3
肉を炙っていると、ルシウスの方から話をされた。
考えていたことは私と同じようだった。
ただ違う部分が一つ。それは方向。ルシウスの口から出たのは崖の上の先にある宿場町。アスラとディーヴァの言う、人のいる場所とは逆方向だった。
「崖の上にのぼりゅの?」
「うん、僕は馬で来たんだけど、歩いたとしても二日もあれば宿場町に着くよ。もう、毛皮や薬草がいろいろと集まってるし、服を買うお金くらいは手に入ると思うんだ」
「でみょ、そっちは危なくにゃい?」
ルシウスが、背もたれにしているアスラの背中を軽く掻くように撫でる。
「狩りをしているときにね、獲物からは、僕たちの姿が見えていないようなんだよ。たぶんアスラが何かしているんだと思うんだけど、それが使えるんじゃないかと思ってさ」
《うむ、もうちょっと左を。ああ、そこそこ》
アスラとルシウスはもうすっかり仲良しだ。言葉は通じていないけど、しっかり意思疎通できている。とても微笑ましいけど、今気にするのはそこじゃないわよね。
私はアスラのスキル、隠身のことをすっかり忘れていた。詳しく訊いたところ、対象の存在感を薄くできるらしい。
もっとも、相手が看破するようなスキルを持っていると効果はないそうだけど。
《看破って、見破るってことでしょう? それができる相手って多いの?》
《この森だと、レッドキャップやアウルベアくらいですかね。そういうスキルを持つ奴は、総じてかなり強いです。隠身があろうがなかろうが、あまり関係ありません。見掛けた時点で逃げるが勝ちでしょうな》
格上なわけね。数は多くないってことでいいのかしら。いえ、そんなこと分からないわよね。看破する魔法だってありそうなものだし、考えるだけ無駄だわ。
なんにせよ、隠身を使えば、ルシウスの言う宿場町まで向かう助けにはなるでしょう。もうそれでいいわ。何もないより断然マシだもの。
さて、そうなると、残る問題は私が幼児ってことよね……。
距離は歩いて二日って話だけど……。
ん? そういえば、さっきルシウスは馬で来たって?
私は気づいた。アスラとディーヴァに乗せてもらえばいいじゃないかと。
それなら二日もかからないだろうし、飲み水の心配もないじゃないの。
二匹に確認してみたところ、騎乗することに何一つ問題がないということだった。
「ルチウちゅ! アチュラとディーヴァが乗っていいっちぇ!」
「え、本当⁉ じゃあ、明日の朝から出発しようか!」
私は頷いて串焼き肉にかぶりついた。うーん、獣臭い。
食事はまだまだ改善の余地がありそうね。
お鍋が欲しいわ。宿場町で売ってるかしら?
この日の夜は、遠足や遊園地に行く前日のようにワクワクした。
なんだか懐かしくて、少しだけ寂しくなった。
記憶があるって、こういうときに困るのよね。
私の中にいるアンコは、いつか消えるんだろうか?
ふと、そんなことを考えてしまった。
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