─けものフレンズSerenade─
同人サークル Sing/Phonia
Prologue 少女達の物語
Prologue サヨ編「うたのようせいさん」
私には、歌が見える。
歌を口ずさむとき、空を舞う妖精さんが見えるの。
きっと私の歌にのせて、つられてやってきたのかな。
「ねえ、妖精さん…?」
私はそっと声をかけてみた。驚かせないように、ひっそりと。
「…♬」妖精さんは私に応えるように綺麗な音色を奏でている。
「きれい…!もっと聞かせて!」私はつい大きな声で呼んでしまった。
「あれ、どっかいっちゃった」
妖精さんの姿を見失い、辺りを見回していると、そこには大きくて分厚い本を読む女の子が座っていた。
「すっごく大きな本!それ、動物図鑑だよね!」
「そう…だけど」
「…動物、好きなの?」
「大好き!私…!いつか大きな動物園で動物たちをお世話するのが夢なんだ」
「私サヨっていうんだ!歌が大好きなの!その本面白そう!!ねえ、歌うのが得意な動物とかっているの?」
「うん、たっくさんいるよ。例えばこの子とか…あっ」
本を読む手が止まり、その子は咄嗟に本を入れ替えて犬の図鑑を見せてくれた。
「そう…!ニューギニアシンギングドッグっていう、歌う犬がいるの!」
「…歌う犬…?」
「うん、ニューギニアの高い山に住んでいて、ホントは絶滅したって言われてたんだけど、50年ぶりに仲間が見つかったんだ」
「そうなんだ、私もいつか一緒に歌いたいなあ」
「うん、きっと歌えるよ。その時が来たら、私にも歌を聞かせてね」
「私の名前はヒナミ、どうかよろしくね」
それが私、サヨとたった1人の友達、ヒナミとの出会いでした。
ヒナミは隣町の小学校出身で、来年の4月から同じ中学に通うそうだ。
高学年になってからクラスメイトとあまり馴染めなくなった私は、1人で過ごす時間が増えていき、次第に人と関わりを持たなくなってしまった。
「でも、春からヒナミちゃんと同じ中学に通うんだ!やった!」
私は毎日、部屋で作詞ノートに歌詞を書いては、それに乗せて歌を歌う毎日を送っていた。
「今日からともだち…新しいともだち…!!これからもたくさん増えるといいな!!…中学…!楽しみだなあ」
それから毎日ヒナミと会う約束をしては一緒に動物図鑑の話をしたり、一緒に動物園やカラオケにも行ったりもした。
そして月日は流れ入学式の次の日。
「おはようサヨちゃん。やった、おなじクラスだったね」
しかし、私はあまり元気がなかった。
そう、中学のクラスは小学校の頃のクラスメイトが半数で、ヒナミとは運良く同じクラスにはなれたが、結局、顔馴染ばかりが集まってしまった。
「ちょっとごめん…ヒナミちゃん、ちょっと気分悪いから保健室行ってくる」
私はヒナミを置いて教室の外に出てしまった。
「せっかく、ヒナミちゃんと友達になれたのに、沢山、友達作るって…」
色々な感情が溢れ出して、涙を流してしまった。
『ねぇねぇ、それってなんの歌なの?』
『他にも歌ってみてよ』
『何だよ歌えないのかよ、つまんねえの』
自分の作った歌をクラスメイトにからかわれ、人前で歌うことを辞めてしまった私は、部屋に閉じ籠もり、誰にも聞かれること無く歌を歌い続けていた。
でもヒナミは、あの子は…私の歌を聞かせることのできる唯一の友達なのに…
「サヨちゃん!!」
校舎を出たあと、…突然。ヒナミに呼ばれた。
「ヒナミちゃん…わたし…ごめんね…!歌が大好きなのに…どうしても怖くて…!みんなの前で歌えないの…!ヒナミちゃんはたった1人の友達なのに…!ヒナミちゃんからも逃げようとしてた…!だから…だから…!」
私はヒナミの胸に飛びつき、涙で制服を濡らしてしまった。ヒナミは私の頭を撫で、優しく囁いた。
「初めてあったとき、私と約束したでしょ?歌う犬と一緒に歌う約束」
「…うん」
「もしその時が来たとしても、1人で寂しかったら、私も一緒に歌ってあげる。2人で歌えば怖くないでしょ?」
「…一緒に歌ってくれるの…?」
「うん。また夢が増えたね、サヨちゃん」
「ありがとう…!ヒナミちゃん!」
そして、私は合唱部に入部し、ヒナミは図書委員長に立候補し、見事選ばれた。好きなものが違う同士だが、同じ夢に向かってお互い歩み続け、合唱部は初めて市のコンクールに入賞し、私は自分の作った曲をみんなで合唱したいと歌詞を書き、二学期の発表会で披露することとなった。
私は胸に期待を背負い、そして二学期が始まった。
「じゃあサヨ、声出してみて」
顧問の先生に呼ばれ、立ち上がり息を吸う。
先生は私の作った歌詞を褒めてくれたり、歌声を可愛いとすごくかわいがってくれている。
今まで頑張ってきたんだ、もう怖くなんか…
…あれ?
「あ…」
声が…出ない。おかしいな…。
「どうしたの?…大丈夫、無理しないで。気分が悪いなら保健室で休みなさい」
部長に保健室へと運ばれ、ベッドで休んでいた私は、感謝を伝えようとありがとうと口に出そうとしたが、息が掠れた音しか喉から出てこない。
「あ…」
「ねえ、サヨ…あなたのために頑張ってきたのに!どうして歌えないの!?」
部長が涙で目を濡らし、声を荒げた。
「歌えないなら、もうここに顔を出さないで。発表会も別の歌にするから。じゃあ、さよなら」
私は、歌を…夢を失ってしまった。
部長も歌が歌えない私を思って強く突き放したのだろう。歌えない私が責める道理はない。
部員のみんなは私のために頑張って歌の練習をしてくれたのに…どうして…。
声にならない涙が、溢れ出した。
悔しい。ヒナミとの約束…。叶えられない…。
私は、泣きながら自分の部屋に戻った。
次の朝。
私は合唱部には戻らなかった。あんなに楽しかった作詞にも手がつかず、また誰とも話さない1日が始まろうとしていた。
そうだ、今度ヒナミに相談しよう。図書室でいつも過ごしてるし、最近は合唱部の練習で遊ぶ約束もしてなかったし。また動物園にも行きたいし…カラオケには…もう行けないな…。よし、ヒナミのお手伝いしに行こう。
『よっ、委員長!今日も元気にしてる?』
勢いよく扉を開けて、いつものように挨拶をしたつもりだったが、図書室には私の声は響かなかった。
周りがざわつき、図書室にいる生徒達は一斉に私の方を見る。
「あれ?サヨちゃん?どうしたの?合唱部の方はもう平気なの?」ヒナミが私に気づく。
私は咄嗟に声を出そうとするも、うまく行かず、あたふたしてしまう。
「委員長、この子友達?」
「うん…合唱部のサヨちゃんだよ。私の友達」
「あ、知ってる!!コイツ!小学校の頃同じクラスにいた!!」
「この子友達なんていたんだ、ちょっと驚いちゃった」
「うん!!そうだよ!!私の自慢の友達!!歌がとっても大好きでね、今度合唱部が発表会でサヨちゃんの作った曲で合唱するんだよ!!」
更に周りがざわつく。
もう…ヒナミちゃんったら…!ちょっとこっち来て!!
私は強引にヒナミの手を引っ張って図書室を抜け、校舎の外に出る。
私とヒナミは息を切らして立ち止まる。
「ねえ、サヨちゃん!今日なんか様子が変だよ!?」
私はそっと携帯電話を取り出し、ヒナミにメッセージを送る。
文面にはこう書いた。
『ごめんね、ヒナミちゃん。私…昨日の練習で声が出なくなっちゃって、部室にはもう来ないでって言われちゃって…』
『ヒナミちゃんと、歌う犬と一緒に歌う約束、もう叶えられない…』
ヒナミはメッセージを読み、私を優しく抱きしめてこう言った。
「大丈夫。叶えられなくなっても、サヨちゃんが作った曲はこうやってまだ歌詞ノートに書いてあるでしょ。」
そうだ。私には、歌えなくなっても…みんなに歌ってもらえる曲が残ってる。
『でも、部長さんは他の曲を歌うって…』
「そんなの…私がなんとかするから!」
ヒナミは、私の手をとって、合唱部の部室に向かう。
「私が部長を説得させる!」
部室の扉を開けヒナミが私の手を引き中に入る。
「サヨ…もう顔出さないでって言ったでしょ?」
ヒナミは、私の歌詞ノートを部長に突きつけた。
「サヨちゃんの作った曲を…もう一度合唱部の皆さんで歌ってください!!」
「出てって…!もう私に…これ以上同じ罪を背負わせないで…!」
そして私達は、部長に過去の出来事を明かされた。
「私が部長になる前に、あなたのように声が出せなくなって、部屋に閉じこもってしまった部員がいたの…」
その子は、私と同じように歌が好きで、毎日のように歌を歌っていたという。
「その子は、どうなったんですか…?」
部長は泣きながら、続きを話した。
「私はあの子がもう一度歌えるように、何度もサポートしてあげたわ。そして奇跡的に回復したの。でも…」
合唱コンクール本番直前でその子の症状は再発し、入院するほどの重症を負ってしまった。
そして母親に「あなた達のせいで、あの子は失敗した」と合唱部全体が責任を負わされたという。
「だからお願い、もう私達の前に顔を出さないで…サヨ、ごめんなさい…私には…私達には…歌えない…」
ヒナミは、それでも諦めたくないと、次の日も、またその次の日も私を連れて合唱部にサヨの曲を歌ってほしいと何度も何度も説得しようとした。
「ごめんなさい。もう合唱部は全員他の部活に移ってしまったの。私もみんなを説得しようと頑張ってみたけど、もう歌すら歌いたくないって…」
顧問だった先生に、部員は全員居なくなってしまったと伝えられた。3年生だった部長は、夢だった歌手を諦めてしまったらしい。
合唱部は、事実上廃部となってしまった。
「そんな…」
私が、みんなの居場所を、部長の夢さえも奪ってしまった。
私の作った曲のせいで、部長も、一緒に練習した仲間も…みんないなくなってしまった…。
そして、私とヒナミが合唱部を廃部に追いやったという噂は学校全体に広まり、私達の居場所は
もうどこにも無くなってしまった。
私の中にはもう、何も残されてなどいなかった。
私は、使い物にならなくなった喉元にナイフを突き立てる。
じゃあ、これで何もかも終わりにしよう。
「サヨちゃん…」
どうして…
「サヨちゃんのせいじゃない…!私が悪いの…!だから…!」
私が何もかもめちゃくちゃにしたんだ。
「お願い…!」
ごめんね、ヒナミちゃん。
「やめて!!!!」
私は、ナイフで喉を貫いた。
私の身体は、ふわふわと漂っていた。
周りには何も見えず、ただ私だけが…
いや、光が見える。
『ここはこの星の記憶の断片だよ。叶えられなかった願い、夢、約束が最期に辿り着く場所』
声が聴こえる。この綺麗な音色は…
『うたの…ようせいさん…?』
『君は誰かと叶えたい願いがあったんじゃないのかい、だったら、もう一度そのチャンスを与えよう。』
でも、私の声は…。
『君ならもう一度叶えられる。さあ、乗り込もう。創造の方舟へ…!』
そして私の意識は光の中へ吸い込まれていった。
星がキラキラ輝いている。
どこまでも広がる草原。鳥のさえずる音が聴こえる。
あれ…?
これ…私…?
私は、もう一度この星に生まれ落ちた。
PROLOGUE 完
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