最終決戦(4)
ルリアナはゼルビアの表情から思い違いを読み取った。
(この顔、私が化け物に支配されてるって思ってるわね。呆れた父親だわ。自分の娘に気づきもしないなんて。ちゃんと気づいてもらわないと復讐にならないじゃない)
癪に障ったルリアナは、ゆっくりとゼルビアに顔を寄せて囁いた。
「お父様、何か勘違いしてらっしゃいませんこと? 私は正真正銘、あなたの娘。ルリアナ・デルフィナですわよ。そうそう、お母様は残念でしたわね。小うるさくしなければ、私も毒殺なんてしようと思わなかったのですけど……」
「な、何を言うて――」
「でも、お父様みたいにビクビクと怯えて見て見ぬ振りをしていたとしても、結局は無駄にダラダラと長生きして、こんな風にみじめな最期を迎えたでしょうから、あれで良かったのでしょうね。お母様もきっと感謝しておられますわ」
醜態を晒す前に殺してくれてありがとうって――。
ルリアナはそう言い終えると、唖然とするゼルビアを見下ろし下品に哄笑した。
愉快極まりなかった。苦痛と汚辱に塗れ、憎悪を抱えて失意のうちに消えた意識。それが蘇ってみれば、得も言われぬ万能感に満ち満ちていた。
ルリアナは力に酔いしれていた。共存する外界の徒の分身が呆れる程に。
(何をしている……! 早くトドメをさせ……!)
(うるさいわね。分かってるわよ。指図しないでくれる)
ゲオルグと違い、ルリアナは異常なまでに自己愛と執着心が強かった。完全な変異を遂げた肉体の制御も、外界の徒の分身を押さえて譲らなかったのである。
「さて、と。それじゃ、さようなら。お父――」
別れの言葉を告げる最中、突如、ルリアナの胸から刃物の切っ先が突き出た。
「人を侮辱するのも大概にしろ、ルリアナ……!」
「な……⁉ お前、は……!」
ルリアナは怒りで顔を歪めた。耳元で何十年も聞いてきた声がした。言いなりになっていた下僕が自分に逆らっている。そう思うと、はらわたが煮えくり返った。
「ロディイイ……!」
「名を呼ぶな……! 昔を思い出して吐き気がする……!」
ロディは暗殺術で気配を絶ち、ルリアナの背後に回り込んでいた。これまで受けた数々の非道。かつての主とはいえ、短剣で刺し貫くことに一切の躊躇はなかった。
「この……不忠者がああああ!」
激昂して叫ぶルリアナの背に、ロディは更に深く短剣を押し込んだ。
仰け反り、顎を上げたルリアナの首に、すっと線が走る。
「いつまで自分の側仕えだと? 思い違いも甚だしいですね。そもそも、あなたに忠信を抱いたことなどありません。死にたくないから従っていただけです」
アリーシャが冷淡に言った。ロディ同様、暗殺術で気配を絶って疾走。駆け抜けざまに短剣でルリアナの首を刎ねていた。間もなく、頭が落ちて転がった。
ルリアナは一瞬、何が起きたか分からず呆然とした。
だが、すぐに把握し表情を怒りに染め上げた。
「孤児上がりが偉そうな口を利くなあああ!」
アリーシャがルリアナの首を見下ろし溜め息を溢す。
「はぁ、あなたには驚かされます。まだ生きてると思えば、またそれ。もう聞き飽きてます。その口汚い罵りと暴力には、夫共々お世話になりました。これはお礼です」
アリーシャはスカートの裾を摘んで軽く持ち上げると、ステップを踏むように前方へ片足で跳び、後ろに大きく振り上げた足でルリアナの頭を蹴飛ばした。
ルリアナの頭は悲鳴を上げて城の壁に衝突し、ベランダの地面を転がった。その顔は衝撃で粘土細工のように変形し、美貌が大きく崩れていた。
だがすぐ元通りになった。のみならず、黒い靄が放出されて肉体まで構築され始めた。それは頭を失った体の方も同じで――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます