第7話 このおねーさん、気になるッ!

 普段見る事のないコスプレのおねーさん。そりゃやっぱり気になるよね。あんまりジロジロ見るのも失礼だとは思うけど、やっぱり目で追ってしまう。よく見るとすごいスタイルはいいし、顔も美人だし。こう言うのを眼福って言うんだろうな。

 そんな訳で、出来るだけ気付かれないようにこっそりチラチラと見ていたら、彼女側も俺の方に顔を向けてきた。見ていた事が気付かれたようだ。ヤバ! 気を悪くさせちゃったかな?


 けれど、俺に想像に反しておねーさんは優しく、そして魅惑的な微笑みを俺に向けてきた。どうやら怒ってはいないようだ。この反応に俺はほっと胸を撫で下ろす。

 そして微笑まれらたらほほえみ返しだ! と思ったけど、知らない女性にいきなり笑いかけるのは無理だったので、軽く会釈をする。


「こ、こんにちは?」

「フフ、こんにちは」


 軽い挨拶の後、魔女のおねーさんは当たり前のように俺に近付いてきた。この状況に俺の頭はフリーズする。今までこんな状況を体験した事がなかったために、どうしていいか分からなかったからだ。

 彼女はすっと右手を差し出す。俺も反射的に右手を差し出していた。


「これからよろしくね」

「えっ?」


 握手した瞬間、周りの景色がぐにゃりと歪む。この時、俺は突然襲ってきた激しい頭痛に頭を押さえた。ガクリと膝を落としたところで俺の視線が床に向かい、足も元に魔法陣が浮かび上がっているのを確認する。

 次の瞬間、俺達は知らない誰かの家の一室にいた。この唐突な展開に、俺の思考回路は完全にショートしてしまう。


「えっ? えっ?」

「ようこそ、私の家へ」

「ここがおねーさんの? もしかして、本物の魔女?」

「そうだよ。お前さんに見込みがあったから連れてきた」


 俺に見込みがある? つまり、目の前の魔女おねーさんは俺に何かをさせるために自分の家に連れ込んだと言う事のようだ。とは言え、俺には思い当たるフシが何もない。どれだけ考えても何も思いつかなかったので、ここは素直に質問をする事にした。


「あの、あなたは俺に何をさせたいんですか?」

「私の名前はキラリィだよ。お前さんは何て言うんだい?」

「お、俺は……」


 こう言う場合、本名を言っていいのかどうか悩む。相手は魔法を使う存在だ。下手に本名を喋ると呪われたり洗脳されてしまうかも知れない。

 そう考えた俺は偽名を口にしょうと思ったものの、既に魔法にかかってしまっていたらしい。俺の口は素直に本名を喋ってしまっていた。


「俺はハルト。吉川ハルト……」

「ハルトか、いい名前だねえ」

「ども……」

「私はあんたに弟子になって欲しいんだよ。いいだろ? 魔法が使えるようになるんだ。悪い話じゃない」


 キラリィはそう言うと眼鏡のズレを直す。俺の直感はこの提案が本気だと訴えていた。弟子にしたいと言う事は、俺にも魔法の才能があるのだろう。正直、魔法が使えるなら使いたいと言うのが本音だ。

 だけど、きっと修業は楽なものじゃないだろう。物心ついた時から魔法が使えていたならともかく、今の俺は魔法とは無縁でそう言う力は全く使えないのだから。


 俺が返事を出しあぐねていると、彼女はずいっと俺に顔を近付ける。よく見ると顔はとても整っていて、可愛いと言うよりは美人寄りだ。実年齢は分からないけど、見た目は20代前半のように見える。そして、魔女らしく妖しげな雰囲気も漂っていた。特に目ヂカラが半端ない。見つめられたら何でも言う事を聞いてしまいそうになる。

 顔ばかりじゃない。魔女っぽい服でよく分からなかったけれど、体型もすごくナイスバディだ。出るところが出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる。思わず手を伸ばしてしまいそうな誘惑にかられてしまう。これも魔力的なアレなのだろうか。


「何が不服なんだい? この私が手取り足取り教えてやろうって言うのに」

「て、手取り足取り?」

「ああ、魔法のノウハウを基礎から教えてやるよ。すぐに上達するさね」


 彼女は自分の持てる魅力の全てを使って俺に対してプレゼンを仕掛けてくる。これで落ちない男はいないだろう。当然、俺もこの誘いに抗う事は出来そうになかった。


「で、でも何で俺?」

「お前には才能があるよ、ひと目で分かった」

「何で弟子が欲しいんだ?」

「私は今までずっと1人でね。仲間が欲しかったのさ。こう見えて寂しがり屋なんだよ。お前なら良いパートナーになれる。私が保証するさね」


 俺を弟子にするのに、特に野心的なものはなさそうだ。彼女の目的は分かった。今度は俺が決断する番だ。返事は急かされてはいないものの、ここで明確に答えないといけない気がしていた。きっと嘘をついても見透かされるだろうし。

 流れで弟子になってもいいんだけど、そうなると両親にも説明しなきゃだし色々と捨てるものも多いはずだ。魔法にも魅力があるけど、やはり現代社会にも未練がある。


 俺はニコニコ顔のキラリィを前にして、しばらく考え込んだ。そして――。



 彼女の提案を受け入れる

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649065733005

 断固拒否!

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649066754978

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