第30話
「来ましたっ!」
突如として、狂うような笑いをあげながら、わたし達へとレアが飛び出してきたと思うと、空に現れ無数のサビ付いた道具レアに続いて流星のごとく超高速で飛来する。
「っ―――」
落ち来る道具は、杭、斧、鉄球、針、ノコギリ、ナイフ、剃刀、鉄棒、槌、水車、檻、その他名前も知らない物ではあるが、それらの共通点はすべて、人体を傷つけ苦痛を与えるという拷問器具ということに他ならない。
使用用途ゆえに一つ一つに殺傷性は少ないが、高速で落下してきている以上、直撃すればタダではすまない。
なにより、おぞましい道具ゆえに感じ取る危難は凄まじく、無意識のうちにわたし達は全力でそれらを回避していた。
全員散開し、各々、躱して聖器(ロザリオ)で弾く。
それでも数が数だ。数百のうち8割はどうにかしたが、残り二割に襲われ避けるも――
「っ―――」
完全には受け流しきれずわたしの体を、かすり傷程度だが削った。
「リア、大丈夫?」
道具の雨は終わり、全て捌き切っていたおねえちゃんに心配をされる。
どうやらわたし以外は全員無傷のようだ。
「大丈―――アァっ!?」
「リアっ!?」
かすり傷だから大丈夫、そう言おう思った時だった。
突然、受けた腕と足の小さな切り傷が、大きく裂けて致命傷となり血を噴き出した。
激痛でわたしはそこにうずくまり、それでも次の攻撃を警戒して痛みに耐えてレアを見る。
レアが何かした?
正面に立つレアは悪魔のような狂った哄笑を上げてわたしのことを見ているが、何かした様子はない。
だが、わたしに起きた現象を見て楽しんでいるのは間違いではないはなかった。
「リアっ」
「リアっ」
三人がわたしへと駆けつける。
「大丈夫?」
「大丈夫だよロプちゃん。これぐらい治せるから」
夢を駆動させて、傷を癒していく。既に降臨(アドベント) は発動しているため、形的にはおねえちゃんが力を使っているが、わたしが思えばおねえちゃんに伝わり、わたしが使うように能力は発動する。
傷は言えて、流れていた血も消え去る。だが、
「くうっ……!?」
痛みは引かなかった。
再生し、元の傷のない肌へと戻っているがそこには皮膚が裂けた痛みが残り、何故か酷く痛んだ。
「っ……」
痛い……。無痛化を願ってもその痛みは消えない。
「――いたぁい?」
困惑して痛がるわたしにレアが、酔うように甘ったるく声をかけてくる。
破顔する笑みがいやらしくも、悦に浸っているようで嫌らしくおぞましい。
「っ……」
「リア、どうしたのです?」
「痛みが、引かない……っ」
痛みにはを食いしばり、立ち上がってよろけるも、心配したミカエちゃんに支えられる。
「アナタ、何したの?」
睨みつけ大剣を構え向けて、悦に浸るレアへとおねえちゃんが問う。
「アハハッ――その表情良いわぁ。はぁっ――もっと、もっと愛して、愛してあげるうぅっ!」
両手を振り上げて、喝采し祈るようにして訳の分からないことを言い放つと、周囲に落下していた道具が共鳴して僅かに動く。
そうして――
「わっ⁉」
落ちていた草刈りの釜がクルクルと回ってロプちゃんを襲い、それをギリギリのところでロプちゃんが躱した。
そして、それを合図に落ちている道具がわたし達に再び牙を向く。
大きな斧が振ってきた。
鉄の棒が真横から真っすぐ迫ってくる。
「このっ」
ロプちゃんが帰ってきた釜を氷の鎌で弾き飛ばすと、それは光の露となって消失する。
それを見て、おねえちゃんたちは反撃へと出る。
「はっ――」
「やあっ」
おねえちゃんが飛んできた、木製の磔の十字架を大剣で斬り飛ばし、それは木の破片をまき散らして破壊され粉々になった破片ごと光の露となって消え去る。
ミカエちゃんが鎖を真っすぐ放つと、巨大な鉄ハサミを貫いて破壊し、それは光の露となって消え去る。そうして更に鎖は周りのあらゆる道具を破壊していく。
わたし達はおのおの、乱雑に飛び交う道具を躱して壊してどうにか対抗をする。
「やあっ」
そんな中で、わたしも負けじと、痛みをこらえて道具を飛来した道具を大剣を振って斬り落とす。
原因不明の現象に戸惑いはあったものの、飛び交う拷問器具は数は多いが一つ一つはさほど脅威ではない。だから、わたし達は冷静に対処することで飛び交う拷問器具を捌くことができていた。
「はあああっ」
そうしてその中をおねえちゃんが器具の間を縫って、狂気の祈りを続けるレアへ腕の無い左側から大剣を振り入れた。
迸る剣劇の調べと火花。
「ちっ――」
「アハハ! いいわ、キサマも愛してあげるっ」
おねえちゃんに気づいたレアはくるりとスカートを広げて優雅に回転し、同時に右手に邪気をまとわせる。と共に、自身の身長と同等の巨体な屠殺の包丁を顕現させると、回転した勢いのまま振りぬいた。
振り入れた大剣はぶつかり、ことごとく弾かれ、おねえちゃんはその力づよさに大きく後ろへ弾かれる。
「ほら、血を流して、我(ワタクシ)の愛を受け入れてっ!」
振りぬいた状態から、レアが獰猛な狩猟犬のごとくおねえちゃんへ屠殺の包丁が振り下ろされる。
「っ――」
間一髪で弾きそこから数十発、火花と鈍い金属音を響かせて撃ち合いに、地面や自ら出した道具などは周囲を破壊され、その一刀一刀が凄まじい強さだと言うのが思い知らされる。
「こういうのはどう?」
「―――!?」
浮遊する杭が、レアが狙って動かしたのか、撃ち合うおねえちゃんを背後から狙い真っすぐ狙って飛ぶ。
「リムっ!」
鎖が金属音を鳴らしてしなる。気づいていたミカエちゃんが自身の鎖を数本、飛び交う器具を破壊しながら真っすぐ飛びおねえちゃんを狙っていた杭を破壊する。
そして、そのまま鎖はレアへと軌道を変えて――
「今です!」
飛翔した鎖は屠殺の包丁を振るう右腕へと巻きついて、振るうその動きを止めた。
その瞬間、おねえちゃんの一撃は確定した。
「はああああああっ―――!」
一閃。
迸った斬撃の残像と共に、正面から受けたレアの胸から鮮血が霧のように飛び散る。
だが、レアは止まらなかった。
「あはははははははははっ。痛い! 痛いですわ! あははっ、あっはははっ」
「しまっ!?」
高らかに笑いあげる様は異常者そのもので、その異常さに動揺したおねえちゃんへ数本の長い針が飛来する。
同時に、屠殺の包丁が超高速で飛んでいて。
それは、わたし達全員が予想だにしない行動だった。
「あっ……」
そうして、ミカエちゃん目掛けて飛んでいたそれは、気づいたときにはもう遅く――
「ミカエエエェェェっ!!」
「っ、このっ!?」
ロプちゃんの叫びと共におねえちゃんへ数本の針が刺さった。致命傷にはなりはしないものの、その苦痛に顔を歪めて見た物は絶望だった。
「ロプトルっ……!」
「ロプちゃん!」
わたしはおねえちゃんの無事にほっとして、上がった叫びにミカエちゃんとロプちゃんの方を見ると――
「そんな……」
瞬時に反応していていたロプちゃんの肩口から胴まで、鎖骨を砕いて大きく屠殺の包丁が肉をえぐり取り、血まみれになりロプちゃんが倒れた。
「ロプ、トル……」
倒れるロプちゃんの前にミカエちゃんは顔を真っ青にして膝をつく。
「ロプちゃん!」
わたしはその二人へ飛び交う器具を、残留する傷の痛みに耐えながら斬り飛ばしながら駆け寄る。
「レアっ!」
「あははは……。痛い、痛い……? ねえ、どう? 愛しているの、我(ワタクシ)の愛はどうっ⁉」
「あははは――あははっははははははっ―――」
一方で、おねえちゃんも血まみれで致命傷にもかかわらず哄笑し狂うレアへ、針を抜き捨てて大剣を構えるも、あまりの異常さに困惑し動けないでいた。
「おねえちゃん!」
「分かってる」
叫んで、おねえちゃんに頼み、ロプちゃんの傷を癒してもらう。
「ロプちゃん……」
「あっ……くっ……」
「待って、今治すから……」
どうにか意識はあるようだが……。傷はわたし達の力によって、時を巻き戻すかのように傷はいえていく。
でも――
「リ、ア……。っ……ぁ……っ」
痛みは引かないらしい……。
わたしと同じだ。
すべての傷はくまなく癒えているはず。なのに。
「っ……」
「ロプちゃんっ!!」
痛みが酷いのか、そのままロプちゃんは意識を失ってしまう。
その時、終始顔を真っ青にして黙っていたミカエちゃんが、響くレアの笑い声に静かに立ち上がった。
「ミカエちゃん……?」
静かに立ち上がったミカエちゃんは何も言わず、少し間が開く。
無論のこと、今この時この瞬間も拷問器具は浮遊してわたし達へ飛来し始めており、危機的状況なのは変わりない。
でも、ミカエちゃんはそれに動じない。周囲の器具など目移りせず、涙の滲んだ瞳が鋭くレアを睨む。
同時に、幾多もの器具が刃を向けてミカエちゃんに降り注いだ時――
「レアアアアアアアアァァァッ――――!!」
怒号と共にミカエちゃんの背から都合十本の鎖が全方向へ飛び出し、襲い来る拷問器具を貫きつぶした。
一度の射撃で破壊しきれなかった器具や地に残り続ける物すらも、全て鎖が蛇のようにうねり貫き破壊する。
そう、すべて、容赦なく。
そのことごとくの存在を許さないと。
「ミカエちゃん……」
破壊された器具が全て光の強と化して周囲に舞い上がる光は美しくも、反対に怒り狂うミカエちゃんの凄まじさを示していた。
そして、それは見た目だけに収まらない。
事実、溢れる怒りに合わせて、ミカエちゃんの精神強度は今までの比ではないほどに向上して、その斬れ味と速度は研ぎ澄まされていた。
「よくもぉおおっ――!」
周囲の器具をすべて破壊すると、降り落ちる残骸の雨の中、全ての鎖が四方八方からレアを狙って穿たれた。
「はぁっ――いいわ、もっとっもっと愛してっ!」
狂っている。そう表現しかできない、溢れる意味不明な哄笑は未だ終わらず、餓えるように両腕を広げるレアは、迫りくる鎖から身を守る動作は一切しない。
いいや、むしろ、その攻撃を全て受け入れているようであった。
何かがおかしい。今までの最高純度の鎖の切れ味はいくらレアであろうと致命傷となるはずだ。
狂っているという前提があれど、それは分からない訳ではないはずだ。いや、そもそも、レアは何に狂っているのだろうか。
愛に? 痛みに? 血に?
いいや、違うあれは。
自身に残留する痛覚が、主観的な光景の中で悲劇的な状況下であれど、冷静さをわたしへ搔き立てていた。
「はあっ―――」
そして、降り注ぐ鎖の豪雨。それらはレアの体ごと地面を貫いて、その場に串刺しにした。
「ああ……かっはぁっ……。気持ちいい、気持ちいですわ……」
貫かれて鎖を伝い滴る血液。それは致死量に値する量を流しているのにも変わらず、血を吐きながらも、レアは歓喜と悦と、満たされたように、血が流れるごとに快楽を感じているようであった。
狂っている。さっきまでの、わたしの疑問を吹き飛ばすほどに、その光景はグロテスクで異様で痛ましく、そして気持ち悪い。
まさしくバケモノとしか形容できず、明らかな致命傷を負わせたというのに、わたし達はレアを恐れていた。
「あああああっ――!!」
その恐怖を振り払うように、ミカちゃんは地面ごとレアの体を投げ捨て、血煙を上げながらレアの生身がおもちゃの人形のように宙を舞う。
そんなあっけなく、やられたレアを見上げて。彼女の表情が悦を謳い上げる物から、怪しく魔性のある相貌に変化したのを捉え、恐れを通り越してもはや魔的な誘惑的な何かを感じた。
まるで、惹かれるような。彼女に好意を抱き好いている。愛している。というような。
無意識に、浮遊レアに惹かれて一歩近づいて、同時に逃げないとと、悟った。
「おねえちゃんっ、そこから下がってっ!!」
マズい、そう思っておねえちゃんへ叫んだが、そんなものなどには意味がなかった。
それには、射程など無かったのだから。
「降臨(アドベント)――愛情にまみれて残留する(チェイテエルジャベート・レジドユアル)」
世界に響いたのはレアが発した言葉か思念か。
念と波導となって彼女の法則が能力として発露して――
「くあああああっ!!」
「くっ――!」
わたしとおねえちゃんに、底のない愛と快楽(苦痛)がぶつけられて、何故かわたし達はレアと同じ(・・・・・)鎖の傷を受けて、皮膚は裂け傷口がえぐり開き、血しぶきを上げてその場に倒れた。
「リアっ! リム!」
「かはっ……ぁっ」
「な、ぜっ……」
全身を襲う痛みに、どこがどう痛くて、何が起こったのか理解もできない。
辛うじて、表情を蒼白にしているミカエちゃんと、わたしと同じように血まみれ倒れているおねえちゃんとロプちゃんが視界の端に見える。
「ひゅー、ひゅーっ……。ゴホッ――っ……」
声を出そうと、空気を吸おうとするも肺に穴が開いているのか笛を吹くような音が漏れて、血反吐が喉どから上がり反吐となる。
全身は穴だらけ。胸や腹、股や腕。抉れて大きな穴が空いており、出血はそれにより溺れそうなほど血だまりとなるまでしている。
率直に言って、人の形をギリギリにとどめているのがおぞまじい。槍衾状に穴が開いて、繋がっているのか無いのかも分からない肉塊であるのに。
何故かわたしも、おねえちゃんも生きていた。
ただ感じるのは叫び泣きたくなるような痛みと恐怖がただわたしを襲っていた。
怖い、痛い……。
助けて、もういや……。
「ぁ……」
そう思っているとおねえちゃんの回復の夢の効果により、わたし達三人の傷は治っていきそれに安堵を一瞬覚えが。それは見当違いだったし、そもそも傷を治すというのはわたしの精神的にも失敗だった。
抉れた肉が湧いて出て、つなぎ修復する様はショッキングかつグロデスクな物だが、確実にわたしの体への癒しとなって居るはず。なのだが……。
傷は治っているのに痛みは消えない。
体の芯を貫くような激痛は治まらず、五体満足に治っても感じる激痛に絶望した。
「―――」
これはさっきと同じ現象。傷は癒えても痛みは消えない。無痛の夢を願い行使しても消え去りはせず、ただ痛み続ける。
それがこうして、同じように巻き起こり、今度は意識が壊れそうなほどの激痛が残留する。いいや、もはやわたしの意識など恐怖と絶望に塗られて壊れていたのかもしれない。
「くぁっ……ぁ……」
こんな痛みを受けているのに、意識を失わないのが恐ろしい。というより、意識を失うことが許されていないようで、この場に広がるレアの能力(法則)がまだまだ痛みを与えると訴えかけてくる。
まだ、続くの……。さらにもっと……。
「ああああああああああああああああ……っ!」
意識を失う寸前の痛みに対し、矛盾するすべてに、逃げれないという事実がわたしへただ突きつけられ、知らずと悲鳴を上げていた。
痛い。痛い。ただ痛い。
体を刺す痛みが、痛くて逃げれない事実に、恐怖することも意識を失うことも、狂うこともできない。
もうやめて。怖い。お願い。苦しい。
「うぅっ……」
治った腕を伸ばして、顔を真っ青にしたミカエちゃんに助けを求めようとして、動かした瞬間に激痛が襲い呻きを漏らす。
なのに、なのに……。わたしはそんなふうなのに……。
「おね、ちゃん……」
おねえちゃんはそれでも立ち上がっていた。
顔色は悪く、すごく辛そうなのに大剣を杖代わりに立ち上がっている。
「二人とも……」
「大丈夫よっ! このくらいっ」
血の気が引いた顔をして呆然としていたミカエちゃんの呟きに、返したおねえちゃんの言葉は凄く強気であった。
でも、そんなのは絶対にやせ我慢だ。夢で繋がっている以上、おねえちゃんの状態は分かるが、それはわたしと同じだという事実だけが帰って来ていた。
だから、あれはやせ我慢。
痛みに負けまいと、声を張って勢いづいているに過ぎない。
でも、だからこそ、同時におねえちゃんは凄いなと思った。
痛くて怖くて動けないわたしと違って、強いなって……。
おねえちゃんはやせ我慢し剣を構え、ミカエちゃんは青ざめた表情のまま。
そんなわたし達へ倒れていたレアがむくりと起き上がり、トコトコ平然と、嫌らしくも魔性なイヤらしくも滴るような笑みを浮かべ、削れた穴があいた体で平然と歩いてくる。
のみならず、今までの戦いは無意味だと言わんばかりに、傷と衣服はわたしと同じように修復されていく。
そうしてわたし達の前に立つ拷問狂は、わたし達と出会った時のまま同然の姿どころか、何故か無かった左腕すらも再生した五体満足の姿だった。
「この……」
「っ……」
立ちはだかるレアに、おねえちゃんとミカエちゃんは苦くも辛そうな顔をした。
「イタイ? イタイ?」
楽しそうに熟れるように問われるそれに、誰一人と言葉は得なかった。
「キモチイイ? ねえ、教えて。キサマらの愛を返してあげたの、ねぇうれしいでしょぉ、気持ちいでしょぉ」
この異常事態。レアが何かをしたのは明らかで、愉悦問うレアは隙だらけであるが、奇妙な存在感はとどまることを知らず、膨れ上がりつける。
それが足かせとなって、痛みに苦しむわたしは無論、二人は動けないでいた。
それでも、その異常性を押し飛ばそうとおねえちゃんが威勢を張った。
「アナタ……、随分と悪趣味な力を使うのね」
「悪趣味ぃ。違うわ。こんなにも愛で満たされてるのに、なんでそんなこと言うの? ねえぇ、気持ちいぃでしょぉ」
ねっとりと放たれた言葉はやはり意味が分からなかった。
いや、分かりたくもない……。
「二人とも、やるわよ。ミカエ、頭は冷えた?」
「はい……」
言われたミカエちゃんが顔色をゆっくりと戻して、戸惑いながらも鎖を静かに操り構える。
「先ほどは取り乱して、ごめんなさい」
「大丈夫よ」
意識を失っているロプちゃんをチラリと見て、おねえちゃんは言った。
それから、わたしへ――
「リアも、いつまで寝てるの? それぐらいこの間のカレンの時に比べればへでもないでしょう?」
挑発するように、少し怒っているかのように。いや実際おねえちゃんの苛立ちも感じていている。
そんなこと、言われたって、痛くて怖い。もういやだ……。
その気持ちは同じように届いているのに……。
レアの能力かそもそものわたしの精神力か、何故か残る意識に訴えかけられたおねえちゃんに、怒られる嫌われるという恐怖が、痛みの恐怖を超えている自分はいる。
「むちゃ、いう……」
痛い……。痛い……。
こんな痛みにもめげないおねえちゃんは凄いな……。なのにわたしは……。
そこから感じる恥とおねえちゃんの怒りが共鳴して、わたしの意志を奮い立たせる。
「ぁ……」
痛みが和らいだ気がした。
レアのように狂気に陶酔するわけでもなく、自暴自棄にでもなるわけでもなく。
ただ、わたし自身の意志で。勇気が湧いて激痛を鎮痛させる。
おねえちゃんに負けたくないって思って。
わたしは、ゆっくりと軋む四肢を動かして、張り裂けそうな筋肉に力を加えて。立ち上がり大剣を顕現させ構えた。
再び立ちはだかるわたし達に、レアの口元が三日月のように笑う。
「ははっ……。いいわよ、もっと、もっと愛し合いましょう?」
高らかに歓喜し、そして屠殺の包丁を顕現させて不気味な笑みが止まらない。
未だレアの能力の底は不明。
無限に等しい拷問器具に、痛みの消えない現象。そのうえ、現象だけ見るに自分が受けた傷を相手へ返上するという力。これについては、直接傷を負わせたミカエちゃんではなくわたしとおねえちゃんとロプちゃんが受けるという条件不明であり、ほかにもまだ能力を隠し持っているのかもしれないという可能性もある。
実力は未だ不明瞭。失っていた左腕が再生している以上今まで以上の能力を使ってくるかもしれない。
ロプちゃんだってかけている。
絶望的な状況はさらに絶望的になっていることには変わらず、勝機は不明。
ゆえに地獄の終わりはいまだ見えない。
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