第10話
俺はダンジョンを出たあと魔力中毒になった時に寝ていたベッドのある部屋に連れていかれた。
「で、質問なんだけど、君はなんで防衛者になりたくないの?」
よし来た。俺はこの質問に答えるために帰ってくるあいだずっと言い訳を考え続けていたのだ。
「実は昔、俺は誘拐された事があるんだ。その事がトラウマになって、俺は自分の住み慣れた家じゃない所に長期間泊まったりする事が出来ないんだ。」
「そ、そんな事が!?」
真っ赤な嘘である!
別に誘拐された記憶などない。それに、俺がそんなに特別な存在なわけ無いしな。
どちらかと言えば今の方が誘拐されそうだ。
「って待って? それって防衛者になれない事に関係ある?」
「え? だって防衛者になったらここに住まなきゃ行けないんじゃないの?」
「え、違うわよ?」
なんだって? それじゃあ俺がさっきから悩んでた事って無駄だったのか?嘘までついたのに…………。
「多分、君は防衛者の事をこのホテル街を守る為のものだって勘違いしてるんじゃないかな。別に防衛者って言うのはそういう集団じゃないよ。防衛者はモンスターから人や動物、そして地球を守る為にモンスターを倒す集団の事を指しているの。」
「じゃあ別に何処で倒しててもいいから他のところに住んでいても良いってことか?」
「そうよ。君は君の家の周りのモンスターを倒すだけでもいいと思うわよ。」
「待ってくれ、それならどうやって稼ぐんだ?」
俺は少食のお陰でご飯は全然食べなくても良いし、お金もまぁまぁ持ってるので稼ぐ必要は無いように思えるが、防衛者になるのならダンジョン産の武器や防具が欲しい。それを買ってしまうと俺が生活する為のお金が無くなってしまう。
「それは、たまにダンジョンに行ってアイテムを取ってきて売るしかないわね。それでかなり稼げると思うからお金の心配は要らないわよ。」
そうなのか。なら全然引きこもっていても良いのか。まぁ、引きこもると言っても以前みたいにネットにずっと潜っている訳でもないので外に出てモンスターを倒したりはするだろう。
俺はもう今は謎の箱を開けられればいい。
俺は特に断る理由も見つからなかったため防衛者になる事にした。
「分かった。それなら俺も防衛者になりたい!」
「よしゃっ! 君みたいに若い人は、いや、若くないんだっけ? まぁ、いいや。君みたいに若い人って防衛者に全然居ないから寂しかったんだよね。」
「そんなに若者は防衛者にならないのか?」
「うん。残念な事にね、防衛者になるような子の大半はダンジョンに早い段階で入っていって死んじゃったりしてたり、モンスターにビビってならなかったりするの。ここの地区の若い子は私も合わせて5人しか居ないの。」
そうなのか。そうなってくると陽夏って結構凄いやつなんだな。
「さっきも説明した通り、防衛者はモンスターを倒す役割を担ってるの。だからホテル街を守らなくちゃいけない訳じゃないんだけど、まぁ、普通に考えて守るわよね。」
うぅ、守らない俺が悪者みたいに思えてきた。
いや、謎の箱という超有能アイテムを独り占めしている時点で悪者なのか。
「あぁ、別に君が悪い奴だなんて思ってないわよ? モンスターは生き物を襲うから人間がいっぱいいるホテル街に集まってくるの。だからこのホテル街を守れば一石二鳥なのよ。だけど、別に人員は足りてるし、そっちで倒してくれていればこっちも結果的に安全になるから良いのよ。」
「なら良かった。」
それから陽夏から防衛者についての詳しい話を聞いた。
ふと窓の外を見るともう太陽が沈み始めていた。
「もうそろそろ暗くなるから君は帰った方がいいよ。」
「え、なんで?」
「なんでって、昔誘拐されたことがトラウマで家以外のところに長期間居られないんでしょ?」
「あ、あぁ。そうだね。」
いけないいけない。忘れていた。やはり嘘はつくものじゃないな。
「暗くなるとモンスターに奇襲されやすいから暗くなる前に早めに帰ってね。」
「あぁ。分かった。ありがとう。」
俺は陽夏に見送られながらホテル街を出た。
ホテル街を出てからは俺1人なので、ゴブリンは避けていくことにした。
陽夏に護身用としてあのナイフをそのまま借りているので、戦って勝てないことは無いだろうが、それでも危険すぎる。
警戒しながら歩いているとなかなかに疲れるものだ。俺は家に帰った途端に、服も着替えずに布団にダイブした。
元々服も布団も汚いから気にする事はない。
あぁ。今日は本当に濃い1日だった。
俺は疲れからか、気絶するように眠った。
「………ャァ、ギャギャッッ!!」
俺は謎の声に睡眠を邪魔されて目覚めた。
時計を見ると夜の12時だ。
本来ならまだ眠いはずだが、ショートスリープのお陰でもう回復した。
窓の外を覗くとそこには2体のゴブリンがいた。明らかにこちらに気づいており、殺気の籠った目でこちらを見つめている。
うーん。これは避けては通れないようだな。
俺は仕方が無くゴブリン達を倒す事にした。
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