第9話 マスター登録されました。

困惑するルシフェルをよそに事態は進行する。


ルシフェルの前方。

亜空間がいきなり凝縮したかと思うと、そこから美少女が姿を現した。

現れた少女はルシフェルに向かってうやうやしく頭を下げながら言う。


「……ああ、ルシフェル様……! お久しゅうございます。わたくしはアイラリンド。この城の管理全般を司ります智天使ケルプであり、同時に城そのもの。貴方様の忠実な僕、超天空城アイラリンドにございます」


アイラリンドと名乗った人物は、背にニ対四翼の立派な翼を生やしていた。

髪色や瞳は紺碧の空を思わせる美しい色合いで、白を基調とした色彩の服を着ている。


理知的な美少女といった風貌のアイラリンドは、纏うオーラもなんだか賢そうでかつ神々しい。

見た目のざっくりとした年齢的には、女子高校生という感じだろうか。

いわゆる清楚系JKとかそう言うやつだ。



ルシフェルは思わず突っ込みをいれる。


「いやいやいや、ちょっと待とうよ! 天空城って何⁉︎ どこからどうみてもキミは人間――いや、天使だよな」


律儀なアイラリンドは無意識から発せられたルシフェルの突っ込みに、笑顔で返事をする。


「はい、左様にございます。仰られます通り、私は天使。貴方様にお仕えすることを至上の喜びと致します、一介の智天使にございます」


アイラリンドがルシフェルに微笑みかける。

ルシフェルは思わず目を泳がせた。

そして挙動不審になる。


しかしそれも無理からぬことだ。

だって日本での生活においてルシフェルは、JKなどとは露ほども接点を持っていなかった。

本人の学生時代からずっと……。

つまりルシフェルにとって清楚系JKなど無縁過ぎる存在なのである。


しかしキョドるルシフェルに構わず、アイラリンドはぐいぐい迫る。

もう我慢できぬとばかりに頬を朱に染め、潤んだ瞳で嘆願する。


「あ、あの、ルシフェル様……!」

「は、はいっ⁉︎」


反射的に返事をしたルシフェルの声が上擦った。

それに構わずアイラリンドは請い願う。


「お、お願いがございます。至高の御方であり天の明星とまで謳われた我が主人であらせられます貴方様に、斯様に浅ましき願いを申し奉るは無礼千万と重々承知してはおります。……で、ですがもう、私は、これ以上己が身を律することが出来そうにないのです……!」


アイラリンドが一歩、ルシフェルに詰め寄った。

なにを言われるのだろう。

緊張したルシフェルは、無意識に生唾を飲み込む。


「ど、どうかお願い致します! ああ、ルシフェル様。どうぞ下賤なるこの身が、貴方様に触れることをお許し下さいませ……!」


アイラリンドが願いを吐き出した。



身構えていたルシフェルは、なんだそんなことかと気軽に頷く。

次の瞬間、ルシフェルの線の細い身体が思い切り抱きしめられた。


「……はぁぁ……ルシフェル様ぁ……!」


熱烈な抱擁。

両腕をルシフェルの背に回したアイラリンドは、全身を隙間なく密着させる。

火照った吐息をルシフェルの首筋に吹きかけ、頬を擦り付けながら、身体全部を使ってルシフェルを堪能する。


「ちょ⁉︎ ちょま⁉︎」


慌てて離れようとしたルシフェルの頭部に、アイラリンドの手のひらが添えられる。

幸せそうに表情を蕩けさせた少女は、ルシフェルの顔を自らの胸部に押し付けるように抱え込み、呟いた。


「ルシフェル様をマスターに登録いたします。何もかもを貴方様に捧げます。私の管理する天空城の権限すべてを、熾天使ルシフェル様に移譲いたします」

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