夏と蜜柑

塩漬け幾等

夏と蜜柑


「「はあ、暑いなぁ、もぅ、、」」


皆が口を揃えて愚痴を零す。

今は肌を陽射しが強く照り付ける季節、夏。

特に暑くなる8月上旬だ。


僕らはそんな中毎日のように地獄の練習に明け暮れている。


まだ涼しい朝にランニングをし、昼頃には地獄の走り込み、夕方になると本格的な競技を行う。


ただ、ただ、走る。

そんな日々に嫌気が差してきたこの頃、周りも同じように疲弊している。



休憩中、そんな僕らを見て、主将キャプテンが口を開く。


「お前ら、なにをこのぐらいで疲れ切った顔をしてやがるんだ!夏はまだまだこれからだぞ!」


僕らは口々に言う。

「だって暑いんですよ。しかも毎日毎日走ってたら、疲れますよ」

「日に日に疲れがたまっていくだけだし、、」

「疲れすぎて腹も減らないっすよ」


「だったらな、いいか、よく聞け」


主将が真剣な表情で口を開く。

「お前ら、夏ミカンは食ったことあるか?」


「「はっ??」」


何を言ってるんだこの人と僕は思う。


「あ、ありますけど?」

「それは甘かったか」

「はい」



「じゃあ、夏の蜜柑は食ったことあるか?」




「「はい?」」


「まあ、たぶん食ったことある奴はいないと思うけどな、味は想像できるだろ?」


多分まだ熟していないからかなり酸っぱいのだろう。


「蜜柑は夏ミカンとは種類が違う。夏ミカンは秋に実を付け、冬に色づき熟しはじめ、春から初夏に収穫される。」


何が言いたいんだこの人、とその場にいた奴らは思ったことだろう。


「でもな、蜜柑は初夏ごろに成長し始め、夏の間に成長し、夏の終わりから秋の始めごろに熟し、冬に収穫される。だから、夏の蜜柑ってのは酸っぱいんだ。」


「駅伝はいつだ?」

「11月です。」

「だろ、だから俺らは蜜柑みたいに夏に成長して熟さないとならない。だから今の時期のきっつい練習こそ、熟すためだから大事なんだ。」


皆がはっとする。


「だから8月中の練習は気を抜かずにしっかりやれ。あと、蜜柑が成長するのに水分がいるのと同様に俺らも水分がいる。水分補給だけは忘れんなよ。」


「はい、話終わり、練習再開!」


青い空と強いオレンジ色の陽射しとともに、今日も僕らは走り出す。


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