☆15 バレンタインデー(新汰&唯誓)

 一応、立花さんから義理チョコはもらった。

 立花さんのことは嫌いじゃないし普通にうれしい。

 冬島さんからもらえればもっとうれしい。

 たとえ、それが義理チョコだったとしても。



  ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



 放課後になった。

 授業が終わったばかりだというのに暗くなり始めている。

 ずっとそわそわしながら授業を受けていたが冬島さんからもらうことはなかった。

 諦めて帰ることにした。

 いつも通り、紫苑と立花さんとの三人で帰っていた。

 教室では少し喧嘩みたいな感じになっていたけれど、いつのまにか仲直りしていた。

 バレンタインデーの話はもう終わりいつものように何気ない会話をしては笑うを繰り返していた。

 もうすぐいつもの集合場所にしている空き地に着く。

 そこまで行けば二人と別れて一人で帰ることになる。

 そこから家までの帰り道はいつもより長く感じるんじゃないかと思えてきた。

 去年までずっと一人でも平気だったのに、今は一人だと少し寂しく感じるようになった。

 ここで二人と別れたとしても明日も会うというのに。

 例の空き地に着いた。

「じゃあな。新汰!また明日!」

「甘乃。ばいばい」

 二人は手を振って、帰って行った。

 ちょうど、二人が見えなくなったとき、自分のスマホにメッセージの着信が来た。

 もしかしたら、冬島さんかもと思って急いでみた。

 相手は紫苑だった。

 そこに書かれていたのは【気にすんなって。きっと後でもらえるって】。

 今この瞬間に紫苑のせいで希望がなくなった気がした。

 俺は紫苑に【期待させんなアホ!】って返しておいた。

 とりあえず、帰るか。



  ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



 家に着いてすぐに冬島さんからメッセージが来た。

 内容は今から会えるかということだった。

 もちろん、即OK即返信即着替えて即家を出た。

 冬島さんに着きインターホンを鳴らせばすぐに出た。

「いらっしゃい、甘乃くん。上がって上がって」

 ここに英姫えりかさんが居れば、俺が連れ込まれてるように見えるのだろうかとそんなことを一瞬思った。

 冬島家と言えば、お決まりのルールがあるがもうかなり慣れてきて自分の家でもついやってしまうときがある。

 なんでこんなことばかり考えているかというと緊張しているからだ。

 ここへは何度も来ているはずなのにいつもと違う雰囲気がしているように感じた。

 何がどう違うか具体的にはわからなかった。



  ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



 リビングに入ると、冬島さんがドアの前にいた。

「そこで何してるの?」

「そんなこと言うなら、これあげないから」

 そう言って、冬島さんはチョコの入っているであろう小さめ箱を目の前に出した。

「すいません。ください」

 俺はなぜか咄嗟に頭を下げ謝った。

 冬島さんから見れば、なんとしてもチョコを欲しがるヤバい奴に映っているだろう。

 そんなことを考えているとだんだん恥ずかしくなって顔が赤くなっていくのを感じた。

 そっと、冬島さんを見る。

「そ、そこまでしなくてもあげるつもりだったんだけど……」

 冬島さんは少し照れた様子で言った。

「え?そうなの?」

 冬島さんは首を縦に振って頷いた。

 俺は昔からほんの少しだけ冗談と本気の区別がついてなくて、たまに真に受けるときがある。

 明らかなものは当然処理できるが、本気で怒っている雰囲気があるのに冗談だったというものは厳しい。

 今回も冬島さんが少し怒っているように感じた。

 気まずくなり沈黙の時間が一瞬だけあった。

「じゃ、じゃあ改めてこれどうぞ」

 冬島さんはこの状況を変えるためにそう切り出した。

 俺はありがとうと言い、受け取った。

「開けていい?」

 中身が気になり冬島さんに訊いた。

「いいよ。恥ずかしいけど」

 赤色のリボンをほどき、茶色い包装をめくり箱を開けた。

 中に入っていたのは、四角いきれいなチョコレートだった。

 色から判断するとミルクチョコレートということがいつも口にしているからわかった。

「これ食べていい?」

「いいよー。あ、そうだ!何か飲む?」

 冬島さんはいつもお茶をだしているが今日は出していないことに気が付いたようで慌てて訊いてきた。

「じゃ、じゃあ。コーヒーで」

 普段コーヒーは飲まないがちょっとかっこつけてしまった。

 冬島さんはわかったと頷き、キッチンの方に行った。

 待っている間にリビングを少し見渡すと透明な包装に入ったお菓子を見つけた。

 気になって近づくと、それはカップケーキだった。ところどころに黒い斑点が見えたためチョコチップ入りのカップケーキだと判断した。

 かわいくラッピングされていたので誰かに渡す用なんだろう。

 それは勝手に姉であるえりかさんへの物だと感じた。

「はい、どうぞ。ここにお砂糖とミルク置いとくね」

 冬島さんはそう言って、淹れたてのコーヒーを俺に砂糖とミルクをダイニングテーブルに置いた。

「あ、チョコどうだった?」

「美味しいよ。やっぱり冬島さん料理とかお菓子作り上手だね」

 思ったことをそのまま冬島さんに言うと、冬島さんの顔が少し赤くなっていた。

 でも、それは恥ずかしさというよりも照れているようだった。

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星空に誓う まれ @mare9887

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