第6話ナヅキと、ロウソク

「そうだ!お二人にムオン様からの加護を授けましょう!」

シスターが突然、ロウソクを取り出し、立ち上がりそう言った。

「ありがたい事だが、その火のついたロウソクをどう使うつもりなんだね……」

タッシャさんは心配そうな顔をしながら石板にメモを取っている。


「大丈夫です!きっと上手くいきますよ! ええと、まずは私からやってみますね」

シスターはそう言うとロウソクを傾けて自分の手のひらにロウを垂らす。

ロウは手の上で青白く燃え上がったかと思うと、シスターの手のひらに吸い込まれるようにして消えてしまった。

タッシャさんは唖然としている。私も同じ気持ちだ。


「ほら!うまくいったでしょう!?さあ、次はタッシャさんの番ですよ!」

シスターがニヤニヤしながらタッシャさんの手を取る。

「ん、え?うわっ、あっ、熱っ……」


シスターは有無を言わさずタッシャさんの手のひらにロウを垂らすると、ロウは先ほどと同様に青白く燃え上がり消えてしまった。

「おお、少し熱かったが今は何ともない。それどころか頭が澄み渡ってきたぞ!

 これはすごい!」

タッシャさんは興奮しながら石板に何かを書き込んでいる。


「でしょう!神のご加護は素晴らしいんですよ!」

「あの、シスターさん、私にもお願いできますか?」

「もちろんです!」

シスターは今まで見たこともないような優しい顔で私の手を握り、私の手のひらの上にロウを垂らしてくれた。

熱い……でも嫌な感じじゃない……しかし先ほどの二人とは違い、私のロウは燃えない。


「あら、おかしいですね」

しばらくじっと見ていると、ロウがぶくぶくと泡立ち、黄色く濁りだす。

そして耐えきれないほど手が熱く、痛みが強くなる。


「うわっ、ちょっ、熱っ!」

私は激しく手を振って草むらにロウを捨てた。

シスターは捨てられたロウの方を見て悲しそうな顔をしていた。


「大丈夫か?火傷していないといいのだが……」

「はい、ちょっと熱くて驚いただけです」

タッシャさんは私を心配してくれているようだ。まだ手がジンジンしている。


「痛かったですか?ごめんなさい。上手くいかなかったようです……」

「いえ……すいません。びっくりしてしまって……」

シスターは私がロウを捨てたことに明らかにショックを受けているようだった、何だか私は彼女を傷つけてしまったようで胸が締め付けられる。


「でも、すごく綺麗でしたよ!それにいい匂いもしました!」

シスターは私の言葉に微笑んでくれたが、それからずっと口数が少なくなった。


「うーん、やはり儀式とは難しいものだな。しかしシスターのおかげで新しい力を

 得た。感謝する」

タッシャさんはそんな気まずい雰囲気をどうにかしようと思ったのかシスターに礼を言った。

けれどシスターさんの落ち込みようは凄まじく、焚火を見つめたまま動かない。


「私が思うに……シスター」

タッシャさんが声を続けると彼女はハッとしてタッシャさんを見た。

「あ、はい?なんですか?」

「私が思うに、彼はすでにムオン様の祝福を受けているようだから、

 新しい祝福を授けることが出来なかったのではないかな……?」

「……そ、そうですね!きっとそうですよ!皆さん、元気を出してください!」


いやあんたが一番落ち込んでるんですけど……シスターは無理矢理笑顔を作っていたが、すぐにまた落ち込んだ様子になった。

シスター的には物凄く意味があることだったのかもしれない。


何なんだよもう、正直うっとうしい人だと思ったこともあるけど、そこまで落ち込まれると私が悪いことをした気分になるじゃないか。

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