6

  

 

 タオルで体をぬぐってもらった。

 恥ずかしい気持ちを分かってくれて、ルインがまぶたを下ろしてくれた。

 暗闇の中で触れられると安心した。

 ルインの手はいつでも優しい。

 泣きたくなるくらい。


「私のものだから、大きいけれど」


 ううん、ルインのが着れて嬉しい。ありがとう。


 ルインがローブを羽織らせてくれた。

 サイズは大きいけれど、気にならなかった。

 何も感じないのが残念だった。

 着心地が良さそうな生地なのに、その肌触りを味わえないのが悔しかった。


 けど、柔らかい花のような匂いが分かったからそれで良かった。

 息はしていなくても漂う香りは感じ取れていた。

 ルインと同じ匂いがして幸せだった。

 彼に抱きしめられているようだった。


 私はルインに抱え上げられて、寝室へと運ばれた。


 ランプの案内は相変わらず続いていて、おどけたようにお辞儀をしてくれたりもした。それがルインのいたずらなのは知っていた。

 そういう茶目っ気のある人なのが嬉しかった。


 心が豊かになってるのが分かる。

 ルインが私をそうしてくれているって繋がりが教えてくれた。

 私の心をいやすために、ずっと魔力が与えられている。

 どこまでも優しい人だと思う。


 寝室は一人で過ごすには広すぎるように感じた。

 この洋館もそうだけど、より孤独感が大きくなってしまう気がする。


 ルインがずっとここで暮らしているんだと思うと、寂しかったろうなと同情してしまう。余計なお世話かもしれないけれど。


「そんなことはないよ」


 ごめんなさい。私、うるさくない?


「ちっとも。さぁ、ヒメ。おやすみの時間だよ」


 ルインが微笑んで私をベッドに寝かせてくれた。

 とても大きなベッドで、天蓋てんがいまで付いている。薄いレースのカーテンが柱に束ねられていて、貴族が使うものだと一目で分かった。


 私が寝てもいいのかな?


「もちろん。それより、不都合はない?」


 それを探す方が大変そう。ありがとう。ルイン。


 ルインは最初に会った頃より心配性になっているみたいだった。

 私を離したくないという思いが伝わってくる。

 寂しそうな眼差まなざしが子犬のように見えて、愛おしくてたまらなくなる。


 どうして私は死んでいるのだろう。

 もし体が動くのなら、今すぐにでも貴方あなたを抱きしめてあげられるのに。

 その孤独を私にも分けてほしい。

 貴方あなたが癒やしてくれたように、私も貴方あなたを癒やしたい。


 ルインは紅い瞳を涙に沈めた。

 私の思いを受け取ってくれたのが分かる。

 孤独を覆っていた氷が溶けて、冷たい寂しさが流れ込んでくる。

 それと、雪の中にぽつりと立つ彼の記憶も。


 ルインは生まれてすぐに父に捨てられていた。

 母の血筋に潜んでいた魔族の種が、ルインの中で芽吹いてしまったからだ。


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