第89話 童貞の黒歴史は踊る(11)
苛烈にミナを責めるトキハに、イッサクは小さく舌打ちして肩をつかもうとした。そのときだ。
「ちょっと、あんた!なに勝手なこと言ってくれてんのよ!」
リリウィが、ヒスイに羽交い締めにされながら、手足を暴れさせて喚き立てた。
「その子がどれだけ頑張っているか知ってて言ってるの?
好きでそんな男に好きにされているわけじゃないのよ!
その子はね、昔、イッサクの父親に……」
「リリウィ」
イッサクの声が、オレンジの闇の中で重々しく響いた。
オレンジの闇の中で鈍く光るイッサクの目に睨めつけられ、リリウィは押し黙る。
イッサクはトキハの肩に手を置いた。
「お前もだ。言葉でミナを殺す気か」
トキハは、濃い影が刻まれたイッサクの顔を見上げて、うやうやしく頭を下げ、うしろに下がった。
そうして、イッサクはミナの前に立った。
ミナはイッサクを見つめ、手をのばす。
だが、ラヴクラフトがミナを胸元へと抱き寄せ、イッサクから引き離した。
「触るな!ミナは僕のものだ!」
ラヴクラフトは、イッサクから守るようにがっしりとミナを抱いた。
ミナはラヴクラフトの腕の中で、身を捩ってイッサクだけを見ているが、その目はだんだんと潤み、光を失っていく。
むき出しの独占欲に、ミナの体は桃色に上気し、場所も人の目も関係なく、ラヴクラフトに押し倒されることを望でいく。
それでもミナは、唇を噛み血を流しながら、イッサクを見つめていた。
イッサクがミナの左手を掴んだ。
ミナの瞳に光が戻り、強くイッサクの手を握り返す。
「貴様!ミナに触……」
「あ?」
「……っ」
ラヴクラフトはイッサクに一瞥されただけで膝が震え何も言えなくなった。
「少し黙ってろ。もう終わる」
イッサクはミナの手を引き、顔を強引に自分の方へと向けさせた。
ミナもイッサクから目をそらさない。体はラヴクラフトの手の内にあっても、ずっとずっとイッサクを見つめ続けている。
ミナの唇が動き、声をあげようとする。
死臭満ちるオレンジ色の暗闇のなかで、イッサクはミナの声を塞ぐように、唇を重ねた。
「約束だったしな」
一瞬のことだった。
子供が戯れにするような、触れるだけのキス。
それでも、ミナの目から涙が溢れた。
このまま強く手を引いてもらうのを期待した。
しかし、イッサクはミナの左手を離した。
同時に、ミナは左の薬指にわずかな痛みを感じた。
そして直後、大きな喪失感に襲われた。
イッサクが離れていく。
ミナに背を向け歩いていってしまう。
どうして一人でいってしまうのか。
見開かれた目が、イッサクの指の先に、小さく輝くものを見つけた。
ミナの心臓が、ドクンと痛いほど締め付けられた。
まさか。
ミナは、ゆっくりゆっくり、自分の左手に目を動かしていく。
すると、無くなっていたのだ。
ミナの左の薬指から、指輪が抜き取られていた。
指輪の下に刻まれていた、呪術の刻印も削り取られていた。
「あ……、あ……」
ミナはイッサクの名を呼ぼうとするが、声にならない。
イッサクが肩越しにラヴクラフトを振り返った。
「邪神像ももらっていくぜ」
イッサクは、いつのまにかラヴクラフトから抜き取った邪神像を掲げて歩いていく。ラヴクラフトがあわてて追おうとすると、イッサクがかすかに笑って言った
「これでミナは完全にお前のものだ。それでいいだろ?」
ラヴクラフトはミナの左の薬指から、あの目障りな輝きが無くなっているのを見留めると、ニィと口の端を歪め、抱いているミナの肉に指を食い込ませた。
そして、始めはくぐもった、それから徐々に声を出し、最後には勝ち誇ったように高く笑った。
決して獣が出さない、獣じみた声でイッサクを嗤った。
強烈な独占欲に囚われたミナの下腹が熱くなり、股はラヴクラフトのモノに貫かれる準備を始めていた。
ミナの目から、光が失われていく。
オレンジの闇が色を失い、暗くなっていく。
イッサクの背中が闇の中へと消えていく。
そうしてミナの目には、イッサクの姿は見えなくなってしまった。
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いつも読んでくださり、ありがとうございます。
次の話から、物語は終盤に入ります。
伏線の回収などできているか確認しないといけないのですが、書いていて一人盛り上がってしまったので、思ったよりも文字数が多くなってしまいました。
カクヨコンの期間内にはピリオドを打ちたいので、年末年始もかわらずに掲載してまいります。
みなさまいろいろご予定があると思いますが、ぜひこちらもお付き合いいただけますよう、よろしくおねがいします。
追伸:カクヨコンの壁が高いっ……
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