなった後ろの席に

向かって飛ぶ


テーブルの上に着地したせいで

空の皿が音を立てて地面に落ち

そして派手に割れた


「……おい!追え!!そいつ、捕まえろ!」


背後から声がかけられる

このまま素直に走って逃げても

多分、追い付かれるなと思ったので


足元からデカめの皿を拾い

見もせずに、後ろに投げ付けた


「ぎゃっ……!」


どうやら当たったらしい

少しは時間が稼げたはず


オレは脇目も触れずに

パニックで慌てふためく

人々の波を掻き分けて

急いで外に飛び出た


そして目に入ったのは

駐車場のスペースなんて

お構い無しに停められた


バイク群


ふと

まだ自分の左手には

ナイフが握られている事を思い出す


タイムラグは、無い

なんの迷いもなくオレは


止まっているバイクのタイヤに

ナイフを振り下ろしていき


たった1台を残して

全てパンクさせた


出来るだけ、早く

そして正確に、確実に


後ろを振り返る

奴らはもうすぐ追いつくが

それでも、あと少し猶予がある


オレは落ち着いて

バイクにまたがり

そして


「エンジンの掛け方が分かんねぇ!」


当然だ!

バイクなんて乗ったことがねえ!

そもそも、免許すらもってない!


乗り方なんて

分かる訳が無かった


「——テメェ!殺してやる!」


「やっべぇ、まじぃ」


仕方ない


こうなったらもう

ここで全員あの世に送って

口封じするしか……!


「——おい!!」


「あぁ!?」


後ろから声をかけられて

反射的に振り向いてみれば


「こっちだ!早く!乗って!!」


車のドアを全開にしながら

こちらに向かって叫ぶ男が居た


迷いはなかった


「分かった!」


悩んでる暇など無いし

選択の余地など無かった


故にオレは

判断と行動を一瞬で行い

開いたドアを潜り、車に飛び乗った


「掴まれぇぇ!」


男は叫ぶ

男はアクセルを踏む


車は大きく横に傾いて

すぐに軌道修正を測って

そのまま道路に飛び出した


しっちゃかめっちゃかの姿勢で

シートベルトもしないままに

オレたちは爆走し始めた


「ぼ、僕に掴まらないで下さい!」

「他にいい物が見つからなかったんだよ!」


「ちょ、ナイフ!ナイフ!肩のところに

刺さってますから!血ぃでてますから!」


わちゃわちゃと騒ぎながらも

男の運転は実に、上手いもので


そんな所通るか?普通?

という場所をスイスイ進む


すると


ガオン!


後ろから嫌な音が聞こえた


「あ、やっべ、1台だけ

そういえばタイヤ潰してねぇ」


ギリギリまで追い詰められて

急かされて飛び乗ったせいで

その余裕が無かった。


「悪い!追い掛けられてる!」


オレはまず

その事について


この、名も知れぬ男に

しがみついたまま謝罪する


しまった、やべぇぞ

このままだと追い掛けられて……


「——たった1台だけ、でしょう?」


「え?」


「……掴まってて下さいね」


「おい、まさか——」


まさか

この、セリフは

車の中で聞くこういう台詞は


スクリーンの中じゃ

いつもいつも、決まって——




「うおおおおおおああああああ!!!

あああああああああっっ!?!?!?


おいっ!止め、うわあああああああ!!!!」


右へ!左へ!

加速と減速を繰り返し

揺れるからだと、視界!


背後には追っ手のバイク

隣には車を運転する男


そしてオレは女


こんな状況下で


スクリーンの中のヒーローが

ヒロインに向かってその台詞を

吐く時って言うのは、そうつまり!


「し、死ぬ!死んじまう!やめっ……

きゃああああああああああああ!?!?」


カーチェイスの

始まりの合図なのだ。


「痛いッ!痛い痛い!ナイフ!

抉りこまないで!腕!腕取れます!


車事故りますよ!

死にますよ!?」


こっちは

お前に殺されそうなんだよ!

と、心の中でブチ切れた。

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