レレツィエッカ・レーヴェンヴァルト・ロー・クリスタル

JKのナマモノ

車椅子の魔女

第0話 亜門の壺

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 その日、私は全てが嫌になった。

 退屈な日常。

 変わり映えしない最悪の労働環境。

 失った両脚。

 夢も希望もない未来。


 それでもなんとか今まで頑張って生きてきたが、なぜか突然、糸が切れたように生きる気力を失った。

 もう既に、心は限界を迎えていたのだろうと思う。


 ボサボサな髪は油分が抜けて乾いていて傷みが激しく、瞳はまるでどこを見ているかわからないくらいにうつろだし、目の下のクマはまるで烏貝の様。

 処理を怠った口髭の隙間から漏れる吐息には、何もかもを諦めたような、低いため息だけが漏れている。

 笑うことを忘れて長いせいか、頬は弛み、口角は下がり、骨張った両腕だけが、私の脚だった。


 ……もう、半分死んでるようなものだしなぁ。


 私は、包丁を片手に心の中で呟いた。


 心なしか、窓から差し込む月明かりで照らされる刃先が、いつもより鋭く感じる。

 胸に突き刺したらとても痛そうだ。


 ……いや、確か人は、心臓が止まっても数分は生きているのだったか。


 考え直して、包丁を自分のうなじに持っていく。


 亜門という名前だったはずだ。

 脳と脊髄の、ちょうど中間あたり。

 かなり昔のドラマで見たものだから、正確かどうかはわからないが、ここを正確に射抜けば即死するらしい。


 刃先がちくりとうなじに刺さる。

 痛かったが、しかしそれ以上の感想はなかった。

 まだ生きたいと思う心の動きは、既に無かった。


 死ぬ、というのは一見怖いことのように見えるが、実はそれは、注射とほとんど変わらないものである。

 死ねば我々は輪廻の渦に帰り、また別の新しい人生を歩むのだ。

 そこに、記憶の継承が無いことは、私にとってはとても都合がいい。

 簡単に、これまでの嫌な人生を忘れられるのだから。

 そしてまた初めから、全てをやり直せるのだから。


 私は、長く息を吐くと、包丁を思いっきり自身のうなじに突き刺した。

 ……直前、まだちょっと生きていたいな、なんて雑念が混じりはしたが、気がついた頃にはもうすでに、私の人生は終わっていた。

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