裏返しの想いと反転のキス

うたこ

プロローグ

 姉はどうしようもない人だった。

 家族にひたすらに迷惑をかけ、疲労させ、そしてあっさり、あっけなく死んだ。唯一僕が彼女のことを褒めてやれるとしたら、事故を起こした時に赤の他人を巻き込んで殺してしまわなかったことだけだ。

 とんでもないことをしてくれたくせに、棺に収まる姉は綺麗な顔をしていた。その姿が人に迷惑をかけるだけかけたくせに、悪びれることなどなかった姉らくて、死んでいるのに悪態をつきたくなるほど苦々しく思った。

 他に死者は出なかったが、事故の後は大変だった。他人の車を盗み、無免許で暴走し、ガードレールを突き破って川に転落したと聞いた時は姉の死を悲しむよりどれだけの請求が家に来るのかと怯えたくらいだ。

 無い車の持ち主が、犯人の死亡を気の毒がり保険会社に請求するから、と気を遣ってくれた。流石に娘が死んで両親は打ちひしがれてやつれていたのを見たせいかもしれない。彼には何の非もないのに。それもまた、ひたすら申し訳なくて、両親と共に頭を下げた。ガードレール代+アルファ程度の支払いで済むと分かって胸をなで下ろした事故から約一ヶ月後に、やっと姉が本当に死んだという事実に思い当たって、ほんの少し寂しい気分にはなった。それすら、もうあの女に酷い目に遭わされることはないんだ、という気持ちと同時に湧いた程度のものだ。

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