第24話

「………」


 気づけば、振り上げた大剣を無抵抗なカレンの胸へと振り下ろす寸前だった。

 このままいけば確実にカレンを切り倒すことができるだろう。

 けれど、本当にいいのか……。




「……何故?」


 驚いた顔をして、それから眉を潜めて不愉快そうにカレンが問う。

 今、わたしは振り下ろす大剣を押しとどめて、大剣を下していた。


「これは殺し合いよ。それなのに……何故? カレンならこんな半端なことはしない。今の判断で反撃を受けていても文句は言えないのよ?」


「でもカレンはそんなことして来なかった」


 剣を消失させて、笑顔で言葉を返す。

 わたしの行動に、おねえちゃんもカレンと同じように驚いていたけれど、視線を送ると同じように矛を納めてくれる。

 

「なんでって訊かれると、実のところわたしも本当はあのまま斬ってやりたかった。でも――いまはそうすべきじゃないと思ったの」

「どうして」

「わたし達はまだまだ未熟だし、あなたにはまだまだ教えてもらうことがある。それに、本気じゃなかったでしょ」


 散々ボロボロになるまで痛めつけられたにせよ、カレンの力があれぐらいだとは思えない。ならば、カレンに一太刀入れたところで倒しきれるとは思えないし、そんな事で仲違いをしてこの先の試練についてアドバイスをもらう機会を失うのはもったいない。


 だからこれは合理的かつ、わたし達が生き抜くための手段ということにして、カレンに対する厭悪を抑えた。


「はあ……飽きれたわ。まあ、今回はそれで合格ということにしましょう」


 溜息と共にカレンから殺気は消えて、鎌が消える。どうやら、わたし達は生き延びることができたようだった。


「リアーっ」

「わっ、ロプちゃん⁉」


 カレンの様子に胸を撫でおろして緊張が溶けると、不意に横から飛びついて来たロプちゃんに押し倒されて、その場で転倒する。


「大丈夫っ⁉ 怪我とか、カレンの奴にやられてたのとか」


 怪我なら今ロプちゃんに抱き着かれて、お尻とか痛いけどと思いながら、わたしの体の至る所をみるロプちゃんだが。それに、そういえばと思う。


 カレンから受けた怪我は全て消えている。鎌の切り傷から足の負傷まで全て。戦う前の何でもない状態へと戻っていた。

 無意識化の中で力を使っていたから気づかなかったけれども、そうか……自分はここまで理想を実現できたのかと。改めて、力の強さを再確認する。


 ……って。


「ひゃっ、ロプちゃんっ⁉」

「だって、ちゃんと見ないとっ、ここも切られてたよね?」


 気づけば服をつかみめくろうとするロプちゃん。わたしのおなかを出させられている。


「そこは大丈夫だからっ」


 めくろうとする手を押さえて、必死に抵抗する。


「ちょっと、ひゃあっ⁉」


 おなかを指先でなぞられ、、こしょぐったく声を上げる。


「治ってる……。でも、本当に大丈夫なの?」

「だから大丈夫だって、そこはそもそも切られてない」


 手がスカートに伸びて裾を引かれ今度はスカートをめくろうとしてくる。

 そこは、切られてないだろうと必死に抵抗して、抑えるも、強引にロプちゃんは引くことをやめない。


「ちょっと、やめてっ……ロプちゃん」

「本当に? けられた時のあざとか残ってない⁉」

「やあ……」


 そうして、スカートが奪い取られそうになった時――


「何やってるんですか」

「ミカエちゃんどうにかしてぇ」

「はいはい……」

「わっ⁉ こらミカエっそれはズルいっ」

 

 遅れてやってきたミカエちゃんに、涙目で助けを求めると、鎖が伸びてロプちゃんの腰に巻きつきそのままロプちゃんの体が宙に浮く。


「ちょっとこら、ミカエーっ」

「はいはい。少し大人しくしていてください。――でも、本当に大丈夫なのですか? リア」

「うん。ねっ、おねちゃん」


 立ち上がり土埃を払って、ミカエちゃんたちと同じように近寄ってきたおねえちゃんへ微笑みかけると、ええと同意してくれる。


「リアも私もこの通り、大丈夫よ」

「そうですか……」

「でしょっ、それに言ったよね。わたしとおねえちゃん(・・・・・・・)なら大丈夫だって」

「リア……」


 何故だかわたしを見て、ミカエちゃんが酷く悲しい顔をする。どうしたんだろうか。

 けれどもそれは笑顔に変わり、微笑んでくれる。


「……良かったです」

「リムっ、後で訳聞かせてよ⁉ っていうかミカエこれほどいて」

「ダメです。しばらく大人しくしていなさい」

「あはは……」

「ふふふっ、後でね」


 暴れるロプちゃんにみんな笑い合う。良かった。みんな無事で……。


「帰る」


 そんなわたしを後目にカレンは一人飛翔して、先に街へと戻って行った。

 唐突に始まった命がけの訓練だったけども、わたしも強くなれたしみんなでの連携もそれなりに取れていたと思う。これならば、カレンの言う試練も超えられるかもしれない。


 そんな、希望を心に秘めて、わたしはただ今この時の嬉しさを感じた。



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