缶蹴りII 『知略』

「では第二回戦を始める。‥‥始め!」

一回戦同様に、不良の一人が開始の合図をした。


合図の後、俺はすぐさま走り出す。

今の俺には秘策がある。


ジョセフとの距離は20mほど、幸いにも俺の姿は見えていないだろう。


俺は公園に来たとき、『あるもの』に乗ってきていた。

それは自転車だ。

まさかこんな事態になるとは思っていなかったが、単に徒歩で向かうのが面倒くさかったんだ。


俺は自転車に乗ると、すぐにジョセフの方へと向かった。


「チャリなんて卑怯だろ!」

不良の一人がイチャモンをつけてきた。

「ルール説明の時に自転車は使用不可なんていってたっけ?」

「この卑怯者が!」


そう思いたいなら思っておけばいい。


しかし、激昂する仲間と違ってジョセフは冷静だった。

「さあ、来い!」

「ならお望み通りっ!」

俺はそう言いつつも、円の周りを自転車でぐるぐると回り始める。


「回ってんじゃねえぞ!」


俺の狙いは撹乱だ。

ジョセフは俺を止めようとするが、缶を守らなければいけないので下手に動けない。


ある程度撹乱できたところで、俺は自転車のギアを最大の6にしてジョセフに突っ込む。


「こんなんで缶をぶっ飛ばせると思ったか?」

ジョセフが自転車ごと俺を受け止める。

でもこれは想定内、いや狙い通りだ。


「お前が受け止めてくれることを信じてたぜっ!」

「はぁ!?どういうことだよ!?」


俺は自分の手でジョセフの目を隠し、視界を封じると、視覚を失って力が弱まったジョセフの体をそのまま押し倒した。


「くそっ!」


ジョセフが倒れた先にあった缶は、そのままジョセフに接触して、円の中に留まった。


「ははっ!円の外まで飛ばしきれなかったな!今ちょうど三分経過した。俺の勝ちだ!」


「お前は何を言ってる?」

「は?」


「お前はルール説明の時に言ったよな?『守りがゲーム中に缶に触れたら強制的に負け』と。お前は自分で作ったルールも覚えてないのか?」


「そういえばっ!」


こいつは正真正銘のバカだな。


「と、いうことは‥‥‥」


「唯人の勝ちだぁーーー!!」


蓮が大袈裟に騒ぎ立てる。

でも正直なところ俺もここまで上手くいくとは思わなかった。


「兄貴大丈夫っすか?」

「ああ、次は勝ってやるさ‥‥」


ジョセフは不良仲間に兄貴って呼ばれてんのか、初めて知ったわ。


「唯人ぉ!」

「何だ?」

「次は上手くいくと思うなよ!今回で俺もよく学んだ。今は俺が勝つビジョンしか見えない」


いや、次も俺が勝つさ。


大親友の為にな。

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