9
*
海繋がりの鍾乳洞の中は、幻想的な光景が広がっていた。天井と床の両方に乳白色の鍾乳石が氷柱のように伸び、それ自体が仄かに光っている。そして、水の揺らめきのような光が壁に投影されていて、水辺もないのに滴るような水音がする。
その中に、《助けて》という子供の声が混ざる。
反響しているからか、いくつも。
「なんだか、ちょっと怖い」
「音も響くからね。綺麗なんだけど、不気味なんだ」
私とルシウスは、アスラから降りて歩いている。アスラは騎乗具を外して、今は私の中にいる。本当は一緒に歩いてもらった方が心強いんだけど、私たちを乗せて走ってもらったばっかりだから、少し休んでもらうことにした。
それで、心細さを解消する為にシクレアを呼んだんだけど……。
《寒ーい! なにこの寒さ⁉ なんでこんな寒い訳⁉ 興味深いわね!》
シクレアの言うように、鍾乳洞の中は外よりかなり寒い。
体をぶるぶる震わせて、くしゃみまでしちゃったから戻ってもらった。
ここぞってときに、体が冷えてて戦えないってなったら困るからね。
「ここって、マーマン以外だと何が出るの?」
「僕が見たことあるのは、スライムとレイスくらい。マーマン以上の魔物は出ないよ」
レイスは言ってしまえば幽霊。マーマンよりも扱いが上って図鑑に書いてあったのだけれど、光の魔法が使える人からすると、一瞬で消滅させられるから最弱扱いなのよね。私はオバケの類が大嫌いだから、ルシウスがいてくれて本当によかった。
「まだ聞こえる? 助けを求める声」
「うん、近づいてると思う」
「もう中ほどまで来てるから、もしかすると、最奥かもしれないね」
ルシウスが言うには中に入って一時間くらい経つそうだ。
正直、二時間は歩いたと思ってた。知らない場所を歩くって、結構疲れるのよね。
ルシウスはアデル先生たちと実地訓練で何度か来たことがあるらしく、その際に、ある程度マッピングも済ませたのだとか。だから案内はルシウスに任せている。
余計な時間がとられなくて済むのは助かる。私、もう帰り道のこと考えてるからね。今来た道を帰らなきゃいけないのかって、うんざりしてるからね。
綺麗なんだけど、苦手なんだよなぁ、こういうところ……。
勝手な印象だけど、ホラー映画やお化け屋敷感がある。
レイスが出るから、それで合ってるんだけどもさ。
「あ、ルシウス、あそこ、何かいる」
道の先に、赤い光が見えた。私だけが見える魔物の光だ。
洞窟内は薄暗いので、奥の方だと何がいるかはよく見えない。
指差して伝えると、ルシウスは光の球を作って道の先に飛ばした。その光に照らし出されたのは、白いぼろ布を身に纏う、痩せ細った女の姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます