第15話 プロデュース 一時断念

「kiyo、お前の手腕を見込んで頼みがある。このままもう1人のプロデュースを始めて欲しい」



プルル、プルル、出ない。茜に「教えてほしいことがあるんだけど」と打ち込むと、ゼミの課題を再開させた。

アルバイトが高校生と大学生で固まっていると、テスト期間で一斉に休む。まあ、それを承知で採用しているのだから、文句を言われる筋合いもないが、夜勤の年配のおばさんのことを、清輝と茜は「口うるさいババア」と悪態を吐いていた。

「好きなときに休めていいねえ。学生はお気楽だ」とネチネチと嫌味を言われるのに辟易していた。

              


プルル、プルル、清輝のスマホが鳴る。茜か潤のどちらかだろう。

潤はテストで死ぬかもしれないと、簡単に死を予告していた。潤は4年生になろうというのに、まだ単位を取り終えていない。焦る気持ちはわかるが言うことが大袈裟だ。

「水本さん、どうしたんですか?」相手は茜だった。

「テスト勉強は大丈夫?」

「全然大丈夫じゃないですけど、とりあえずやってはいます」茜の声に力がない。

「あのさ、取り急ぎってわけじゃないんだけど、あのゲームの社長がまたおかしなことを言い始めて」ポンコツ社長が更に壊れたとしか思えない。清輝は、それを確かめたかった。

「おかしなことって何ですか?」

「まだ1人をCランクに昇格させただけなのに、更にもう1人追加された」

「そのことって言いませんでしたっけ?」

「聞いていないね。うん、何も聞いていない」



「ごめんなさい。まさかそんなに早くCランクに昇格させると思っていなかったので、すっかり忘れていました。テヘヘッ」姿は見えないが茜はウインクしているようだ。

「いや、そういうのはいいから、説明してくれる?」

「水本さん、文句を言っていたわりには嵌っていませんか?あれれ、おかしいな?」

茜はウインクをスルーされたのが気に食わなかったのか、棘のある言い方をした。

「それはそうかもしれないけれど、茜ちゃんとの約束だし」

「そうです、約束は守らないといけません」

「ねえ、茜ちゃん、俺と喋って試験勉強を放棄しようとしているでしょ?」   

「わかりました。降参です。その通りです。それで何の話でしったっけ?」図星だったのか、茜の口調がいささか乱暴になった。

「え?そこからなの?」

渋々、清輝は一から説明した。どうして1人目の途中でもう1人追加されるのか?それと今後起き得るだろうことについても聞いておくことにした。


「どのアイドルゲームでも大体3人くらいメイン級の扱いをされているじゃないですか?」

言われてみればそうだ。デモ画面に3人しかいないことがある。それはこのゲームに限ったことではなく、アニメなどでも3人で1組の風潮がある。

「だから、そのメイン級のどちらかを同時進行でプロデュースするんです」

「その口ぶりだと3人目の追加もあるってこと?」

「その通りです」

「3人を同時にプロデュースなんてできないよ」

「その為にAuto機能があります。今は始めたばかりだから、えーと、紗枝ちゃんですよね?紗枝ちゃんに関してはAutoが可能になりますよ」


Autoと聞くと便利だが、あのゲームに関しては不安しかない。せっかく紗枝が輝きはじめたのに、任せっきりにすると黒く淀んでしまいそうだ。


「それで、最終的には5人まで増えます。トリオとクインテッドライブの為です」

「はあ?3人でも無理なのに5人って・・・やっぱりブラック企業じゃん。無理、そんなのは無理、過労死するって!」

「だから、その為のAuto機能なんです。いつも思うんですけれど、水本さんって私の話をちゃんと聞いているんですか?」

「聞いているけれど、人数を増やされると手が回らなくなりそうだ」清輝は指で数え始めるように親指から小指まで順番に立てた。

「トリオやクインテッドでライブが成功すると、一気にステータスが跳ね上がるから、便利といえば便利ですよ」

「ちなみになんだけど、それって強制?」

「強制ではないですけれど、ステータスを上昇させるには手っ取り早いです」

「わかった。俺も試験が近いからしばらくは遊ぶつもりはないけど、覚悟はしておく。勉強中にごめんね」

「もう切っちゃうんですか?もっと話しましょうよ!」

「茜ちゃん、赤点をとると大変だから頑張ったほうがいいよ。高校は義務教育じゃないから留年もあるし」

「はいはい、わかりました。頑張りますよ。水本さんも留年しないように気をつけてくださいね」

「俺は今まで赤点なんて・・・」

ツーツー、切られた。清輝は高校時代、一度も赤点をとらなかった。仲の良かった友人は5科目中3科目赤点をとり、再試験でも赤点。本当に留年するかと思ったが、高校側もそこはある程度妥協してくれる。ただ、まだ高校1年になったばかりの茜に余計なことを吹き込むべきではないし、茜の高校は清輝が通っていた高校とは違い、容赦なく留年させるかもしれない。


学生の本分は・・・などと言うつもりは毛頭ないし、そんなことは微塵も思っていないが、4年生になったら本格的に就職活動が始まる紗枝のプロデュースを後回しにするしかない。

ゲームを開始して13日目、清輝はプロデューサーの仕事を一時中断して、真剣にゼミの課題に取り組んだ。

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