使いかけの香水に、君を想う。
ネズミ
僕の日常には、先輩が好きだったもので溢れている。
過去に戻りたいと考えてしまうのは僕だけではないと思う。あの日に戻れたらこうするのにと、意味がないとわかっていても、何度も何度も存在し得なかった未来を妄想してしまう。
シュッ、シュッと1日に数回香水を付ける。その度に「私のこと、忘れないでね」と言って、使いかけの香水を渡してきた先輩のことを思い出す。
大学の時の1つ上の先輩。学年は1つ上だったが、歳は3つ離れていた。
先輩は突然いなくなり、結局想いを伝えられなかった。
いや、もしいなくなることを事前に知っていたとしても僕は告白できなかっただろう。
先輩には常に恋人がいたし、僕のことを「弟に似ててかわいい」と言っていた。
事ある毎に先輩は僕を呼び出して、「良かれと思ってご飯作ったのにさ、美味しくないだって!酷くない?」と恋人への愚痴を吐きまくった。
僕はその関係性を壊したくなかった。先輩も僕を弟みたいと言うことで、恋愛対象ではないよと一線引いていたような気もする。
最後は決まって、「鷹見くんは好きな子いないの?」と聞いてきた。
僕は「いないですね。理想が高すぎるんですかね」と言って、笑って誤魔化していた。
先輩が好きだと言っていたモデルのSNSは今でも定期的にチェックしている。
初めは、ルックスがいいなと目の保養程度にしか思っていなかった。だけど、彼女のSNSから発せられる言葉に次第に惹かれていった。彼女の文章には哲学があり、悩んでいるときに何度も背中を押してくれた。
先輩の好きなものが次々と僕の中に侵入していった。
好きなバンドも小説も映画も、その元を辿ればほとんどが先輩へ行き着く。先輩を思い出すトリガーが僕の半径5メートル内にゴロゴロと転がっている。時間が経過すると共に少しずつ薄れてはくるが、完全に先輩のことを忘れる日は訪れないだろう。それはそれでいいと思っている。浸れる間は浸り続けていたい。
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