ギリアムとの戦い(2)


「さて、行くとするかね」


 ギリアムはマーマンジェネラルとマーマンの群れを引き連れ南の村へと向かった。物見櫓ものみやぐらから見られていることにも気づいていた為、既に迎撃態勢が整えられていることも知っていた。にも拘らず、悠々と散歩をするように正面から侵攻した。


 というのも、事前に兵がいないことを確認していたからだ。村人の中にもマーマンと戦える手練れはいるが、それは極僅か。応援を呼びに向かわれても、兵の到着は早くても翌日。それまでに村人を殺して、遺体を回収することなど容易いと考えていた。


「た、助けて」


 喧騒の中、ギリアムは腰を抜かした少女に命乞いされた。少女は十八歳になったばかりの村長の一人娘で、数日後に恋人との結婚を控えていた。


「あー、どうすっかな」


 ギリアムは情欲に駆られた。舌舐めずりして少女を見下ろす。


(顔立ちは平凡だが、まぁ、どうせ殺すしな)


 その前に好きに甚振ってやろうという思いが脳裏を過ぎっていた。


 そこに一人の青年が駆けてきた。

 それは少女の幼馴染の恋人だった。少女は涙を浮かべて「ヨアヒム!」と名を呼んだ。だが、救いに来てくれたという喜びの表情は、すぐに凍りついた。

 ヨアヒムは剣を振りかぶり、雄叫びを上げてギリアムに斬りかかったが、横から伸びたマーマンジェネラルの手に頭を掴まれ、首を捻り落とされた。


 血飛沫を浴びた少女の眼前に、ヨアヒムの首が転がり落ちる。


「いやああああ!」


「うるせえ。殺すぞ」


 ヨアヒムの死に悲痛な叫びを上げる少女の髪を掴んで引きずり、ギリアムは手近にあった村長の住居に押し入った。そして少女を殴って服を引き裂いた。

 少女の悲鳴を聞き、まだ四十と若い村長が外から駆けつけたが、娘の有様に言葉を失っている間に、ギリアムが長剣で首を刎ねてしまった。


 少女は目の前で恋人と父を殺され、また悲鳴を上げた。恐怖に慄き、床も濡らした。

 だがギリアムは情欲を枯らすことなく、素知らぬ顔で出入口へと向かった。


「おい、やることは分かってんな? 邪魔が入らないようにしとけ」


「分かりました」


 ギリアムは外に立つマーマンジェネラルに命じ、返事を聞くなり扉を閉めた。


「さ、死ぬ前にいいことしてやるよ」


 少女を見下ろすギリアムの顔には、下卑た笑みが浮かんでいた。



 *



 ルシウスはマーマンジェネラルに向かい、魔法で氷柱を飛ばしながら、手にした長剣を横薙ぎに振るった。だがマーマンジェネラルは槍を回転させてすべての攻撃を弾いた。高い金属の響きが走り、剣戟打ち合いの衝撃でルシウスが吹き飛ぶ。

 

 ノインはアルトに指示し、回転する槍の前で急上昇した。直後にアルトから飛び降り、軽く息を吐きながら二本の小太刀を鞘から抜き放った。その高飛び込みの選手のような姿勢の斬撃は、しっかりとマーマンジェネラルの首を捉えた。だが、死角である背後から左右同時に斬りつけたにも拘らず、両断することは叶わなかった。


 ガツッ――という鈍く硬い音が鳴り、数枚の櫛鱗しつりんが剥がれ飛ぶ。


 ノインは着地するなりマーマンジェネラルから距離を取った。手が石を叩いたように痺れていた。その割に、マーマンジェネラルの傷は浅い。薄く血が流れた程度。


「なんて堅いの!」


 マーマンジェネラルは首に手を遣り、血を確認した後で口角を引き上げた。

 

 

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