第5話 究極魔界カップルデー

「むぅ‥‥」

「まあそんなに機嫌悪くすんなって」


学校が終わり、俺は天音と一緒に下校していた。

ちなみに蓮は『あとは若い二人でー』と言ってメイド喫茶に全力ダッシュしていた。


「唯人は楽しそうでいいねっ。友達の桜井くんと同じクラスで。私なんかクラスに友達0人だよー」

そう言って天音は不服そうにため息を吐いた。


「そんなこと言っても、お前コミュ力高いから友達なんかすぐできるだろ」

「それはそうなんだけどさー。私がどれだけクラスの子と仲良くなっても恋愛の話になるとすぐ謙遜されちゃって、なんか距離感感じるんだよね」


それはお前が可愛いからだろうが。


恐らく天音の友達は天音が可愛いから恋愛の話になるとなんか置いてかれてる気がして謙遜してしまうのだろう。


「まあ機嫌直せって。そうだ!景気づけに俺がなんか奢ってやるよ」

「ほんとっ!?じゃあ私あそこの喫茶店行きたーい」


天音が指をさしたのは最近出来たばっかりの喫茶店だった。

その名は究極魔界(アルティメットゾーン)。

名前からして厨二臭いが、日替わりのパフェとSNSで映えるドリンクが人気で、いつも長蛇の列が出来ている‥‥筈だが。


何故かガラガラだ。

店の外から見ても人気が全く感じられない。

店に灯りがついてるから恐らく営業はしているのだろうが、なぜこんなにガラガラなのだろう。


その時、視界にある看板が写った。

『一年に一度!カップル限定!甘々カップルデー♡』


なるほど。


この町はこんなにもカップルが少なかったのか。

とはいえ天音は俺とあそこに入りたいと言った。看板が目に入っていないのだろうか。


「お前正気か!?今日はカップル限定ってあそこに書いてあるだろ!」

「そんくらい分かるよ」

「は?」

思わず変な声が出てしまった。

天音は本気で俺とあそこに入るつもりなのだろうか。


「もうっ早く早く。別にバレなきゃ本当のカップルじゃなくても入れるでしょ。折角ガラガラなんだから今日が入り時だよっ!」

そう言って天音は俺の手を強引に引いて店の中へと入った。


「カップル二名様来店でーす♪」


やばい、羞恥心で死にそう。


「こちらの席にどうぞ。」


席に着くと同時に、美人な店員からメニューを渡される。

「こちらは本日限定のカップル限定甘々スイートエクストリームパフェです。よかったらどうぞ」

「へー、美味しそう。」


お前正気か。

そんな羞恥の塊みたいなパフェ食ったら嫁に行けなくなるぞ。


その時、店員が俺の耳元に囁いてきた。

「ちなみに、カップルデーではこの商品以外のメニューが五割増しの値段になっています」


どこの違法金利だよっ!


このままでは俺の財布が路上でのたれ死んでしまう。


「天音、これにしよう」

俺が早口で言うと、天音が驚いたような表情を浮かべる。

「そ、そうだね」

若干戸惑いながらも承諾してくれた。

「じゃあこれお願いします」


「かしこまりました。ではしばらくお待ちください」


注文をした後、天音が俺に問いかけてきた。

「唯人、ほんとにこれで良かったの?」

「店員さんの話しによると、これ以外のメニューを頼めば値段が五割増しになるらしい」


俺がそれを口にした瞬間、天音がポカンとした様子で俺を見つめてくる。


「マジ?」

「マジ」

天音から確認をされたので俺は即答した。

「まあ美味そうだしいいだろ」

「それもそうだね」


こんな感じでしばらく雑談をしていると、店員が巨大なパフェを運んできた。

「こちらカップル限定商品の甘々スイートエクストリームパフェです。では、ごゆっくりお過ごしください」


おお、圧巻だ。

全長40センチくらいの巨大なパフェがテーブルの上に佇んでいる。


「じゃあ食べるとするか」

「そうだね。‥‥あれ?」

天音がテーブルの上を見回している。

「どうした?」

「いやなんかスプーンが一本しかないんだよね」


きっと店員がもう一本を用意し忘れたのだろう。


「すみませーん」

俺が近くにいたさっきの店員に呼びかけると、すぐにこっちに小走りで来た。


「どうなさいました?」

「スプーンが一本しかないんですけど‥‥」

店員が『あっ!そのことか』と言わんばかりの仕草で語り始めた。

「カップル限定メニューではスプーンが一本しか付いてきません。そのスプーンでお互いに食べさせ合ってくださいね♪」


は?

何を言っているのだろうこの店員は。

それだと俺と天音が間接キスをすることになってしまうではないか。


「えっ!?そんなの聞いてませ‥」

「でしたらスプーン一本の代金➕食べさせ合いをしなかったお詫びとしてパフェの値段を二倍にさせて頂きます」


店員が天音の話を遮ってとんでもないことを言い出した。


「天音、どうする?」

「やるしかないよ、唯人」

俺達は小声で意思を固め、店員に表明した。


「「やります!!」」


そこから俺と天音の羞恥心がMAXになる、甘々な食べさせ合いが始まるのだった。

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