エルモアの使者~突然死したアラフォー女子が異世界転生したらハーフエルフの王女になってました~
月城 亜希人
ガーランディアの王女編
1
尿意を催して目が覚めた。
時計を見ると午前一時。
やだな。寒いな。
そう思いながら、でも生理的欲求は無視できない。
溜め息を溢して掛け布団を避けて、ベッドから降りる。
うう、やっぱり寒いー。
震えながら、慌ててトイレに向かい中へと駆け込む。
やだ、漏れちゃう。
ぎりぎりまでベッドで粘った結果、膀胱が悲鳴を上げた。
急いで蓋を上げて、ズボンとパンツを下ろし、便座に座る。
そこで、殴られたような頭痛に襲われた。
え、ちょっとこれ……。
目の前が白くなって、息が荒くなる。
座っていられず、頭を抱えて前のめりに倒れ込んだ。
嘘でしょ、私、こんな死に方する訳……?
生温い湿っぽさが、股間から太ももに広がっていく。
やだ私、アラフォーなんだけど……。
意識が遠ざかり、死ぬんだとハッキリと理解した。
手足の感覚が失われて、目の前が暗くなっていく。
なんでこんな……。
贅沢せず、身の丈に合った生活をするよう努めてきた。
ただ地味に、ひたすら質素に、健全に生きてきた。
本当は、私だって着飾って恋をしたかった。
もふもふしたペットだって飼いたかった。
だけど、その勇気が出なかった。考えるのは、いつもお金。
歳を取って、老後の心配をするようになってからは尚更。
こんなことなら……。
もっと生きたいように生きれば良かった。
*
「おぎゃああ」
へ? 何これ?
視界に小さな手が二つ映る。
股間と内股には相変わらず湿っぽさ。すごく不快。
「あらあら、どうされました?」
微笑む金髪の美女が視界に入ってくる。
顔立ちは西洋風。耳の先が尖っている。
着ているのはメイド服。フリルカチューシャも。
そのメイドらしき女性は私の下腹部に触れ、頷いた。
「今、お取り替えしますね」
そう言って、手際良く私の不快感を取り除いていく。
いわゆる、オムツ交換をして。
いや、オムツ交換って。
なんで私、赤ちゃんになってるのよ。
(その質問には、僕がお答えします)
ふわふわと浮かんだ、金髪巻き毛の男の子が視界に入り込む。
背中には小さな白い翼が生えていて、とても可愛らしい。
私の知るキューピッドの姿そのまんまだ。
(その認識で間違いありません。僕はクピドのエルモアです)
エルモアちゃん。
(エルモアで構いません)
エルモアは、にこやかに笑んで宙でくるりと回転する。
メイドさんには姿が見えていないようだ。
声に気づいている様子もない。
多分、私の頭の中だけで響いているのだと思う。
(説明が必要ないようで助かります。今、あなたが思われている通り、僕はあなたにしかその存在が認識できません。ミタラシ・アンコさん)
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