第7話 狩り、修行、瞑想、狩り、修行、瞑想
俺がクラゲになってから、遂に五日も経過してしまった。
これが夢だとして、一向に目が覚めないのは流石におかしい。ということは、これは夢ではないのだろう。
認めねばなるまい。
俺はあの海水浴場でカツオノエボシに刺され、溺れて死んでしまったのだ。そして何の因果か、異世界らしき場所で一匹のクラゲに転生している……。
クラゲに殺された俺がクラゲになるとは、なかなか洒落が効いているじゃないか。たぶんカフカもびっくりだわ。
っていうか、俺、そんなに悪いことしましたかねぇ?
クラゲになるって畜生道に堕ちるよりも酷い感じがしません?
まあ、なってしまったものは仕方ない。
我が身の不遇さを嘆くよりも、未来のために前向きに生きるべきなのだろうな。どうやって前向きになったら良いのかは、さっぱり分からんのだが。
ともかく。
どうしようもない現実を嘆いてばかりもいられないし、この短いクラゲ生も必死に生きてきた。
その努力の証はステータスにきっちりと刻まれている。
見よ、今の俺のステータスがこれだ。
【名前】なし
【種族】レインボー・ジェリーフィッシュ
【レベル】7
【HP】16/16
【MP】179/179
【身体強度】4
【精神強度】141
【スキル】『ポリプ化』『触手術Lv.4』『刺胞撃Lv.2』『蛍光Lv.2』『空間魔法Lv.1』『鑑定Lv.1』『魔力感知Lv.2』『魔力操作Lv.2』『MP回復速度上昇Lv.2』
【称号】『世界を越えし者』『器に見合わぬ魂』『賢者』
【加護】なし
どうだろう。だいぶ成長しただろう?
特に【MP】と【精神強度】の成長が著しい。対して【HP】と【身体強度】の成長はしょっぱいが。
だが何よりも、スキル各種が成長したことが大きい。
今日まで俺は、ヒトデや小魚を狩っては修行を繰り返し、MPが枯渇したら瞑想(魔力を取り込むイメージのアレね)を繰り返してきた。
その甲斐あって、レベルもそうだがスキルも随分と成長した。
俺のメインウェポンたる『触手術』はスキルレベル4に至り、今では5本の触手をそこそこ自由に動かせるくらいに成長した。MPを消費して伸ばせる長さの限界も、強化の度合いも向上している。
これならばヒトデや小魚よりも強い獲物を狩ることができるのではなかろうか? そろそろ俺自身のレベルも上がりにくくなってきたし、新たな獲物を狙うべきかと考えているほどだ。
んで、『刺胞撃』は特に修行とかしていないのだが、狩りを繰り返すことでスキルレベルが上がった。たぶんだが、毒の強さが少しだけ増し、捕らえた小魚などが動けなくなるまでの時間が、短くなったと思われる。
そして『蛍光』についてだが。
俺、このスキル一回しか使ってないんだよね。それも試しに使ってみただけなんだけど。
このスキルを使うと、何と……全身が虹色に発光するんだ。
いや、俺ってば色を識別できないから、本当に虹色に光っているのか分からないんだけどさ。
で、スキルを使うと虹色に光る。だが、それがいったい何だと言うのか。
はっきり言って、何かに役立つとは思えない。俺が観賞用に飼われているクラゲだったら、ご主人の目を楽しませるという役割が生まれたかもしれないが、こちとら野生のクラゲだぜ? ピカピカ光って他の生物とかに狙われたらどうする。
まーちゃん曰く、
『オワンクラゲは光るけどぉ、なんで光るかは解明されてないんだってぇ』
なのだそう。
光る仕組み自体は解明されていても、光る理由は不明なんだそうな。
いまや立派にクラゲとなった俺ではあるが、そんな俺でも、やはり光る理由は不明。学者先生たちがいつの日かこの謎を解き明かしてくれることに期待するが、俺としては無意味に光るつもりもないので、これからも『蛍光』スキルを使うことはないだろう。
――なのだが、気づいたらなぜかスキルレベルが上がっていたのである。
解せぬ。
さて。
不思議スキル『蛍光』の話はこれくらいにして、次は『空間魔法』と『鑑定』について。
俺ってば『触手術』よりも『空間魔法』をたくさん使っている。何しろ「空間識別」を展開していないと、周囲の状況を把握することもできないからだ。
しかし、これほど頻繁に使用しているにも拘わらず、『空間魔法』のスキルレベルは上がっていない。
ラノベとか漫画の常識で言えば、空間魔法とか時空魔法とか名のつくものは、基本的に高度な魔法だ。そして高度な魔法ゆえに、スキルレベルが上がりにくいのではなかろうか?
考えられる理由としては、それくらいしかないだろう。
これは『鑑定』も同様で、高度なスキルだからこそ成長しにくいと思われる。いまだ俺以外の物や生き物は名称とか種族くらいしか表示されないとはいえ、『鑑定』も頻繁に使ってるんだけどな。
こいつら、特に『空間魔法』は俺の生命線とも言えるので、これからの成長に期待だ。いつの日か「転移」とか「次元斬」とか使えるようになってやる! いや、あるか分からんけど。
で、『空間魔法』とか以外だと、『魔力感知』とかのスキルだが。
『魔力感知』と『MP回復速度上昇』はスキルレベル2に上がった。
『魔力感知』はぼんやりとだが、数メートル先くらいの生物の魔力を感じ取れるようになっている。ただ、それも比較的魔力を多く持つ生物に限る。
今まで感じ取れた生物で言うと、たまたま近くを回遊していた大きな鮫(食べられなくて良かった。めっちゃ恐かった)と、大きな珊瑚の2体だけ。
鑑定してみたところ、こいつらの種族はこうなっていた。
【種族】ホラー・シャーク
【種族】ミネラル・コーラル
種族名からどれくらい強いかは分からないが、少なくとも今の俺では逆立ちしても勝てないだろうな。
だいたいなんだよホラー・シャークって。B級映画の不条理な鮫か?
ちなみに珊瑚は刺胞動物門の歴とした動物で、大きな括りで言えばクラゲの仲間とも言えるらしい(まーちゃんペディアより抜粋)。
クラゲも刺胞動物だからな。
閑話休題。
次に『MP回復速度上昇』だが、これも地味に性能が向上している。今まではだいたい6時間くらい(主観なので正確性は期待できない)で枯渇したMPは全回復していたが、その時間がだいたい20分くらい速くなったかな? という感じだ。
まあ、MPの回復が速くなるのは嬉しいので、これもどんどんスキルレベルが上がって欲しいものである。
そして最後に『魔力操作』について。
なぜこいつの説明を最後に回したかと言うと、はっきり言ってこれが一番凄かったからだ。
このスキルが生えた時に、俺は「スキルを発動すると自動的に消費される魔力を任意で多くしたりして、威力を高められる」のではないかと予想した。
結論から言えば、その予想は正解だった。
『触手術』や「空間識別」に消費される魔力を上乗せして、その性能を高めることができたのだ。
おそらくスキルレベルの関係で、上乗せできる魔力量は限られているようなのだが、それでもスキルレベル1の段階で、はっきりと違いが分かる程度には強化することができた。
『触手術』で言えば、今なら一時的に触手を5メートルくらいまで伸ばせるし、触手を叩きつければ小魚を失神させる威力がある。まるで鞭みたいに動かせるのだ。
触手を動かす速さも向上し、すばしっこいヒトデ――ダッパー・スターフィッシュが全力で逃げても、簡単に捕まえることさえできる。
そして「空間識別」では、その認識範囲が広がった。
今までは半径20メートルくらいの球状空間を識別していたが、これに魔力を上乗せすると半径25メートルくらいの球状空間を識別できるようになる。
どうやら『魔力操作』を使えば、他の魔力を使用するスキルや魔法を強化できるようなのだ。
これはもう、頑張ってスキルレベルを上げるしかないだろう。
『空間魔法』が攻撃に転用できるまで成長するのは結構な時間が必要になりそうだが、『触手術』で海亀やペンギンを追い払うくらいのことは、それほど時間をかけずにできるようになるかもしれない。
希望が見えてきたぜ……!!
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