第63話 素直な気持ち

「ちょっと座って待っていてもらえるかな?用意をしちゃうから」

「用意って何の?」

「VRゴーグルとスマホを連動させるから」清輝はそう言うと、壁面収納のスペースから大事そうにVRゴーグルを手にとった。

「それがVRゴーグルなんだ?」

由衣は我慢できなくなり、立ち上がって清輝の隣でまじまじとVRゴーグルを眺めた。

「すぐ終わるから待っていてよ。焦らないで」

清輝から諭されるように言われとき、由衣は自分のスマホにメッセージが届いたことを知った。

「誰だろう?ちょっと今は・・・」

慌ててスマホをタップする。

『由衣、今は清輝の家なのかな?結果をちゃんと教えなさいよ!』

いつの間にか希実からメッセージが届いていた。慌てて返信しようとすると、タイミングを見計らったように「準備が終わったよ」と清輝が声を発した。

『わかっているよ!』器用にボタンをタッチして短い文章を作り上げると、由衣は「どれどれ」と言いながら清輝の横に立った。

「見た目はごついけれど、そんなに重くないから」

受け取って、というように清輝は由衣にVRゴーグルを差し出した。

「かぶり方がよくわからないんだけれど」

「ちょっと待っていてね」

慌てて清輝が由衣の背後に回り込む。意識していなかったといえば嘘になるが、さすがに部屋に2人きりで、しかも背後に立たれると嫌でも緊張してしまう。

「ゆっくりね」由衣の声が裏返りそうになる。そんな由衣の様子に気付かない清輝は呑気に「大丈夫だから」と由衣を落ち着かせようとしていた。

「重くない、平気?」

「うん、思っていた以上に重くないんだね」

由衣は清輝の補助を受けて、ようやくVRゴーグルを装着した。

「ねえ、真っ暗で何も見えないんだけど?」

「今、スイッチをいれるから」

ウィンウィンと機械が音をあげる。由衣には初めての体験で、心臓の鼓動が早くなり、ドキドキする気持ちが更に加速していた。

真っ暗な画面に光が灯る。「うわ、眩しい」由衣はカーテンを真っ暗な室内のカーテンを開けた時のような感覚を覚えた。

「どうかな?」清輝の声だけが聞こえる。なぜか楽しそうだ。

「どうかなって・・・ちょっと!怖い怖い!なんでビルの淵に立っているの!」

「うーん、やっぱり怖いよね。俺も初めてその画面を見たときはマジでビビったから」

「呑気に感心していないで切って!切りなさいって!」

「ごめん、ごめん。はい、切ったよ」

自分でVRゴーグルを外した由衣は鬼の形相で清輝を睨みつけて「もう帰る!」とポシェットを手に取った。

「ごめん、本当にごめんなさい」

「あんた、私を何の用で呼んだの?」怒りがおさまらない由衣は語気を荒げて清輝を問い詰めた。

「本当にごめん。なんだか由衣が緊張しているみたいだから、少し驚かせれば気分が変わるかと思って」

「もう信じられない!雰囲気とか考えないの?私だって緊張するよ、当たり前でしょ?それで、清輝は私に何をしたいわけ?」

「俺は・・・俺は由衣に告白するつもりだけれど」

「は?」

「だから、由衣のことが好きだって告白するつもりだよ」

「な、な、はああ」由衣は馬鹿らしくなって溜め息を吐いた。清輝はとんでもないことを口にした。

「なんだか順番が違う気がするんだけれど?」

「でも、由衣だってそのことはわかっていたでしょ?」

「そりゃ、まあ」反論できない。セオリーに反しているのは清輝なのだが、真面目な顔でそう言われてしまうと、どう言葉を返せば良いのかわからない。

「やっぱり、清輝は社会不適合者だね」

「そうなのかな?」

「そうに決まっている。なんでいきなり告白してくるかな」由衣は頬が赤らんでいるのが自分でも気がついた。それにしても意表を突かれ過ぎた。告白されるのはわかっていたが、まさかこのタイミングで告白してくるとは思ってもみなかった。

「清輝、あのさ、私も好きでしたとか言うと思っていない?」

「まさか。希実さんからも由衣はモテるからフラれるかもしれないと忠告を受けたし」


「やっぱり、清輝は変人だ」由衣はそう言いながら零れそうな笑みを見せた。

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