第16話 打ち上げだが、それよりもスマホが気になる
「それでは、テストが無事に終わったことと、今年最後のゼミ、ついでに少し早い忘年会も兼ねて、乾杯!」
お調子者の潤の音頭をとり、年内のゼミ最終日に居酒屋で打ち上げが行われた。
「みんな、来年もよろしく」
教授も参加しているのだから、音頭をとるのは教授のほうがふさわしいと思ったが、生真面目で、それでも温和な性格な教授は潤にその役を任せた。
清輝も打ち上げに参加している。こういう行事に参加しないほど無粋でもないし、空気が読めない人間ではなかった。
ゼミの打ち上げに教授が参加するのは別段珍しいことではない。清輝の知る限り、愛想がなく、ただ自分の研究に興味がない、要するにあまり生徒に愛着が湧かない教授は参加しなかった。まあ、そういう教授の講座は受講する生徒が少なく、人気もなかった。
「それじゃ、私はお先に失礼するよ」
20人は座れる座敷に案内されてから1時間ほどで、教授は腰をあげた。
それにあわせて全員が立ち上がり、教授を見送る。
「みんなはゆっくり楽しんで。ただ、飲み過ぎはダメだからね」
「はい」
「君たちは来年でいよいよ4年生になる。就職活動も大切だけれど、卒論もしっかりと提出するように」
「はーい」返事のトーンがさがる。就職活動と卒論。ここからが正念場だ。
教授を見送ると、再び腰を下ろして、打ち上げと言う飲み会が再開した。
ゼミのみんなは楽しんでいるが、清輝は紗枝が気掛かりだ。
試験前にAuto機能にしたが、果たしてどうなっているのだろう?
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「水本君、さっきからスマホを見ているけれど、もう帰りたいの?それとも、このあとデートの約束をしているの?」
座敷の隅でスマホを出しては締まっている清輝の横に、レモンサワーを持った女性が腰を下ろした。
「ここ座ってもいい?あ、もう座っちゃっていたね。あはは」
隣に腰を下ろし、いい塩梅に酔っているのは、同じゼミの
同じゼミなので清輝も何度か会話をしたことがあるが、2人きりで話すのは初めてだった。
「デートとかそんなじゃなくて・・・」
スマホのアイドルが気になるなんて言えるわけがない。
「じゃあ、つまらないの?」希実は顔を真っ赤にしながら口を尖らせた。
「白石さん、酔い過ぎなんじゃない?ちゃんと帰れる?」
「そうしたら、水本君に送ってもらう!」
「いや、俺はそういうのは・・・」
「冗談だって!!」希実が清輝の肩をパンパンと叩く。
清輝は高校時代に彼女がいた。付き合った人数は1人だが、デートよりもアルバイトを優先し、クリスマスや誕生日などをあまり気にしなかったせいで「付き合ってください」と告白された彼女に半年で振られた。キスはしたが、それ以上のことは何もしていない。大学生になっても彼女はできず、清輝は世間でいうDTだった。
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「なんか、水本くんって冷めているよねえ。飲み会でも静かだし」
「適材適所だよ。その分、潤が盛り上げている」
「じゃあ、水本君の適所は?」
「うーん、邪魔にならないように隅にいくことかな?」
「そんな寂しいことを言わないでよ!あ、そういえば、私、水本君の電話番号やアドレスを知らないだけれど、教えてくれない?」
「構わないよ」
「よし、交換しよう!」希実は楽しそうに自分のスマホを取り出した。
希実が体を清輝に寄せてくる。知ってはいたが、希実は胸がやたらと大きい。清輝は希実とくっつかないように距離をとって連絡先の交換をした。
「おーい!希実、どこにいるの?」
希実を呼ぶ女子の声がする。
「ここだよ!なーに?」立ち上がろうとした希実の態勢が崩れ、清輝は慌てて希実を支えた。
「ありがとう、でも、お尻を触っているよ、水本君もエッチだな。あはは」希実は酒で火照った顔で面白そうに清輝を見ている。
「ごめんごめん、そういうつもりはなかったんだけど」
紗枝から「どこを触っているんですか!」と睨まれた場面がフラッシュバックする。
「嘘だよ、水本君、ありがとうね」
だが、現実の女性は怒りもせず、お礼を言われた。清輝は自分の脳がゲーム脳になっているのではないかと心配になった。
希実が離れていくと、今度は別の女子が清輝の隣にきた。名前がすぐに出てこないが、希実とよく一緒にいる女子だ。
「あのね、希実って水本君のことが気になっているみたい。電話をかけてあげたりすれば喜ぶと思うんだ」
「電話を、誰が?誰に?」
「はあ、水本君ってそういうところがあるよね」名前を思い出せない女子生徒は深く溜め息を吐いた。
「いい?もし水本君が嫌じゃなければ積極的に希実と関わって欲しいっていうこと。あ、彼女は勿論いないよね?」
確認が遅いし、彼女がいない前提で話が一方的に進んでいる。
「というか、何で俺なの?どうして?」
はああ、女子生徒は先ほどよりも大きな溜め息を吐いた。
「普通、そこは喜ぶところじゃないの?希実は愛嬌があるし、顔だって悪くないし、それに・・・」
「それに胸が大きい」言ってから、「しまった」と口を塞いだが、時すでに遅し。
完全に名前を忘れしてしまった女子生徒は「なんだ、水本君って女の子に興味があるんじゃん」と今度は安堵の溜め息を吐いた。
「あのさ、このゼミで俺はどういうふうに思われているの?」
「常に冷めていて、女性に興味をもてない男子」
「あ・・・そうだったの」EDやら、機能不全だ、興味をもてないなどと散々な言われようだが、そう見えてしまうのだから仕方がない。
「親友の私としては希実を応援したいんだ」
清輝は、その応援している親友の名前を忘れている。
「まあ、俺なりにできることをやるよ」
「お願いね。それから、私は
必死に隠しているつもりだったが、由衣にはバレバレだった。
その後、清輝は半強制的に由衣とも連絡先を交換した。
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