第22話 試行錯誤の一週間
チェリーパイの作り方自体は穂乃果さんが知っていたので困らなかったが、課題となるのはさくらんぼの他にどの果物を乗せるかだった。
「私はいちごとキウイと夏みかんがいいと思うんだけど、どうかな?」
「「「意義なし!」」」
意外とあっさり材料が決まった。
「じゃあ、とりあえずこの経費で材料買ってきてよ」
「俺行きます!」
「由奈ちゃんは家からさくらんぼ持ってきてくれる?」
「分かりましたっ!」
由奈は元気よく店を飛び出していった。
ん‥‥?なら天音は‥‥
「よしっ!じゃあ天音ちゃんは私と一緒に調理だね!」
「お、おい天音。俺やっぱり変ろうk「やります!」」
「お!威勢いいねぇ!なら、最初は通常メニューから作ってみようか!」
「はい!」
ま、まずい‥‥!
穂乃果さんは天音が料理を作ると暗黒物体になるのを知らないんだった!
‥‥敬礼。穂乃果さん生きていて下さい。
俺は静かにその場を去った。
◇
俺が材料を買って戻ってくると、すでに帰ってきていた由奈が絶句していた。
「先輩‥‥まずいです!オーナーが死んじゃってます!」
そこには、泡を吹いて倒れている穂乃果さんと、慌てている天音の姿があった。
「起きてくださいオーナー!次こそ、次こそは作ってみせます!」
由奈が天音の肩にぽんっと手を置くと、こう言い放った。
「如月先輩って、料理下手だったんですね!」
「おい貴様こらなんつった?」
天音が由奈に暗黒物体を食べさせようとする。
「ちょっ!お前由奈を殺す気か!?」
天音の料理は食べ慣れていても危険だが、食べ慣れていなきゃさらに危険だ。
「唯人ぉ、邪魔するならお前にもやるよっ!」
天音がフォーク二本を暗黒物体に刺し、それを俺と由奈の口に突っ込んだ。
「うがっ!!これは今まで食べた中でも一番不味いぞ‥‥!」
「先輩!私死んじゃいます!」
俺と由奈が共に泡を吹きながら倒れ、狂った天音が残りの暗黒物体を一人で平らげた。
天音もその場に倒れ込み、部屋の中にいる全員が泡を吹きながら倒れるというシュールな光景になってしまった。
◇
それから一週間程経ち、勝負の三日間の前日となった。
あれから天音は必死にチェリーパイ作りにだけシフトすることで、なんとかチェリーパイを作るだけの技能を体得することができた。
俺と由奈も、穂乃果さんや他の従業員の方の指導を受けて、なんとかオーダーの取り方や料理の運び方といったフロアでの技能を身につけることが出来た。
「先輩さっきぶりですね!」
「おう。てかお前ら学校終わりだけど疲れてないか?」
「そんなわけないじゃない。今日は明日への準備があるのよ!」
心なしか、天音と由奈の声が引き締まっているように聞こえる。
さあ、この三日間で五十万円。がんばるぞ!
そんな時、穂乃果さんが慌てて部屋に入ってきた。
「まずいよ!」
「どうしたんですか?そんなに慌てて」
「さっき従業員の二人から連絡が入ってね、風邪になったから今日含めた四日間休むんだって!」
「と、いうことは?」
「明日からの三日間、この場にいる人員だけで店を回すことになるね」
詰みだ。ただでさえ忙しくなると思ったのに、これじゃあ店の回しようがない。
その時、勢いよくドアが開いた。
「ならば、私が手伝いましょう」
そこにいたのは天宮寺生徒会長だった。
「でもっ!なんで会長が‥‥」
「貴方達がこの一週間、必死に頑張ってきたのを私はずっと見ていました。ここまで頑張ってきたのに結果が報われなければ、私も悲しいのですよ」
会長ってこんなにいい人だったっけ?
やばい、男だけど惚れそう。
「ですが、私も天使ではないのです。なので、もし貴方達が私の手を借りた上で五十万円まで到達出来なければ、私が率いる生徒会の役員になってもらいます」
「「「えぇ〜〜!」」」
まさかの急展開。
うちの学校は会長だけを選挙で決め、役員は会長が指名するというルールだ。
まあ、この人は今まで一度も指名したことが無いんだけどな。
「それで手伝ってくれるなら‥‥」
「頼むしかないわね‥‥」
「お願いしましょうっ!」
五十万円まで達成すればいいんだろう。
なら、頼むしかない!!
「みんなお店の為に‥‥ありがとうっ!じゃあ会長さんは早速更衣室で着替えて来てもらっていいかな?」
「分かりました」
数分後。
会長がもじもじしながら更衣室から出てきた。
「あまり‥‥見ないでください」
「会長、可愛いですっ!」
「だから可愛いっていうのやめてくださいよっ!」
案の定、会長もメイド服姿でお出ましだった。
「じゃあ、会長さんには通常メニューの調理をお願いしてもいいかな?」
「叶葉でいいです」
「わかった!叶葉ちゃんっ!」
「見る限り、全部作れそうですね‥‥」
「会長、チェリーパイという私のアイデンティティまで奪うのはやめてくださいよ?」
「大丈夫ですよ‥‥。私は通常メニュー担当なので」
◇
恐るべしハイスペック生徒会長。
ほんの一時間で全てのメニューをマスターしてしまった。
「ぐぬぬぬ‥‥」
天音が悔しそうに会長を見ている。
「すごいね叶葉ちゃん!!たった一時間でこれは、もう天才の域を超えてるよ!」
「そこまで凄くないですよ。幼少期から仕込まれてきたことを実践しただけなので」
さすが大企業の会長の娘。
でもこれなら、明日からの三日間を乗り越えられるかもしれない。
よしっ!頑張るぞっ!
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